[7月11日12:24.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”134号8号車内→JR東京駅]
私の名前は愛原学。
都内で探偵事務所を経営している。
私は今、助手の高橋君と共にBOWの輸送をBSAAから依頼され、新幹線で帰京しているところである。
そのBOW、元は人間の少女を改造したものであり、普段は12〜13歳くらいの少女の姿をしている。
新幹線には初めて乗るのか、ずっと車窓を眺めたままだった。
彼女は旧アンブレラに拉致され、実験体にされつつも、見事に投与された新型ウィルスを取り込んだ成功例であるという。
失敗例は死に絶えるか、クリーチャーに変貌して殺処分の憂き目に遭ったのだという。
私は思う。
他にもリサみたいな成功例がどこかで生存していて、未だに発見されていない秘密の研究施設に閉じ込められているのではないかと。
尚、リサという名前は仮名である。
拉致前はちゃんとした名前があったようだが、実験体となってからは振られた番号でしか呼ばれなかった。
アメリカで似たような実験をさせられた少女に、『リサ・トレヴァー』というコがいた。
日本の旧アンブレラ職員の手記にこの名前が出て来たので、私は便宜上、今輸送中の彼女のことをそう呼んでいる。
オリジナルのリサ・トレヴァーは、(実験体にされる前は)黒髪に白い肌、目鼻立ちがはっきりした美少女だったという。
こっちの『リサ』も、負けず劣らずだ。
もっとも、こちらは日本人である。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線と京葉線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
上野駅の地下トンネルを出た列車は、再び秋葉原で地上に出た。
進行方向左手には、ヨドバシAkibaの建物がある。
愛原:「どうだい?珍しい?」
リサ:「うん……」
霧生市は地方都市で、そんなに高い建物も建っていなかったからな。
また、ヘリコプターやトラックで輸送されていたというのなら、景色を見る余裕も無かったかもしれない。
高橋:「今のうちに目に焼き付けておいた方がいいぜ。どうせまた研究所暮らしだろ」
愛原:「それは分からんぞ。政府直轄の研究所での研究は終わったというし、病院での検査も終わったじゃないか」
高橋:「どこに連れて行くか教えてくれない時点で、【お察しください】ですよ」
愛原:「将来はエージェントとして働いてもらいたいというコを、邪険にするとは思えないけどねぇ……」
私は首を傾げた。
そうしているうちに列車は減速し、ホームに滑り込んだ。
愛原:「よし、着いた。降りようか」
高橋:「はい」
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。23番線に到着の電車は、折り返し12時36分発、“やまびこ”51号、盛岡行きとなります。……」〕
私達は前の乗客に続いてホームに降りた。
この後、リサをどうすればいいのだろう?
そんなことを考えていると、私は声を掛けられた。
BSAA職員:「お疲れ様です。BSAA極東支部日本地区本部の者です」
身分証を見せながら、にこやかにスーツ姿の男がやってきた。
こちらはサングラスを掛けていなかった。
……と思ったら、近くにサングラスを掛けた者も1人いた。
愛原:「あ、どうも。私立探偵の愛原です」
職員:「御協力感謝致します。どうぞ、こちらへ」
私はにこやかな顔の職員と、屈強なサングラスの職員の2人に前後を挟まれ、コンコースを歩いた。
改札口を出て連れて行かれた場所は八重洲中央口。
タクシー乗り場や一般車乗降場がある所。
職員:「それではここで解散致しましょう。お渡ししたいものがございます。まずこちらがお帰りの際に使って頂きたいタクシーチケット、それと同意書の控えと振込明細書のコピーです」
愛原:「振込明細書?」
職員:「はい。今回の件に御協力頂いた謝礼金の半分を、まずは振り込ませて頂きました。残りの半分は、後ほど振り込ませて頂きます」
同意書の中には、当然ながら今回の件について口外しないようなことが書かれていた。
これくらいお安い御用だ。
探偵には守秘義務がある。
クライアントの情報をペラペラ口外しないことなど、当たり前のことだ。
愛原:「それじゃリサ、元気でやるんだよ?」
リサ:「また……会える?」
愛原:「会えるさ、きっと」
高橋:「どうだかな?このまま中国のバイオハザード地帯に連れて行かれて、向こうのBOWと戦わされるかもしれねーぜ?なあ?」
職員:「……我々としては是非ともそういう感じで働いてもらいたいのですが、まあ、色々とありまして……」
職員はそう言うだけだった。
恐らく、日本政府側の意向もあるのだろう。
日本政府としては政府のエージェントして働いてもらいたいらしい。
国連と、BOWの取り合いか。
姿形が化け物なら不要物だろうが、リサは人間の姿と自我を保てている希少な成功例だからな。
愛原:「そういうことだ。だからきっと大事にしてもらえるよ?」
職員:「それは保証します」
リサ:「うん……」
職員:「そろそろ時間ですので、私達はこれで失礼致します」
愛原:「はい。また彼女絡みで何かありましたら、是非とも御依頼ください。バイオハザードを生き抜いた探偵なんて私達だけでしょうから。一民間人ではありますけど、恐らくどの探偵よりもお役に立てると思います」
職員:「……今、彼女のことなら何でもすると仰いましたか?」
職員はピタリと足を止め、くるっと振り向いた。
愛原:「は?……はあ、私達にできることでしたら」
職員:「そうですか。頼もしいお言葉、ありがとうございます。是非とも、前向きに検討させて頂きます」
職員はそう言うと、今度こそリサを車に乗せて立ち去った。
愛原:「何なんだろう?」
高橋:「先生、ちょっと墓穴掘ったかもしれないですね」
愛原:「ええっ?」
高橋:「ありゃ、何か企んでる顔でしたよ。もしかしたら、先生のお言葉を真に受けて、何かとんでもない厄介事を押し付けてくるつもりではないでしょうか?」
愛原:「う……!た、高橋君!探偵たるもの、仕事を選んではいかんよ!相手はBSAAだ。きっと高い依頼料を払ってくれるぞ!」
私は半分だけ振り込まれた明細書を見た。
その額、【お察しください】。
これで半分だ。
BSAAの下請けに入れたら、事務所が大きくなれるかもしれんな!
高橋君の不安顔をよそに、私はBSAAからもらったタクシーチケットを手にタクシー乗り場へと向かったのだった。
私の名前は愛原学。
都内で探偵事務所を経営している。
私は今、助手の高橋君と共にBOWの輸送をBSAAから依頼され、新幹線で帰京しているところである。
そのBOW、元は人間の少女を改造したものであり、普段は12〜13歳くらいの少女の姿をしている。
新幹線には初めて乗るのか、ずっと車窓を眺めたままだった。
彼女は旧アンブレラに拉致され、実験体にされつつも、見事に投与された新型ウィルスを取り込んだ成功例であるという。
失敗例は死に絶えるか、クリーチャーに変貌して殺処分の憂き目に遭ったのだという。
私は思う。
他にもリサみたいな成功例がどこかで生存していて、未だに発見されていない秘密の研究施設に閉じ込められているのではないかと。
尚、リサという名前は仮名である。
拉致前はちゃんとした名前があったようだが、実験体となってからは振られた番号でしか呼ばれなかった。
アメリカで似たような実験をさせられた少女に、『リサ・トレヴァー』というコがいた。
日本の旧アンブレラ職員の手記にこの名前が出て来たので、私は便宜上、今輸送中の彼女のことをそう呼んでいる。
オリジナルのリサ・トレヴァーは、(実験体にされる前は)黒髪に白い肌、目鼻立ちがはっきりした美少女だったという。
こっちの『リサ』も、負けず劣らずだ。
もっとも、こちらは日本人である。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線と京葉線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
上野駅の地下トンネルを出た列車は、再び秋葉原で地上に出た。
進行方向左手には、ヨドバシAkibaの建物がある。
愛原:「どうだい?珍しい?」
リサ:「うん……」
霧生市は地方都市で、そんなに高い建物も建っていなかったからな。
また、ヘリコプターやトラックで輸送されていたというのなら、景色を見る余裕も無かったかもしれない。
高橋:「今のうちに目に焼き付けておいた方がいいぜ。どうせまた研究所暮らしだろ」
愛原:「それは分からんぞ。政府直轄の研究所での研究は終わったというし、病院での検査も終わったじゃないか」
高橋:「どこに連れて行くか教えてくれない時点で、【お察しください】ですよ」
愛原:「将来はエージェントとして働いてもらいたいというコを、邪険にするとは思えないけどねぇ……」
私は首を傾げた。
そうしているうちに列車は減速し、ホームに滑り込んだ。
愛原:「よし、着いた。降りようか」
高橋:「はい」
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。23番線に到着の電車は、折り返し12時36分発、“やまびこ”51号、盛岡行きとなります。……」〕
私達は前の乗客に続いてホームに降りた。
この後、リサをどうすればいいのだろう?
そんなことを考えていると、私は声を掛けられた。
BSAA職員:「お疲れ様です。BSAA極東支部日本地区本部の者です」
身分証を見せながら、にこやかにスーツ姿の男がやってきた。
こちらはサングラスを掛けていなかった。
……と思ったら、近くにサングラスを掛けた者も1人いた。
愛原:「あ、どうも。私立探偵の愛原です」
職員:「御協力感謝致します。どうぞ、こちらへ」
私はにこやかな顔の職員と、屈強なサングラスの職員の2人に前後を挟まれ、コンコースを歩いた。
改札口を出て連れて行かれた場所は八重洲中央口。
タクシー乗り場や一般車乗降場がある所。
職員:「それではここで解散致しましょう。お渡ししたいものがございます。まずこちらがお帰りの際に使って頂きたいタクシーチケット、それと同意書の控えと振込明細書のコピーです」
愛原:「振込明細書?」
職員:「はい。今回の件に御協力頂いた謝礼金の半分を、まずは振り込ませて頂きました。残りの半分は、後ほど振り込ませて頂きます」
同意書の中には、当然ながら今回の件について口外しないようなことが書かれていた。
これくらいお安い御用だ。
探偵には守秘義務がある。
クライアントの情報をペラペラ口外しないことなど、当たり前のことだ。
愛原:「それじゃリサ、元気でやるんだよ?」
リサ:「また……会える?」
愛原:「会えるさ、きっと」
高橋:「どうだかな?このまま中国のバイオハザード地帯に連れて行かれて、向こうのBOWと戦わされるかもしれねーぜ?なあ?」
職員:「……我々としては是非ともそういう感じで働いてもらいたいのですが、まあ、色々とありまして……」
職員はそう言うだけだった。
恐らく、日本政府側の意向もあるのだろう。
日本政府としては政府のエージェントして働いてもらいたいらしい。
国連と、BOWの取り合いか。
姿形が化け物なら不要物だろうが、リサは人間の姿と自我を保てている希少な成功例だからな。
愛原:「そういうことだ。だからきっと大事にしてもらえるよ?」
職員:「それは保証します」
リサ:「うん……」
職員:「そろそろ時間ですので、私達はこれで失礼致します」
愛原:「はい。また彼女絡みで何かありましたら、是非とも御依頼ください。バイオハザードを生き抜いた探偵なんて私達だけでしょうから。一民間人ではありますけど、恐らくどの探偵よりもお役に立てると思います」
職員:「……今、彼女のことなら何でもすると仰いましたか?」
職員はピタリと足を止め、くるっと振り向いた。
愛原:「は?……はあ、私達にできることでしたら」
職員:「そうですか。頼もしいお言葉、ありがとうございます。是非とも、前向きに検討させて頂きます」
職員はそう言うと、今度こそリサを車に乗せて立ち去った。
愛原:「何なんだろう?」
高橋:「先生、ちょっと墓穴掘ったかもしれないですね」
愛原:「ええっ?」
高橋:「ありゃ、何か企んでる顔でしたよ。もしかしたら、先生のお言葉を真に受けて、何かとんでもない厄介事を押し付けてくるつもりではないでしょうか?」
愛原:「う……!た、高橋君!探偵たるもの、仕事を選んではいかんよ!相手はBSAAだ。きっと高い依頼料を払ってくれるぞ!」
私は半分だけ振り込まれた明細書を見た。
その額、【お察しください】。
これで半分だ。
BSAAの下請けに入れたら、事務所が大きくなれるかもしれんな!
高橋君の不安顔をよそに、私はBSAAからもらったタクシーチケットを手にタクシー乗り場へと向かったのだった。