報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔力の急上昇?」

2018-01-08 19:17:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日23:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F客間]

 マリアはベッドに潜り込んだ。
 シングルサイズのエアーベッドは、屋敷で使用しているセミダブルのそれと比べれば幅は狭い。
 それでも、柔らかさは遜色無かった。

 マリア:「御両親にも認めてもらい、あとは……どうすればいいかな?」
 ミク人形:「…………」
 ハク人形:「…………」
 マリア:「まあいいや。そのうち、思いつくだろう」

 『あとは体だけ!』だと思った紳士処君、少し落ち着こう。

 マリア:「明日はユウタが映画観に連れて行ってくれるっていうし……。うーん……」

 室内の暖房はオイルヒーターを使用している。
 その為、室内の音といったら、借りている目覚まし時計の秒針の音くらいか。
 人によってはそれが気になって眠れないという者もいるだろうが、マリアはそんなことは無いようだ。

 ブゥン!ブゥン!(テーブルの上に置いた水晶球が光る)

 マリア:「ううん……」

 マリアは布団を頭から被った。

 ハク人形:「……!」
 ミク人形:「……!」

 ミク人形とハク人形がマリアを揺さぶり起こす。

 マリア:「何よぉ……。せっかく寝入り掛けたのに……」

 水晶球が鈍く点滅しているのを認識する。

 マリア:「なに?別に、師匠からの通信ってわけじゃないみたいだけど……」

 マリアは水晶球に近づいた。
 そこには何かが映っている。

 マリア:「……?」

 燃え盛る家の映像であった。
 戸建てというよりは、何かの集合住宅か。

 マリア:「何の映像、これ……?くだらない」

 マリアは水晶球の映像を消した。

 マリア:「寝よう寝よう」

 マリアは大欠伸をして、ベッドの中に入った。

[12月30日02:35.天候:晴 稲生家2F稲生の部屋]

 稲生:「妙〜法蓮華経〜方便品第二〜。爾時世尊従三昧安詳……ん?」

 稲生が丑寅勤行を始めたばかりの頃、外が騒がしかった。
 消防車のサイレンの音がやたら近くで聞こえてくる。

 稲生:「何だ何だ?」

 部屋のカーテンを開ける。

 稲生:「わっ!?」

 すると、道を挟んで向かいのマンションから火の手が上がっていた。

 稲生:「わあっ!火事だーっ!」

 稲生は急いで部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。
 が!

 稲生:「わあっ!?」

 足を踏み外して、階段から転げ落ちた。

 マリア:「!!!」

 それまでマリアは眠っていたのだが、消防車のサイレンの音ではなく、むしろ稲生が階段から転げ落ちる音で目が覚めた。

 マリア:「何の音!?」

 マリアはワンピース型の寝巻を着ていたのだが、その上からローブを羽織って客間の外に出た。

 宗一郎:「何をやってるんだ、勇太?」
 稲生:「いてててて……」
 佳子:「いくらお向かいが火事だからって、そんなに慌てることないでしょう?」
 稲生:「で、でも……!」
 マリア:「Yuta.What happend?Are you ok?(ユウタ、どうしたの?大丈夫?)」
 稲生:「向かいのマンションが火事なんです!こっちに飛び火する前に、逃げないと!

 稲生は英語でマリアに言った。

 マリア:「What!?」
 宗一郎:「しかし、もう消防車は到着してるんだろう?特にこっちに避難指示とか来てないし、大丈夫なんじゃないか?」
 稲生:「僕、ちょっと様子を見て来る」
 マリア:「ワ、私モ行ッテ来マス!」

 稲生はコートだけ持って来たが、マリアはちゃんと魔法の杖まで持って来た。
 そこが見習とマスターの違いか。

 外に出ると、当然ながら大騒ぎだった。
 消火活動の為、市道である与野中央通りが通行止めになるほどである。
 しかも、近所の住民達が押し掛けて、てんやわんやであった。
 もちろん、実際の消火活動に関しては、完全に規制線が張られているわけだが……。

 稲生:「うあ!?鉄筋コンクリートのマンションなのに、よく燃えてるなぁ!」
 マリア:「どうやら住人達の避難も無事済んでるみたいだし、あとは消防士達に任せて……
 消防士:「いけません、奥さん!危険です!」
 女性:「仁奈が!仁奈がまだ中にいるんです!」
 稲生:「はあ!?」
 マリア:「What’s!?」
 女性:「404号室です!一緒に逃げてきたはずなのに、いなくて……!」

 稲生はマンションの4階部分を見上げた。
 ……完全に火に包まれていた。

 稲生:「あっ!こ、こりゃもうアカン!唱題してもダメ!御祈念してもダメ!」
 女性:「あぁあぁあぁぁ!!」
 マリア:「い、いや、もしかしたらまだ奥の方は大丈夫かも……。! そうだ、この際だから腕試しをしてみよう

 マリアは建物の陰に隠れた。

 稲生「マリアさん、どうしたんですか?
 マリア:「師匠の課題をクリアしてみせる!……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!我を北与野コーポ404号室へ飛ばしたまえ!ルゥ・ラ!

 マリアは魔法の杖を高く上に振り上げた。

 稲生:「えっ!?だって、魔法陣も描かずに……って、消えた」

[12月30日02:53.天候:晴 北与野コーポ404号室→北与野コーポ裏庭]

 ポンッ!

 マリア:「ここか!?北与野コーポ404号室は!?……うへっ!

 どうやら成功したらしいが、既にこの部屋にも煙が充満していた。

 マリア:「ミクとハク!ニナとやらを捜して!
 ミク人形:「了解!」
 ハク人形:「了解!」

 で、ミク人形がすぐに見つけた。
 どうやら、少しでも水のある所に避難していたらしい。
 風呂場で見つかった。
 マンションがあるが故、浴室にも窓は無い。

 マリア:「助ケニ来タヨ!」
 仁奈:「誰!?」
 マリア:「掴マッテ!」

 マリアは仁奈という少女をしっかり手で受け止めた。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!元の場所へ戻れ!ルゥ・ラ!

 ポンッ!

 稲生:「わっ、ちゃんと戻って来た!」
 マリア:「このコでいいだろう。さ、早くママの所へ行きなさい
 仁奈:「なに……?」
 稲生:「キミはもう助かったんだ。あっちにキミのママがいる。早く行くんだ」
 仁奈:「う、うん!」
 マリア:「逃げ遅れ者はこんなところだろう。急いで帰ろう
 稲生:「そうですね。子供とはいえ、魔法を見られたわけですから

 稲生とマリアは急いで家に引き上げた。

 稲生:「魔法で人助けをしましたね。これで課題クリアですか!?
 マリア:「分かんないけど、取りあえず魔法陣を描かずにピンポイント移動できるようになったから、自分でも凄い上達ぶりだと思う!
 稲生:「やりましたね!

 まだまだマンションの火災は年末の夜空を焦がすほどであったが、後のニュースで、そんな大火事であったにも関わらず、死者はゼロであったとのことだ。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「29日の夜」

2018-01-08 14:50:06 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日18:00.天候:晴 稲生家2F 稲生の部屋]

 稲生:「えっ、元旦勤行ですか?」

 稲生は自室で藤谷と電話で話をしていた。

 藤谷:「そう。稲生君、実家に帰って来たんだって?年末年始はいるんだろ?元旦勤行に来いよ」
 稲生:「言われなくても行きますよ」
 藤谷:「おおっ!そう来なくちゃ!」
 稲生:「栗原江蓮さんも来ますか?」
 藤谷:「栗原さんな。毎年来てるから、来るんじゃないか」
 稲生:「それってキノも一緒に?毎回思うんですけど、地獄界の獄卒が一緒に来ちゃマズいんじゃないですかね?」
 藤谷:「俺は知らんが、向こうも気を使ってるのか、三門の入口で待ってるよ。ほら、キミがまだ威吹君と一緒にいた頃だ。よく2人して、そこで待ってただろ」
 稲生:「そんなこともありましたね」
 藤谷:「イリーナ先生は来てるのか?」
 稲生:「先生は先生でやることがあるので、正月三が日までは僕達と別行動ですよ」
 藤谷:「ありゃ、そうなのかい?せっかく先生に、藤谷組の将来を占ってもらおうと思ったのに……」
 稲生:「お気持ちは分かりますが、それ日蓮正宗信徒の言葉じゃないですよね?」
 藤谷:「イリーナ先生の占いだけは別だ」
 稲生:「だったら、占いを全否定するのはやめてください」
 藤谷:「俺に言われても、御宗門が……」
 稲生:「ま、インチキ占い師が多いから、全否定したくなるのも分かりますけど」
 藤谷:「だろ?だろ?」
 稲生:「そんなに占って欲しかったら、僕が占ってあげますよ」
 藤谷:「キミが?」
 稲生:「ええ。藤谷組が来年も更に業績がアップする為にはどうしたら良いか?という占いですね?」
 藤谷:「そうなんだ」
 稲生:「『御開扉のある日は欠かさずそれに参加すれば、必ず道は開けるでしょう』」
 藤谷:「それができたら、苦労はしねーよ!」
 稲生:「そうですか?」
 藤谷:「だいたい、一体誰がそんなこと言ってたんだ!?」
 稲生:「作者の紹介者」
 藤谷:「おおーい!!」
 稲生:「それじゃ、そういう事で」
 藤谷:「待ってくれ!まだ、藤谷班の誓願があと2人……」

 ピッ!(稲生、構わず電話を切る)

 稲生:「さて、そろそろ夕食の時間かな」

 稲生は部屋を出ると、階段を下りた。

 稲生:「マリアさん、そろそろ夕食の時間ですよ」
 マリア:「ああ、分かった」

 マリアはブレザーのポケットに入れてある、ビー玉サイズの水晶球の明かりを消した。
 これが『自動通訳魔法』の源となっているミニ水晶球である。
 稲生は密かに、『球形ポケットWi-Fi』と思っているが。

 稲生:「自動通訳を切ったり入れたり、大変ですね

 稲生はマリアに英語で話しかけた。
 尚、斜字の日本語セリフは、本来彼らが英語で話しているものを読者様に向けて和訳しているものである。
 雲羽小説は分かりやすい台詞言い回しをお約束致します。
 マリアが自動通訳魔法を使用中は、また元の字体に戻ります。

 マリア:「まあ、しょうがない。私の自動通訳、直訳になってることが多くて硬い言い回しになってるんだって?それじゃダメだ。せめて御両親には、私が日本語を学んでいることは主張したい
 稲生:「けして、悪い印象ではないですよ」

 そんなことを話しながら、ダイニングへ向かう。
 家の構造上、客間からそこへ至るには玄関の前を通らなくてはならない。
 と、そこへ……。

 宗一郎:「ただいまぁ」
 稲生:「あっ、お帰り」
 宗一郎:「おー、勇太も帰ってたかー」
 稲生:「父さん、マリアさんも」
 マリア:「オ邪魔シテマス。ヨロシクオ願イシマス」
 宗一郎:「ああ、ごゆっくり。すぐに着替えてくるから、先に夕食食べてて」
 稲生:「分かった」

 稲生が買って来たオードブルは、和食プレートが中心。
 そこに生魚は無い。

 稲生:「煮物とか天ぷらとかありますよ。これなら大丈夫でしょう?
 マリア:「ああ、大丈夫

 急いで着替えて降りてきた宗一郎。

 宗一郎:「何だ、先に食べてて良かったのに」
 稲生:「いいよいいよ。一緒に食べようよ」
 宗一郎:「マリアさんは、お酒はいいのかい?」
 稲生:「ワイン以外の飲み物だと、悪酔いしちゃうんだ」
 宗一郎:「何だ、そうなのか。佳子、ワイン出してあげろよ」
 佳子:「そうね」
 マリア:「No.ドウゾ、オ構イナク」
 稲生:「遠慮しなくていいですよ。どうせ、贈答品を隠し持ってるだけですから、これを機に放出……」
 宗一郎:「人聞きの悪いこと言うな!」
 稲生:「だってこの前、『頂いたお歳暮の処分に困る』とか言ってたじゃない。あのワインもそのうちの1つでしょう?」
 宗一郎:「いや、そりゃそうだが、読者が誤解したらどうするんだ」
 稲生:「大丈夫だって。ささっ、マリアさん、どうぞどうぞ」
 マリア:「Thank you.」
 宗一郎:「ああ、俺にはビールでいい。ほら、勇太も」
 稲生:「はいはい」
 宗一郎:「それじゃ、カンパーイ!」
 稲生:「乾杯!」
 佳子:「乾杯」
 マリア:「Kanpai.」

 それから1時間後……。

 稲生:「……というわけで藤谷班長に元旦勤行に誘われたから、僕の初詣は正証寺にするよ」
 宗一郎:「そうか。まあ、父さん達は氷川神社に行くがな。お前がお寺がいいって言うんなら、それでもいいぞ」
 佳子:「本当ねぇ。今から思えば、どうしてあそこまで反対したのか、不思議なものだわ」
 宗一郎:「おお、そうだ。初詣で思い出した。マリアさんに、ちょっと着てもらいたいものがあるんだ」
 稲生:「えっ?」

 それから……。

 マリア:「Kimono!?」
 稲生:「晴れ着かぁ!」
 佳子:「以前、着物がどうとか言ってたでしょ?ちょうどマリアさんの服のサイズは知ってたから、それであつらえてみたの」
 マリア:「初メテ着マシタ」
 稲生:「これで正証寺に行ったら目立つなぁ」

 尚、ミク人形とハク人形も、人形サイズの晴れ着を着せてもらったという。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「時間の進み具合が遅くてスマソ」

2018-01-08 10:37:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日15:07.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 上落合八丁目バス停→ファミリーマート→稲生家]

 稲生達を乗せたバスは、首都高速さいたま新都心線が地下を走る県道を東に進んでいた。

〔「上落合八丁目です」〕

 そして、新都心西出入口の間にあるバス停に停車する。

 稲生:「すいません、大人2人お願いします」
 運転手:「はい。……はい、どうぞ」

 ピピッ!(稲生、手持ちのSuicaで払う)

 運転手:「はい、ありがとうございました」
 稲生:「どうも」

 バスを降りると、一陣の風が稲生達の間を吹き抜けた。
 パッとマリアが自分のスカートを押さえる。

 稲生:「うっ……埃が……」

 稲生は風に背を向けた。
 それはバスが走り去った方向だが、歩道橋の向こうには新幹線の高架橋が見える。

 稲生:「あれ?E2系が止まってる!?」

 列車が途中で停車しているのが見えた。

 稲生:「うへ……場内停止ってか。ダイヤが乱れてるのか……」

 ATC制御の新幹線に場内信号は無いのだが、あの列車が停車している意味的には同じことだと思う。

 マリア:「ユウタ、早く行こう」
 稲生:「あ、ハイハイ」

 2人は横断歩道を渡った。

 マリア:「ユウタ、ちょっと寄って行っていい?」
 稲生:「いいですよ」

 そして2人はコンビニの中へ……。

 マリア:(こういうのが現地調達とは……)

 マリアの目的は女性ならではの用品の類。

 稲生:(一番くじでも引いて行くかな?)

 買い物を済ませた後は、再び稲生の実家へ。

 稲生:「さあ、着きました。いやあ、遠かったですね」
 マリア:「そりゃ、成田空港経由じゃ、遠くも感じるよ」
 稲生:「さあ、どうぞどうぞ。中へ入ってください」
 マリア:「コホン」

 マリア、咳払いをした後、首に巻いているリボンを直す。

 稲生:「ただいまぁ〜」
 マリア:「コンニチハ」

 マリアはあえて『自動通訳魔法』を解除した。

 佳子:「あら、お帰り。マリアさん、いらっしゃい」

 玄関を開けると、母親の佳子が出迎えてきた。

 稲生:「父さんはまだ?」
 佳子:「今日が会社の仕事納めだからね。でも、夕方には帰って来るよ。マリアさんも来たことだし、今日はお寿司でも取ろうかねぇ……」
 稲生:「いや、マリアさんは生魚は苦手だから、何か頼むんだったらオードブルとかの方がいいよ」
 佳子:「そうなの」
 稲生:「僕が注文しておく。後で取りに行くから」
 佳子:「分かったわ」

 稲生は先にマリアを部屋に案内した。

 稲生:「いつもの部屋ですが、ここを使ってください」
 マリア:「折り畳みベッド?」
 稲生:「いや、今回は先生がいないので、こちらの膨らむ方で」

 来客用ベッドである。
 稲生家には折り畳み式とエアーベッドがあるが、後者の方が柔らかい。

 稲生:「じゃ、僕は自分の部屋に荷物を置いて来ます」
 マリア:「ああ、ありがとう」

 稲生は真上にある2階の自分の部屋に入った。

 稲生:「屋敷から持って来たノートPCをセッティングして……と。あとは、夕食のオードブルか。これだけ先にネットで注文しておこう」

 その後でまた階下に戻る。

 佳子:「冷蔵庫の飲み物は、自由に飲んでいいからね」
 マリア:「ハイ、アリガトウゴザイマス」
 稲生:「父さんは何時頃帰って来るって?」
 佳子:「いつもの仕事より早く帰って来れるからね、18時頃だってよ」
 稲生:「そうか。……あっ!」
 佳子:「なに?」
 稲生:「父さん、新幹線通勤だよね?今、新幹線は冬の嵐のせいで、ダイヤが乱れてるんだよ」
 佳子:「そうなの」
 稲生:「在来線で帰って来た方がいいと思うな」
 佳子:「でもここ最近、ハイヤーに乗れるようになったって聞いたわよ?」
 稲生:「え!?父さん、役員って……そこまで出世してたっけ???」
 佳子:「何かね、『さる偉い方のアドバイスに従ったら、業績がグングン上がったので、自分みたいな下級役員でもハイヤーに乗れるようになった』って言ってたね」

 マリアはその話を聞いて、ピーンと来た。

 マリア:(師匠が何かしたな……)

 大魔道師に便宜を図った見返りは大きく、そして仇を成した場合の仕返しもまた大きい。
 ダンテの場合、どうやら交渉がこじれたマフィアを完全に潰すことに決定したようである。

 稲生:「でも専用の役員車を使えるようになったというわけじゃなくて、あくまでもタクシー会社のハイヤーを使えるって話でしょ?」
 佳子:「まあ、そういうことでしょうね」

 オフィス街や官庁街などで、黒塗りの高級乗用車が止まっていれば、それと分かる。
 で、その車のナンバーを見てもらいたい。
 白ナンバーと緑ナンバーが混じっているのが分かる。
 後者の場合はそのタクシー会社やハイヤー会社のロゴマークが、申し訳程度に入っていることもある。
 前者は企業や官庁または役員が個人で購入した車に、専属の運転手が運転しているタイプ。
 現在は直接雇いのお抱え運転手よりも、タクシー会社や派遣会社から派遣された運転手が圧倒的に多い。
 後者は完全に車の所有から運転手の所属まで、1つのタクシーまたはハイヤー会社。
 その為、営業ナンバーたる緑ナンバーになるのである。
 どちらも高級車を使用し、社会的地位の高い者がリアシートに乗るという意味では同じなのであるが、企業内部においては前者の方が格上とされる場合がある。

 稲生:「大聖人様への祈りが通じたかな?はっはっはー!」
 マリア:(いや、99パーの確率で、師匠が何かした)

 マリアは部外者ながら、この稲生家もイリーナの手の上に乗ってしまっていることを認識し、冷や汗と背筋の寒さを感じた。

 稲生:「あ、そうそう。オードブルは注文したから、後で取りに行くよ」
 佳子:「ええ」

 稲生はまた自分の部屋に戻ろうとした。

 マリア:「あ、あの、ユウタ」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「その……師匠が、『この家の人達にはお世話になっているから、色々とお礼をしたい』と……言っていたんだけど……」
 稲生:「何だ、そんなことですか。別に、気を使って頂く必要は無いんですよ」
 マリア:「師匠は恐らく、そういう『気遣いをする者』ではないと思う。契約で動く人だ」
 稲生:「でもおかげで、両親が裕福な生活ができるんですから、ありがたいですよ。後で、オードブル取りに行きますから」
 マリア:「あ、ああ。(そうじゃなくて、師匠の手の上から落ちるようなことがあったらヤバいって話をしたいんだけど……。上手く説明できない)」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする