報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「成田を出発」

2018-01-03 20:17:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日10:10.天候:晴 成田空港駅JR線乗り場]

 稲生:「これが先生方のチケットです。東京……というか、新宿までなんですね」
 ダンテ:「ああ。そこのホテルで、皆と落ち合うことになっている」
 稲生:「そうでしたか。先生方はグリーン車です」
 ダンテ:「おっ、ありがとう」
 イリーナ:「ユウタ君、今度からダンテ先生にはリムジンを用意してあげてね。といっても、“エアポートリムジン”バスではなく、ハイヤード・カーの方ね」
 稲生:「す、すいません」
 ダンテ:「ハハハハ!いいよいいよ。本当ならば、魔道師は魔道師らしく、瞬間移動魔法で移動すれば良いのだ。それを横着して、乗り物に乗って行こうという魂胆だ。ちゃんと人間の乗る乗り物であれば、何だっていいよ」
 イリーナ:「私なんか、アメリカンエキスプレスの件が無ければ、貨物列車や貨物船で移動でしたわよ?」
 ダンテ:「あの時のキミには是非とも、『せめて旅客用の乗り物には乗れるくらい稼ごうな?』と指導したいくらいだよ」
 稲生:「それが今や飛行機のファーストクラスやグリーン車なんですから、尊敬しますよ」
 ダンテ:「さっきのホテル代やこの電車代は私の自前であるが、飛行機代に関してはロスの市長から進呈してもらったものだ」
 稲生:「それでも凄いです」
 イリーナ:「先生。そろそろ行きませんと、電車の発車する時間ですわ。日本の電車は時間通りですから、却って慌ただしいですからね」
 ダンテ:「それもそうだな」
 稲生:「先生方が乗られる電車は途中駅での分割併合がありませんが、真ん中の6号車ですから、お間違えの無いようにお願いしますね」
 ダンテ:「ああ、分かった」
 イリーナ:「ユウタ君達も、一緒に乗ればいいのに」
 稲生:「いえ、僕達はちょっとルートが……はい」

 稲生は両手を振った。

 ダンテ:「それではこれにて失礼する。Have a happy new year!(良いお年を)」
 稲生:「は、はい!失礼します!良いお年を!」

 稲生はババッと最敬礼の姿勢を取った。
 やはり欧米人にとって、日本人のお辞儀は目を見張るものがあるらしい。

 稲生:「あー、ビックリした。まさか、大師匠様から『良いお年を』って言われるなんて……」
 マリア:「というかユウタ、よく和訳できたな?」
 稲生:「ハブとハッピー・ニュー・イヤーが聞こえたんで、多分、『良いお年を』という意味だと思いました」
 マリア:「多分、ユウタが日本人だから、1番分かりやすい言い方をされたんだと思うな」
 稲生:「そうなんですか?」
 マリア:「イギリスじゃせいぜい、Enjoy the holidays!なんだよ。ま、目上の人に対してだとか、正式な挨拶文としては使わないけど」
 稲生:「holidayって、『休日』のことでしょ?それだけで『新年』になるんですか?」
 マリア:「日本と文化の違い。欧米では既にクリスマスから新年を祝うムードになってる。日本では1月1日は特別な日らしいけど、こっちはクリスマスからの冬休み期間中なだけだから。つまり、クリスマスから続く休日の一部をどうぞお楽しみにって直訳になるんだ」
 稲生:「へえ、そうなんですか!」
 マリア:「英語ではね。ノーコメントを貫いていた師匠のロシア語では何て言うのかは、【お察しください】」

 マリアが話せるのは英語と片言の日本語だけ。
 ロシア語はさっぱり分からない。
 ハイスクールの授業にフランス語があった記憶はあるが、それもさっぱりである。

 マリア:「で、私達はどうする?」
 稲生:「僕達は普通に京成で都内へ向かいます」
 マリア:「分かった」

 稲生とマリアは京成線乗り場に向かった。
 といっても、JR乗り場のすぐ隣であるが。

[同日10:28.天候:晴 成田空港駅京成線乗り場→京成線特急電車内]

 稲生達が乗り込んだのは8両編成の通勤電車。
 そこの最後尾に乗り込んだ。

 稲生:(3600形か。趣があるなぁ……)

 そう思ったのは壁の色が濃いクリーム色で、座席の色がえんじ色であったからだ。
 もっとも、優先席はグレーであるが。
 ドア横の席にマリアと並んで座る。

〔「本日も京成電車をご利用頂き、ありがとうございます。この電車は京成本線回りの特急、上野行きです。停車駅は空港第2ビル、成田、公津の杜、宗吾参道、酒々井、大佐倉、佐倉、勝田台、八千代台、津田沼、船橋、八幡、高砂、青砥、日暮里、終点上野の順に止まります。……」〕

 マリア:「これでどこまで?」
 稲生:「終点です。上野まで」
 マリア:「ふーん……?まあ、いいや。どこか面白い所にでも行くのか?」
 稲生:「ちょっと買い物が……」
 マリア:「買い物。ま、いいや、付き合うよ」

〔「まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 座席がほぼ埋まるくらいになる頃、発車の時間になる。
 JRホームには発車メロディがあるが、こちらの京成ホームの方には無い。
 普通の発車ベル(電子電鈴)が鳴り響く。

〔「2番線から特急、上野行き発車致します。閉まるドアに、ご注意ください。次は、空港第2ビルに停車致します」〕

 ドアが何回か開閉するかと思いきや、意外とすんなり1回で閉まった。
 最後尾にいるせいか、車掌の動作がよく見える。
 発車合図のブザーが聞こえて来て、その後で電車が走り出した。

 稲生:「……うん。“最終電車”じゃない」
 マリア:「まだ気にしてるの?」
 稲生:「いや、ハハハ……」

〔「ご乗車ありがとうございます。特急、上野行きです。次は空港第2ビル、空港第2ビルです」〕

 簡素な放送なのは、次の駅を出てから詳しく案内するつもりだからだろう。

 稲生:「上野に着くのは、だいたいお昼前くらいです。だから、ここから1時間強ですね」
 マリア:「遠いような、近いような……」
 稲生:「上野で目的の買い物をしたら、お昼食べて、それから僕の家に行きましょう」
 マリア:「分かった。御両親はいないのか?」
 稲生:「多分、母親がいると思います。父親は今日が仕事納めなので。今年は忙しいので、仕事納めが1日ズレ込んだとか……」
 マリア:「何だか大変そうだな。本当にいいの?私なんかが行って……」
 稲生:「全然大丈夫ですよ」

 稲生は大きく頷いた。
コメント (8)
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