雨雲が近づく空を事務所の窓から眺めつつ、ようやく自分の時間を持つことができた杉井は、昨夜のことを思い返していた。
昨夜に自分達の党派の主張が退けられたと決定した瞬間、代表者である北野の横顔に向かって、杉井は小さく言った。
「北野さん、お疲れ様だったね。 次のことは考えているんだろう?」
すると、北野は屈託のない顔で即座に切り返した。
「もちろんですよ。 もう関わることなんてありませんから」
杉井はその表情を見ながら思った。
(変わらんな、この人は)
(相変わらず他人全てを己の物差しで測れると考えているままで、ポジションを去ろうとしている)
結果を公式のように割り切ってサバサバとした風情の北野だが、過去に事実上色々と進言していたのは杉井であった。 世間では北野の発言と行動が目立っており、杉井はあくまでも追従しているかの姿勢をとっていたのだが。
対抗勢力の老獪さが勝った。 さらに何よりも有権者の思考を読むことに北野も周囲の陣営も失敗した。 杉井が幾度となく作戦の方法を提案したが、完全に聞き入れられたとは云い難い。
普段はスタッフが居て騒がしく、観ることもないテレビのスイッチを、気まぐれに珍しく入れてみる。 政治をほとんど知らないような人間が、開票結果について適当なコメントをしていた。
「済んでからなら何でもアリかよ」
と、独り言をつぶやいてから、杉井は北野同様に自分も読みの甘い子供だと自嘲的な笑いを浮かべる。
濡れて黒光りした道路の凹んだ箇所を通る時、絶え間なく走る車が水しぶきを上げるのが見えた。 問題だらけの街を山積みの課題が疾走しているかの如くに。
∽∽この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません∽∽
昨夜に自分達の党派の主張が退けられたと決定した瞬間、代表者である北野の横顔に向かって、杉井は小さく言った。
「北野さん、お疲れ様だったね。 次のことは考えているんだろう?」
すると、北野は屈託のない顔で即座に切り返した。
「もちろんですよ。 もう関わることなんてありませんから」
杉井はその表情を見ながら思った。
(変わらんな、この人は)
(相変わらず他人全てを己の物差しで測れると考えているままで、ポジションを去ろうとしている)
結果を公式のように割り切ってサバサバとした風情の北野だが、過去に事実上色々と進言していたのは杉井であった。 世間では北野の発言と行動が目立っており、杉井はあくまでも追従しているかの姿勢をとっていたのだが。
対抗勢力の老獪さが勝った。 さらに何よりも有権者の思考を読むことに北野も周囲の陣営も失敗した。 杉井が幾度となく作戦の方法を提案したが、完全に聞き入れられたとは云い難い。
普段はスタッフが居て騒がしく、観ることもないテレビのスイッチを、気まぐれに珍しく入れてみる。 政治をほとんど知らないような人間が、開票結果について適当なコメントをしていた。
「済んでからなら何でもアリかよ」
と、独り言をつぶやいてから、杉井は北野同様に自分も読みの甘い子供だと自嘲的な笑いを浮かべる。
濡れて黒光りした道路の凹んだ箇所を通る時、絶え間なく走る車が水しぶきを上げるのが見えた。 問題だらけの街を山積みの課題が疾走しているかの如くに。
∽∽この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません∽∽