星のひとかけ

文学、音楽、アート、、etc.
好きなもののこと すこしずつ…

だんだん分った 世界の壁とロジャー・ウォーターズの戦争:Roger Waters THE WALL LIVE IN BERLIN

2005-02-28 | MUSICにまつわるあれこれ
Roger Waters THE WALL LIVE IN BERLIN というDVDを買った。

ロジャー・ウォーターズのソロ作品、「RADIO K・A・O・S」(87年)を聴いたのはだいぶ前のこと。それから去年、Jeff Beckがギターで参加していると知って「AMUSED TO DEATH」(92年)を買った。・・・ロジャーのちょっとひょろひょろした声が好きで、それと対照的なソウルフルで、時に緊迫感のあるサウンドが好きで、だから音の面から入った。
けど、ロジャーがなぜ、現代の戦争や社会への危機を歌いつづけるのか、その事をちゃんと考えるようになったのは、昨年彼が、ネット上だけの新作、"To Kill The Child"と"Leaving Beirut"を出して、そこに掲載された歌詞に込められた強烈な反戦、反ブッシュのメッセージを読んでからだった。でも、まだ分っていなかった。

「THE WALL LIVE IN BERLIN」のDVDを見て、、、待てよ、このままでは何にも解らんぞ、、と、それこそ大昔に観ただけの、アラン・パーカー監督の映画「ピンク・フロイド/ザ・ウォール」を改めて観た。で、もう一回、LIVEのDVDを見た。で、やっとやっといろいろ分った。「だんだんわかった」というCHABOさんの詩があるけれど、そう、だんだんわかったんだ。。

1990年7月、その前年にベルリンの壁が崩れたばかりの<ポツダム広場>で、25万人(!)の観衆を前に行なわれたこのLIVEを私は知りません。日本でもTV放映されたそうだけど、知りません。私生活でかなり忙しい時期だったからかな、、それとも、日本ではたいした話題にもならなかったのかな、、よく知らない。

・・・ロジャー・ウォーターズは1944年生まれ。大戦中で、お父さんは戦死。ロジャーにはお父さんの記憶が無い。これも、去年の「AMUSED TO DEATH」の解説で知った。
つまり、「ザ・ウォール」の冒頭、「ダディは海を越えていっちゃった。思い出はアルバムの中の写真1枚・・・」と歌われる主人公の男の子は、ロジャーそのもの。だから彼は、戦争を生涯憎む。そのことを作品化するしか、自分の存在意義は無いかのように。。。正直言って、40代も後半の、大の男が、これほどまで強く父親の影を求めること、「ダディ、、」と歌う、そういうトラウマが、(私も父を亡くしたけど)理解できない部分もある。
・・・思えば、ピート・タウンゼント作の「Tommy」もまったく同じトラウマが底にあるものね。・・・女の子は、兄さんや、恋人に、父親を求めることが、もしかしたら出来るのかもしれないけど、、、男の人は、求めても、求めても、失った父親を永遠に感じることは出来ないんだろうか、だからあんなにも、苦しむんだろうか。。

映画の「ザ・ウォール」は、若きボブ・ゲルドフ演じる主人公の、内面的な「壁」をテーマにしていたけど、「THE WALL LIVE IN BERLIN」ではそれが、東西に分断されたドイツの若者におきかえられる。ロジャーのお父さんを奪った大戦と、東西に肉親を分断し、越境する者の命を奪ってきた<壁>とがつながる。

ロジャーのストーリーに賛同して出演したミュージシャンは少し奇妙な人選。でも演奏も歌も素晴らしい。スコーピオンズ、シンニード・オコーナー、ジョニ・ミッチェル、ブライアン・アダムス、、。だけど彼らは殆ど観衆には見えない。25万人の観衆の眼の前に、どんどん巨大な壁が築かれていく。演奏者は、どんどん閉ざされていって、、しまいには、壁だけになる。壁の向こうで、壁だけを見て歌うミュージシャン、、巨大スクリーンも無い観衆に見えているのは、つい今まで自分たちの国を分断していた<壁>だけ。お客さんに自分の姿は全く見えないのに、壁に向かって歌うヴァン・モリソンら。。これは結構勇気のいることかも。届かない世界へ向かって歌うことの意味を突きつけられる。

でも、<壁>は、この前年に消えたんだよね。。。ロジャーも、インタビューで語っていたけど、ゴルバチョフは、ソ連軍のミリタリーオーケストラを貸してくれたのだそう。そして、壁が崩れ去るのを、大歓声で見守る観衆は、西と東の両方の若者なんだね(なんとこの時まだ統一ドイツにはなっていない、、だからロジャーは、最後の挨拶で、「西から、東から、ありがとう」って言う)。

いやはや、、、鳥肌が立ちました。。巨大な壁の上で奏でられるギターソロに、こらえきれずに号泣しました。・・・最後の歌「THE TIDE IS TURNING(流れが変わる時)」で、マリアンヌ・フェイスフルが頬をぬぐっていたけれど、あのとき新しい希望の中で、本当に流れが変わる!と感じていた世界中の人々は、、いったい今、何を答えたらいいんだろうか。

<壁>は崩れた。フセインの像も崩れ去った。。。その後の苛立ちややるせなさを知った今だから、やっとTHE WALLの苦しみが分るのかもしれない。いや、映画よりもずっとずっとこのDVDは、伝えたい事がよく分る(演奏がとにかく素晴らしいんだ)。

 ***
ロジャー・ウォーターズには関係ないけど、、、じつはこのDVDで、とても驚いた事がある。
・・・出演者の中に、ザ・バンドの、ガース・ハドソン、リック・ダンコ、レヴォン・ヘルムがいた事。・・・ロジャーの音楽性とザ・バンドとは繋がりようもないし、この時代の彼らって、本当に落ちる所まで落ちきった状態じゃなかった・・? 旧メンバーのリチャード・マニュエルは86年に自殺した。旧友のブルースハープ奏者ポール・バターフィールドも87年に死んだ。・・・ぼろぼろの連中に、ロジャーは手を差し伸べたかったのかな。
・・・不思議な光景ではあったけど、、、ヴァン・モリソンらと並んで、エンディングを歌うリックは、嬉しそうだった。。。彼もまた、99年に死ぬのだけど。。

この記事についてブログを書く
« 唐招提寺展の鬼さん | TOP | 春は眩暈の時。。。 »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | MUSICにまつわるあれこれ