星のひとかけ

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書店とカフェは街の必需品…出会いにも、、:『赤いモレスキンの女』アントワーヌ・ローラン著

2022-12-06 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
パトリック・モディアノとアントニオ・タブッキの本をまとめて読んでいたのは、 昨年の夏から今年の夏のこと、、 失われた過去、 消えた女、、 追憶の物語。。

そんな私が この本に行き着いたのは必然、と言えます…ね

前々回 精霊たちに《忘却》を求めて拒否されたバイロンの詩劇のこと、 ちょっと書きましたが、 忘却がかなわないからこそノスタルジーに身を焦がし 想い続ける、、 そのことで生まれるポエジー、、 まさにそんな物語。



『赤いモレスキンの女』アントワーヌ・ローラン著 吉田洋之・訳 新潮クレストブックス 2020年 (原題は La femme au carnet rouge 2014年)

とてもお洒落な素敵な物語です。 そして 狡い物語です 笑。 ずるい、というのはタイトルもそう、、 原題どおりなら 赤いノートの女。。 クレストブックスの中から私がこの本を《読んでみたいリスト》に当時加えたのも、 タイトルのモレスキンがぱっと心に引っ掛かったから。。 赤いノートと 赤いモレスキンでは すでにそこからして《物語》が付加されています、よね。。

そんな意地悪な指摘はどうでも良いです。。 どうでも良いついでに、 この本の《訳者あとがき》は、 あまりにも多く本文の情報を含んでいるので、 読む前にあとがきを読むのはやめましょう。 蛇足ながら。


物語の舞台はパリ。 男が赤いモレスキンの手帳を拾う… だったか、 赤いモレスキンの入ったカバンを拾う… だったかな。。 読む前の情報はこれくらいで良いのです。 さて男はそのあとどうするのでしょう…? モレスキンの手帳は開かずにはいられないでしょうね、、 そのあとは…? 

 ***

この物語はパリの街でこそイメージが拡がり、 とても映像的でだれもが憧れるような、、 読んでいる間じゅう まるで映画を観ているような気分が味わえます。 

パリの街には行ったこともありませんけれど とてもたくさんの個性的な書店が街区ごとに存在しているのでしょうね。。 それと同時に 通りにテーブルを並べたカフェも あちこちにあるのでしょうね。 それらの様子は パトリック・モディアノさんの読書でもたくさん心に刻まれました。

最初に 《狡い》と書いてしまいましたが、、 この《失われたもの》と《もとめる者》とを結びつける素敵にノスタルジックな物語は、 ほんとうに良く出来ているし、 予測できないワクワクやフェイントもじょうずに仕掛けられた上質な作品だけれど、、 あまりにパトリック・モディアノ(やアントニオ・タブッキ)という作家の持つ《物語性》に頼ってしまっている、 ということ かな…

読みながら、 (すてきにこじゃれた大人のおとぎ話では認めてあげませんわよ…)と 意地悪に思っていました。。 だって、 パトリック・モディアノやアントニオ・タブッキは、 決して(すてきにこじゃれた物語)なんかではありませんもの。。 彼らの本が読後に残す《洞穴》のような、、 胸をえぐるもの、、 偉大な作家になり得るか否かは そこの辺りにあるんじゃないかな… なんて、、 これもこの物語には関係のない事デス。。

この本は現代フランス小説の良い読書案内にもなってくれて、、 この本のおかげで何人かの新しい作家さんの名を知りました(フランス文学あまり知らないので…) そうやって読書のあらたな出会いを与えて下さること、、 それは著者アントワーヌ・ローランさんの意図にもきっと適っているいることでしょう。。

本文で言及されている パトリック・モディアノさんの『夜半の事故』という作品や、 アントニオ・タブッキの『可能性のノスタルジー』が、 ぜひとも邦訳されることも期待しています。 

 ***

1月のパリって寒いですよね…  寒いなかでも 通りに出したテーブルで食事したり お茶を飲んたりするのでしょうね。。

東京の街にもたくさんカフェはありますが、 カウンターでメニューから注文して受け取るというスタイルは 私にとってのカフェじゃないんです。 やっぱりパリのようにウェイターが注文を聞きに来て、 それで珈琲を運んできて欲しい。。 でも ナポリタンやハンバーグのあるいわゆる純喫茶も それもカフェじゃないんです、、 なかなかむずかしい。。

この本には書店の風景も登場しますが、、 コロナ禍になって 日本の本屋さんもどんどん厳しい状況になってしまっていますね、、 私も(疾患があるゆえ)すっかり足が遠のいてしまい、 申し訳ない限りなのですが…

味わいのある書店とカフェは その街の文化です。 音楽や芸術と同じように、 無くてはならないもの。。


街の書店に立ち寄って、、 近くのカフェに腰をおろして、、 


かすかなざわめきと 通りを行き交うひとの姿にときおり目をやりながら、、



(夏からすーっと こんなカフェへの憧れを綴ってますね…)



師走のひとときにも 良い読書と くつろぎを。。



パトリック・モディアノに関する過去ログ>>
アントニオ・タブッキに関する過去ログ>>
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