「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「三椏」

2006-04-15 00:08:27 | 和歌

 三椏(ミツマタ)の花に出会った。

 数日前に見かけた三椏は、臙脂の可愛い色だったが、花時が過ぎて既に枯れかけていた。この三椏も所どころ花先が傷み始めているが、次つぎと花を咲かせる三椏にとっては、自然の成り行きだ。不平を言っては三椏に申し訳ない。

 三椏は、楮(コウゾ)と並んで上質な和紙の原料だ。冬の寒さの中で根元から刈りとり、蒸して細い枝の皮を剥ぎ、薄皮を取り除き、何日か晒して繊維を取り出すのは並大抵ではない。
辛い作業に違いあるまい。かつて観た、刈り取り前の三椏畑の情景が想い出された。

 農家の実情はさておき、昨今は花を愛でて庭木に植えるお宅が、めっきり増えてきた。







             三椏の畑を見やればうら寂し 
 
             刈られる己の宿命(さだめ)を知るらし  



             三椏の枝先に咲く「ぼんぼり」は 
 
             刈り取られ逝く手向けなるかも



             ぼんぼりに残る莟も咲かせばや

             いまひと時を三椏 な刈りそ





「花蘇芳」

2006-04-14 00:50:28 | 和歌



 花蘇芳の蕾が鮮やかに色ずいて、固く口を閉ざしていたが、このところの暖かさで艶やかに咲き始めた。虚庵居士は花木のことは詳しくないが、この花が若干青みがかった赤い色の、「蘇芳色」に咲くゆえの命名であろうか。







 我国の先人は万葉の時代から、この色には特別なこだわりがあったようだ。染料とするために、態々熱帯アジアから蘇芳の木の芯材を入手したと、何かの本で読んだ記憶がある。蘇芳は「染」の技法次第では、「紫」にも染められるらしい。古代からの色への拘りにもかかわらず、古典に花蘇芳の名前を見ないのは、意外と古くはない花かも知れない。花色の薄いもの、純白のものなどもあるが、やはり花の名に恥じない「蘇芳色」が好ましい。







             雅なる蘇芳の衣の色にこがれ

             この花めでしやいにしえ人も



             まほろばのいにしえ人の想いならめ

             襲(かさね)の名を負ふ蘇芳の花かも



             枝に満る蘇芳の花の一枝を

             手折る人あり誰に捧ぐや






「姫りんご」

2006-04-13 01:31:17 | 和歌

 姫りんごの蕾が色づいて、程なくして白い花が咲いた。
子供の頃、信州で育った虚庵居士にとっては、りんごの花には殊のほか愛着がある。






 田舎家の広い屋敷には、何本かの大きな林檎の樹があって、花時にはそれらが一斉に咲いた。林檎の花の下に筵をひろげて、家族揃って食事を楽しんだのも遠い昔のことだ。隣町の高等学校に通うようになると、バンカラな校風にも拘らず、歌集には校歌や寮歌と共に、島崎藤村の「初恋」が収められていたのが思い出される。胸に抱いた淡い恋心をその歌詞に重ねて、口ずさんだ甘酸っぱい思い出が、甦ってくる。

 「まだあげ初めし前髪の、林檎のもとに見えしとき・・・」 音符の無い歌集を見ながら、一緒に歌って旋律を教えてくれた先輩も、きっと切ない想いを胸に抱いていたに違いあるまい。 







             りんご咲く故郷の春をおもほゆる

             人恋そめしせつなき頃を



             咲き初めぬりんごの蕾は愛しけれ

             うす紅の色を湛えて



             夕闇に浮かぶ朧の花影の
 
             ときめく日々ぞ恋しかりけり







「海に い逝くか」

2006-04-12 01:40:32 | 和歌

 佐島の荒磯に、ハマダイコンが咲いていた。

 ハマダイコンは大根の原種、或は畑の大根が浜に順化したものとも言われているが・・・。
何れにせよ縄文の昔から、咲いていたものらしい。







 それにしても、何故にハマダイコンは「もののあはれ」を誘うのであろうか。薄紫の花の色ゆえか、はたまた疎らに咲く姿の故か。



             群れ咲けるハマダイコンに抱かれて

             椰子の実のひとつあはれ朽ちゆく



             ただひとつ流れ来たるや遙かにも 

             己が姿を椰子に重ねて








             磯に咲くハマダイコンは哀しけれ

             海にい逝くか 慕ひし人は



             風に揺るハマダイコンの群花を

             君見つらむか磯の釣り人







「ワラタ」

2006-04-11 00:59:28 | 和歌

 三浦半島の佐島までドライブを楽しんだ。

 活魚料理を食べさせるレストランでは、海を一望出来る芝生のテーブルで、春の陽光を浴びながら新鮮な活魚料理を楽しんだ。ふとテラスに目をやると、個性的で情熱的な花が咲いていた。名前をよく聴かれるのであろう、小さな名札に「ワラタ」と書かれていた。







 帰宅して調べたら、シドニーオリンピックでメダリストに渡される花束に、ワラタが使われたという。約三百回のメダル贈呈式で二千人以上のメダリストに贈られ、思い出が永遠に残るよう「花束の絵」も併せて贈られたという。心憎い気配りだ。    




                (オリンピック委発表の、花束写真)



 ワラタは、ニューサウスウェールズ州の州花で、オーストラリアで最も有名な野生の花と書いてあった。虚庵居士が訪れた時には、残念ながらお目にかかれなかったが、季節外れだったのであろう。白いワラタもあるようだが、この花には、アボリジニ語「赤い花・ワラタ」が相応しい。



             アボリジニの燃える心をオリンピックの

             メダルに添える「赤い花」かな



             ワラタには逢えねど旅の思い出は

             咲き誇りたるジャガランダかな






「二輪草」

2006-04-10 00:21:41 | 和歌

 葉山のゴルフ場近くの林の中に、一叢の白い花が咲いていた。

花に誘われて近寄ってみれば、二輪草の群落であった。切り込みの深い葉の中央に、二本の長い花茎が出ていて、白い花を支える姿が、どことなく頼りなげだ。片一方は花茎も短く、花も遅れて咲くのが、控えめな女性を思わせる。

 ひところ「二輪草」が歌に唄われて、女性ファンをシビレさせたが、自然のままの花には虚庵居士を痺れさせるものがある。







             山あいの林の中に誘うは

             白き一叢 二輪草かな



             控えめに遅れて咲くは妹ならめ

             背の君慕ふや肩を寄せるは



             白妙の二輪の花は寄り添いて

             いたわる気配に咲くぞいとしき

  

             群れて咲く白妙の花風にゆれ

             語らう風情に頷き交わして  







「山笑ふ」

2006-04-09 00:15:44 | 和歌

 急に思い立って、虚庵夫人を伴ってゴルフに出掛け、山の新緑を愉しんだ。

 遅い朝食を食べつつ生垣の輝く緑に触発されて、山の新緑を観に出掛けようということになった。折角出掛けるなら、新緑を観ながらゴルフもやりたいと欲が出て、一石二鳥を愉しむこととなった。三浦半島の山々は、標高が三百メートルに達しない低いものであるが、人間の手が加わっていない自然のままの山並みがかなり残されているので、雑木林が多く、春先の新緑は殊の外美しい。

 所どころに檜の植林山が見えるが、春の新緑を愉しむには、聊か興醒めの景色である。他人様の山に難ぐせをつけるのは、慎まねばならぬのだが・・・。







             つづら折れの道を辿りて登り来れば

             山々笑ふ花曇りかな



             山笑ふ木々の新緑山桜

             谷戸のは のどけからまし








             松さくら赤芽の向こうに笑ふ山

             葉山の里はのどけき春かな



             吟醸の肴は何ぞと問ひしかば

             磯のひじきの 生サラダとぞ



             この時節ただひとたびの逢瀬かな

             山のさくらも 磯のひじきも  







「異形の花」

2006-04-08 11:54:19 | 和歌

 アケビが花を付けた。異形の花である。

 この花を見ると、子供のころ山に分け入り、捥ぎ取って食べた甘いアケビの実が想い出される。薄紫の実が割れて、中の透き通った白い果肉を思いっきり口に含んで、種だけを何処まで遠く飛ばせるか競ったことも懐かしい。勢い余って種を噛むと、キツイ苦味が口一杯に拡がったことも想い出された。







             絡み合うアケビの蔓に色の濃き  

             花見つけたり 異形の花を



             やがて生る甘きアケビぞ懐かしき

             白きを食みて 種ほきだすを


  





             車庫の屋根に絡まる蔓を切らむとて

             伸ばす手先に アケビの花咲く



             みすずかる信州の山に捥ぎとりし

             割れるアケビの 甘きを思ほゆ







"Bonjour monsieur ! "

2006-04-07 00:13:41 | 和歌

 射干(シャガ)が一輪、エレガントに咲いていた。

 シャガは左程大きな花ではないので、見過ごしがちではあるが、今朝はそよ風に揺れて、虚庵居士に挨拶してくれた。表情豊かなフランス語の朝の挨拶に、ボンジュールと挨拶を返すのが精一杯であった。フランス語で気の利いた一言ふたことのお喋りが出来たら、彼女も一緒に連れ立って散歩したに違いあるまい。

 シャガの花は、フランス美女と決め込んでいる虚庵居士である。

  






             シャガ一輪 朝のアイサツ 道沿いの

             植木の向こうに かすかに揺れ居て 



             花びらの巧みなかたちも 指先も

             表情豊かに Bonjour monsieur!







「命の迸り」

2006-04-06 00:08:15 | 和歌

 大葉紅槲(オオハベニガシワ) が、鮮やかに芽吹いた。

 遠くから見やれば、花かと見まごう大葉紅槲であるが、神様は、この木の逞しい生命力に相応しい装いをお与えになった。毎年のことながら、秋には全ての葉を落とし、人間は大胆にも丸坊主切り詰めるが、次の年には旺盛な「いのちの饗宴」を見せて呉れる。人との係わりが、どこか潔い武士の生き様を思わせ、なお且つ迸るものに感動させられる。

  





             大岩の根方に見ゆるは花ならめ

             萌えいずる芽のはしきなるかも



             紅槲の切り株に萌ゆる息吹かな

             雄々しき命の迸り見ゆ



  




             名にし負ふ緋縅鎧の若武者か

             熱き想いの紅槲かな






「かむろみの み姿」

2006-04-05 00:16:47 | 和歌

 花びらの内外が紅白の、気品に満ちた木蓮が咲いた。

 伝え訊くところによれば、木蓮は地球上で最も古い花木と言われ、一億年以上も昔の花の姿を、そのまま今に保ち続けているという。改めて人類の歴史をひも解いてみた。化石で辿っても猿人は三百五十万年前、原人と言われるホモ・エレクトスが百万年、姿が我々に近くなった旧人のホモ・サピエンスでも、50万年前のことだという。

 一億年を超える花が、いま目の前に咲いているかと思えば、木蓮の花の、何と気高く見えることか。







              咲き初めぬ
          木蓮の花 気高きは
          この世に人の生まれいずる
          遥かな昔 億年を
          超えて咲き来る花なりと
          訊けば貴く 崇め観るかな


          春嵐の
          何故に荒ぶる いたわりの
          無きぞ悲しき仕打ちかな
          耐えてこらえて 木蓮は
          億とし超えてかむさぶる
          花の命は 厳かなるかも





             かむろみのみ姿なるらむ 人生まる

             はるか昔ゆ 木蓮咲くとは






「蘇東坡ならずも」

2006-04-04 00:04:17 | 和歌

 「うつろ庵」の近くの海棠が、今を盛りと咲き誇っている。

 虚庵居士の心の友人、蘇軾先生・東坡居士は、海棠の熱烈なファンでした。
 拙著「千年の友」からの抜粋です。

     海 棠      蘇東坡 詩

     東風渺渺泛崇光  香霧空濛月転廊
     只恐夜深花睡去  故焼高燭照紅粧
 
 春のおぼろ月夜。時の経つのも忘れて海棠をめで、夜も深けて霧が立ちこめてきました。
「海棠が睡ってしまいはせぬか・・・」と恐れた先生は、何と、燭台を高く掲げて、紅の花を照らし続けたと自ら詠うのですから、恐れ入ります。



             夜も深けて たなびく霧に 海棠の

             睡るを恐れ ともしびかかげぬ


   





 蘇東坡先生の七言絶句に歌を和した当時は、海棠の花自体は知っていましたが、何せ盆栽仕立てでしか鑑賞したことがありませんでしたから、斯くも見事に咲き誇るとは、つゆ知りませんでした。このように誇らしげに咲くのでしたら、蘇東坡先生ならずも、入れ込みたくなるのがよく理解できます。改めて、彼と一献酌み交わしたい気分です。



             海棠の斯くも誇れば千年を

             超えて酌みませ 東坡居士どの



  




             海棠を誇る住み人偲ばるる

             蘇東坡ならずも愛ずる心を







「花咲くもみじ」

2006-04-03 00:07:52 | 和歌

 「うつろ庵」の庭の「モミジ」が花を付けた。

 嘗ては大層な名前の盆栽であったが、手の掛かる盆栽を諦めて露地に下ろしたら、数年のうちに一メートル余の大きさになった。数日前に若芽が萌え出でたと思う間もなく、小さな花を吊り下げて咲いた。秋の紅葉は殊のほか見事であるが、狭い庭に座を占めて、華やかさはないが控えめな花を咲かせ、若葉に色を添える精一杯の姿がいじらしい。

 序ながら昨年々末に、「名残の一枝」とのタイトルでご紹介した「モミジ」は、かつて家族で蔵王・遠刈田温泉に遊んだ際に、山採りした小さな苗木が育ったものだ。「蔵王のモミジ」は花を付けないが、年末には素晴らしい「名残の一枝」を見せてくれた。

  





             萌えいでし若葉に合わせ色を添え

             葉陰にそっともみじ花咲く


  





             指先を赤らめすぼめる手を重ね

             もみじは庇うや 兄妹花を

 

             然るべきもみじならめや名にし負ふ

             姿かたちに矜持を留めて






「オキザリス」

2006-04-02 12:33:54 | 和歌

 小学校の校庭には、赤・白・黄色の三種類のオキザリスが咲いていた。

 それぞれに花咲くスタイルが、少しづつ個性があって興味深いが、植物に詳しくない虚庵氏は、「カタバミのお仲間だろう」などと勝手に想像して、詳しく調べようとはしないズボラではある。 が、可愛い花たちにはゾッコンである。







             遠くより黄色の花の塊の

             目に染み入るはオキザリスかな



             首のばし顔よせ合いあいて覘く子らの

             窓辺の歓声 オキザリスに聞く



  





             渦巻ける薄紅の花びらは 

             花壺ふかく 誘ひやまずも



 





             白妙の花をかざすも葉に隠れ

             そっと覗くも乙女すがしき








「花びら とどけよ」

2006-04-01 12:14:48 | 和歌

 「うつろ庵」の近くの遊歩道に、花桃が咲いた。

 透ける色の花びらを開いて、「私といっしょに・・・」と促しているように見える。頑な思いを戒めて、心を閉ざす者への精一杯のメッセージを送っているのかもしれない。

  






             内に秘めてかたく閉ざせる想いをば

             いざ解きたまえ花桃咲くに



             透ける色の花びら重ねる花桃は

             すべてを受けまし閉ざせる想いも

 

             春風よ心しあればおち方に

             花びらとどけよ花桃咲きぬと