牡丹は、様々なことを思わせる華のようだ。
信州の生家には、屋敷の入り口から門に到るアプローチに沿って、十メートルほど牡丹が植えられていた。ゆったりと枝を広げ、深紅の大きな花が咲いた。黄金色の花芯と花びらがお互いに響きあって、見事な調和を保っていた。 子供ながら、牡丹の花の持つ不思議な魅力を感じていたのだろうか、何十年を経た今でも、あの牡丹の花が想い出される。
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白居易の七言絶句には、牡丹を詠み込んだ悲しい詩がある。
友人の元稹(元九)が、妻の逝去を悼んで詠んだ詩を見て、白居易はこの詩を寄せたという。
白居易は、夜の庭に咲く牡丹の花に、今は亡き夫人の面影を重ねて、涙ながらに友の辛い思いを偲んだ。友を慰める言葉に代えて、病を治す薬も無く、ただ楞伽(りょうが)四卷經のみが有ると結んでいる。
見元九悼亡詩因以此寄 白居易 詩
夜涙闇銷明月幌
春腸遙斷牡丹庭
人間此病治無藥
唯有楞伽四卷經
かのひとを悼める君の詩をよめば
牡丹にこぼれる涙やまずも
月影に揺るる牡丹の花みれば
千々に乱れる憶を偲びぬ