「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「牡丹」

2006-04-23 01:05:20 | 和歌
 
 牡丹は、様々なことを思わせる華のようだ。

 信州の生家には、屋敷の入り口から門に到るアプローチに沿って、十メートルほど牡丹が植えられていた。ゆったりと枝を広げ、深紅の大きな花が咲いた。黄金色の花芯と花びらがお互いに響きあって、見事な調和を保っていた。 子供ながら、牡丹の花の持つ不思議な魅力を感じていたのだろうか、何十年を経た今でも、あの牡丹の花が想い出される。







 白居易の七言絶句には、牡丹を詠み込んだ悲しい詩がある。
友人の元稹(元九)が、妻の逝去を悼んで詠んだ詩を見て、白居易はこの詩を寄せたという。
白居易は、夜の庭に咲く牡丹の花に、今は亡き夫人の面影を重ねて、涙ながらに友の辛い思いを偲んだ。友を慰める言葉に代えて、病を治す薬も無く、ただ楞伽(りょうが)四卷經のみが有ると結んでいる。


       見元九悼亡詩因以此寄  白居易 詩

       夜涙闇銷明月幌
       春腸遙斷牡丹庭
       人間此病治無藥
       唯有楞伽四卷經



             かのひとを悼める君の詩をよめば
  
             牡丹にこぼれる涙やまずも



             月影に揺るる牡丹の花みれば

             千々に乱れる憶を偲びぬ