「下野草の花」が朧げに咲いていた。
「あれれ!? 急に眼が悪くなって、霞んで観えるのかな??」と、年老いた虚庵居士は先ず自分の眼の衰えを疑った。が、そうではなかった。隣の嫋やかな野草の花穂は、霞むどころかクッキリと見えているのだ。正常な視力に先ずは安堵した。
ならば、「下野草の花」が朧げに見えるのは何故だ!?
持ち前の探究心がムクムクと頭を擡げ、花に近寄って観察。
答えはいとも簡単だった。沢山の小花が団子状に寄り添って咲いていたが、それぞれの小花の細長い蕊が花の団子を囲み、霞み状の空間をなしていた。だからチョット離れただけで、「下野草の花」は忽ち朧に見えるのだった。
それにしても、こんな「朧に咲く下野草」の風情を何と表現したら佳いのだろうか。可憐な小花が寄り添って咲くだけでは飽き足らず、自らを霞で包んで神秘的な雰囲気を創りだすとは!! 美の創造の神も、なかなかヤルモンダ!!
下野の草の花穂の寄り添うて
朧に咲くかな神秘につつまれ
何故ならむ朧に見ゆるは年老いた
爺のまなこの衰えならむや
いや待てよ隣りの野草の嫋やかに
しなだれかかるはクッキリ見ゆるに
近寄りて下野草の花見れば
小花をつつむは数多(あまた)のしべかな
可憐なる小花ら寄り添いその思ひ
秘めて包むや蕊の朧に