「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「君子蘭の一輪」

2015-05-19 13:27:12 | 和歌

 遅咲きの君子蘭だったが、4月初旬から5月の半ばまで、「うつろ庵」の庭を飾って呉れたが、最後の一輪が昨日ぽとりと落花した。植木職人の寅吉爺から頂いた一鉢が、居心地が佳いのだろうかこれ程に株数が増えて、目を愉しませてくれていた。



 最後の一輪の落花に、思わず寅吉爺が偲ばれ、心の中にご冥福を念じた次第だ。

 この君子蘭の花は、紅色が薄めで橙色に近く、一般的には人気がある紅緋(べにひ)色の華やかさに比べ、どちらかと云えば控えめな花で、植木職人だった寅吉爺が丹精こめて育てた思ひが偲ばれる。

 蘇芳梅の木漏れ日を受けるこの場所が、君子蘭はお気に入りの様だ。株分けして、陽当りの良い場所へ移植した姉妹は、強い日差しに葉が傷み、花びらにも些か気の毒な状況が見受けられる。花がおさまったこの時期に、植え替えてやる積りだ。寅吉爺にご指導を頂いた筈であったが、あの世からのお叱りが聞こえてきそうだ。  

 
           君子蘭の花咲く春も往きにけり

           最後の一輪 ぽとりと落ちぬ


           思わずも寅吉爺を偲ぶかな

           鉢を抱えて松を見上げる


           蘇芳梅の木漏れ日うけるこの場所が

           お気に召すらむ花株殖やして


           陽当りの良き場所選んで移植すれど

           哀れ傷みぬ葉先も花も


           あの世から寅吉爺のお叱りの

           声聞く思いぞ 「はよ植え替えむかい」と