「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「脱皮のドラマ」

2014-08-12 14:23:27 | 和歌

 孫娘「りかちゃん」のご来訪にそなえ、花鉢を入れる木製プランターの材料を準備して、虚庵じじはりかちゃんを待った。小学生の女の子が、トンカチと釘を使ってプランターを作るなど、興味を示さぬのではなかろうかと懸念したが、意外や意外。 
大喜びでプランターを作りあげ、喜々としてマンションに持ち帰った。

 その帰り際の彼女の宣言に、虚庵居士は腰を抜かさんばかりに驚いた。
曰く 「次に来たときには、りかのお家をつくりたいの!」

 近くのレストランで、夕食のテーブルを囲みながら、彼女は自分のお家のイメージを頭に描いていたのだろうか。夕食のテーブルを囲めるようなお家は、りかのお家には大きすぎる。パパのベンツには、りかの家族とじじ・ばばが坐ってお話できる。
その位の大きさの「りかのお家」を作りたいと・・・。 

 2週間ほどが過ぎて、電話が鳴った。
「モシモシ りかだけど。 りかのお家を作るじゅんび、お願いね!」

 子供のことだから、すぐ忘れるだろうと高をくくっていたが、大変だ。
狭い「うつろ庵」の庭に、「りかちゃんのお家」を作るスペース確保は只事ではない。珊瑚樹の生垣と、金木犀・柚子の木が植わってる一郭に、一坪足らずのスペースが確保出来そうだが、柚子の鋭いトゲは難敵だ。
かなり大胆に柚子の枝を払い、万が一にも、りかちゃんがトゲで怪我をしないように、周辺の環境整備に汗だくの虚庵居士であった。



 そんな夕暮れの一時、ふと椿の葉に目を落したら、蝉の幼虫が脱皮を初めていた。

 狭い庭の片隅で、虚庵居士は汗だくで大奮闘中だったが、その脇で、蝉も生涯に
一度の脱皮の真っ最中であった。流れる汗もものかわ、カメラを構えて蝉の「脱皮のドラマ」を見守る虚庵居士に変身した。



 普段であれば「蚊取り線香」を腰に下げ、虫刺され予防に怠りない虚庵居士だが、脱皮直後の蝉にはお気の毒かと遠慮したので、何か所か蚊に刺され乍の我慢比べであった。 申すまでもなく観察の途中で中座し、グラスを片手に戻って、初めての
観察を続けた。

 脱皮の初めからどれ程の時間が経ったであろうか、気が付けば、すがた形は成虫の蝉になったが、羽根の色も体も未だ生まれたままの色合いであった。
「お食事ですよ~」 とのばば様の声に応じて、腰を上げた。

 蝉の脱皮に無知な虚庵居士は、ヒョットすれば、朝日を浴びないと茶色の姿に変身出来ないのかもしれないと思いつつも、念のため就寝前に覗いた。 脱皮した蝉は、見事な成虫に変身していた。明日の飛び立ちに備え、満を持す端正な姿であった。




           プランターを 作る悦び! この次は

           りかのお家を作りたいのよ!


           りかちゃんのご注文には呆れつつ   

           念を押されて 爺 奮闘す!


           汗みどろ孫の願いに応えむと

           お家を作る準備に励みぬ


           柚子の枝をバッサばっさと切り落とし

           鋭いトゲから りかちゃん護らむ


           夕暮れにふと気が付けば一匹の

           蝉の幼虫 脱皮のチャレンジ


           手を握り 声をころしてガンバレと

           応援するかな蚊に刺されつつも


           気が付けば姿形は紛れ無き

           蝉の姿よ白無垢なれども


           逞しき茶色の羽根は木漏れ日の

           朝陽の援けが要るならめやも


           床に入る 前に一目のご挨拶

           見事な変身 満を持すかな