「うつろ庵」の庭の日溜りに、「ヒマラヤ雪の下」が咲いた。
地面を横に這うように伸びる太い根茎から、大きな葉を拡げ、その中央に桜色の 花が二十個ほど、円錐状に集まって咲く可憐な花だ。
ヒマラヤ山脈周辺の山裾に自生する花だという。どの様な経路を辿って、横須賀の「うつろ庵」に嫁いで来たのであろうか。日向とは云えども、未だ寒い庭先の「ヒマラヤ雪の下」の傍らで、この花が秘めている長い物語に思いを馳せた。
何時も通る豊かな植栽が続く遊歩道にも、この花が植えられているが、毎年のことながら日陰の株が先に咲き、日向の株は「うつろ庵」の庭先と殆ど同時に、半月ほど遅れて咲くのが不思議だ。 長い年月をヒマラヤ山脈の、厳しい自然環境に耐えて、 身に付けた不思議な「性・さが」であろうか。
花の可憐さとは別の性を持つことに、「人間のさが」を連想させられた。
人間社会でも、それぞれが持つ知性や各種の能力とは別に、育った家庭や社会環境に応じて、云い知れぬ性が身に付くことが多い。
植物も人間も、地球上の生命体としての共通点があるようだ。
庭先にようやっと咲くヒマラヤの
雪の下かな半月遅れぞ
如何ならむ日陰の株は年毎に
日向の株の先に咲くとは
ヒマラヤの過酷な自然に鍛えられ
身に備えるや不思議な性をも
地に這いて大きな円き葉を拡げ
身を寄せ合ふて綻ぶ莟は
七重八重 花を重ねて咲き競い
春を待つらむヒマラヤ雪の下は
花々は咲き揃ふかも日を措けば
春待つ姿か首を伸ばすは