友人のK氏が、佐渡・金北山の高山植物の写真をお送り下さった。
彼はさる会社の役員を退任されたが、今だに世界五大陸の名山に挑戦を続ける現役の登山家だ。しかしながら時には、1172mの金北山にも足を運ぶ、無類の山好きでもある。
越後雉蓆(えちごきじむしろ)
背の低き道のしるべか黄蘗色に
花咲きにけり道に迷ひな
昨年は南米最高峰アコンカグア(6959m)に挑戦した彼であったが、不運にも天候に恵まれず、山頂直下から撤退した。山頂を目前にして撤退をするのは、並大抵の決断ではあるまい。ただ闇雲に攻めるのではなく、状況を的確に判断して「引き返す」決断とは、断腸の思いを遥かに超えるものが求められるに違いない。
彼はビジネスの世界で、経営者として立派な業績を積重ねられたが、登山家としてもこの様な極限の状態で、冷静な判断が下せることと根源的には相通じるのではあるまいか。
稚児百合(ちごゆり)
生い茂る林の道を踏み出でて
ひと時語りぬ稚けき小花と
「天は二物を与えず」との諺があるが、一つのことで秀でたものを会得した男は、異なった分野でも類い稀な能力を発揮する。経営者と登山家の例のみでなく、今回彼が送って下さった高山植物の写真を見ても、優れた感性が感じられるのは、将にその好例であろう。
彼の心温まるお裾分けのお陰で、居ながらにして佐渡・金北山の高山植物にお目にかかれた。孫分けになるが、皆様もご堪能あれ。
大岩鏡(おおいわかがみ)
ますらおが 御足とどめてより立てば
手弱女鏡に けわいを直すや
ときめきて鄙の山べに咲く花の
想いひを掛けるはいずかた人にや