「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「 芍 薬 」

2008-05-17 17:33:27 | 和歌
 
 「うつろ庵」の芍薬が咲いた。

 嘗て同僚が、ご父君の慈しんで居られた芍薬を株分けして、態々お持ち下さったものだ。  それ以来、うつろ庵の住人になって、かれこれ20余年になる。芍薬は連作を嫌うとは承知していたが多忙に託けて、また加えて敷地の狭いこともあって移植を怠ったら、自然の摂理は誠に明白だ。大輪の花も年々矮小化して、ついには蕾さえ付けなくなった。

 芍薬に申し訳ない思いが募り、昨年の暮に株の一部を移植した。これが効を奏して、今年は一株から5本の花茎がついた。

 一輪の芍薬が咲いただけで、うつろ庵の庭には華やぎと凛とした気配が漂った。
ところがあろうことか、台風2号が近ずいて強風予報が伝えられた。芍薬の花には風雨が大の禁物だ。虚庵夫人は次の早朝、思いきりよく切り花にして花瓶に投げ入れた。





              幾とせの心の通い路閉じたるを

           植え替え詫びれば応えて咲くかな


           嵐から芍薬の花守らむと

           切り採る妹に朝露こぼれて


           朝露のこぼれ落ちるは芍薬を

           切らねばならぬ妹が涕か







              はしきよし僅かにとどめる紅は

           内に秘めにし滾る思いか


           白妙のはなびら重ねかき抱く

           思いをきかまし仄かに染めるを