「強制加入制団体の内部民主主義および対外的アカウンタビリティのあり方──土地家屋調査士会制度を例に──」というタイトルの論文を発見した。立命館大学法学部・安本典夫氏による。PDFが落ちてくるので、注意。
示唆に富むので、ご紹介。
土地家屋調査士会は、「この会に入らないと営業できない」という意味で、強制加入団体なのだそうだ。ほかにも、弁護士会、弁理士会など、「士業」団体には同様の強制加入制度を持つものがある。
しかし、今それが批判にさらされているらしく、土地家屋調査士会制度を軸に強制加入の妥当性を論じている。
土地家屋調査士会制度については、まったく知らなかったし、今のところそれほど知る必要はないのだけれど、この論文の背後にある「強制加入団体」についての背景情報がとても有り難いし、興味深い。
例えば、強制加入は、憲法レベル(結社の自由)で問題があり、これが認められるのは、国・地方公共団体以外にはごくごく限られたものだけだ、という。
長いけれど引用。その価値はある。
さあ、PTAはどうだろう。
上に挙げられているような、厳しい条件をとうていクリアできるとは思えない。
とはいえ、「公共性ある職能団体」ならぬ、「公共性ある教育団体」として、なんらかの法的な根拠を与えられて、「強制加入」が合法化されることは、今の流れから行くと、警戒しなきゃならないことだと思う。
さらに、もうひとつ引用したいのは、「強制加入」の団体に要求される、民主的な運営の要求水準の高さだ。
ここで著者は、民主主義の基本原理だと多くの人が思っている「多数決原理」も、強制加入であるがゆえに(逃げ場がないがゆえに)、その拘束力が限定されるという話。
すごく鮮烈な判決だ。
目下、強制加入になってしまっているPTAでは、まさにこういう理由でも、多数決はさけ、できるだけ(かりに衆愚的に見えても)、時間を掛けてコンセンサスをつくっていくのが好ましいのだなと痛感した。
示唆に富むので、ご紹介。
土地家屋調査士会は、「この会に入らないと営業できない」という意味で、強制加入団体なのだそうだ。ほかにも、弁護士会、弁理士会など、「士業」団体には同様の強制加入制度を持つものがある。
しかし、今それが批判にさらされているらしく、土地家屋調査士会制度を軸に強制加入の妥当性を論じている。
土地家屋調査士会制度については、まったく知らなかったし、今のところそれほど知る必要はないのだけれど、この論文の背後にある「強制加入団体」についての背景情報がとても有り難いし、興味深い。
例えば、強制加入は、憲法レベル(結社の自由)で問題があり、これが認められるのは、国・地方公共団体以外にはごくごく限られたものだけだ、という。
長いけれど引用。その価値はある。
結社の自由とその制約
憲法21条に保障された結社の自由は,団体の結成・加入の自由とともに,
加入しない自由をも含む。したがって,国・地方公共団体を別にすれば12),
団体への強制加入はきわめて限られている。
強制加入団体として,まず,公共組合がある。これは,特定の公の目的
を遂行する,一定の社員によって組織される社団法人と定義される。具体
的には,面的整備事業に関する土地改良区,土地区画整理組合,市街地再
開発組合など,社会保険事業に関する健康保険組合,国家公務員等共済組
合など,および経済活動に関するもの(商工組合。ただし一定の要件の下
で主務大臣による加入命令があった場合のみ)がある。その特徴は,1特
定の範囲の者により,構成員間の共同の事務の遂行という特定の限られた
目的のために構成されたものであるが,2その遂行する事務が,社会的に
非常に有益であって公共事務ともいいうるものであり,同時に3その事業
の性格からして,当該地区内,あるいは当該職域内等で非参加者が存在す
ると事業としてほとんど成り立たないという特殊な性格のもの,である。
このため,法律で組合への強制加入制をとるとともに,それに事業遂行に
不可欠な権力的活動(換地処分,保険料の強制徴収等)を認めた。こうし
て,これらは,行政法学上も,国・地方公共団体に準ずるものとして,し
ばしば「行政主体」の1つとされてきたのである。
次に,マンション管理組合法人がある。これは,区分所有建物という高
度に共同性の強い生活空間の機能維持・管理上,全員加入の管理組織が不
可欠であるという根拠にもとづく。
弁護士会,調査士会等の「公共性ある職能団体」は,これらとならぶ強
制加入制団体の一種である。それが,上記のようなものに相当する結社の
自由の制約根拠をもつか,が問われることとなる。
さあ、PTAはどうだろう。
上に挙げられているような、厳しい条件をとうていクリアできるとは思えない。
とはいえ、「公共性ある職能団体」ならぬ、「公共性ある教育団体」として、なんらかの法的な根拠を与えられて、「強制加入」が合法化されることは、今の流れから行くと、警戒しなきゃならないことだと思う。
さらに、もうひとつ引用したいのは、「強制加入」の団体に要求される、民主的な運営の要求水準の高さだ。
これが問題となったものとして,特別会費徴収とその政党への寄付の問
題がある。税理士法改正運動資金として政治団体に寄付する目的で税理士
会がした特別会費徴収決議について,1996年最高裁判決は次のようにい
う。税理士会は強制加入の団体であり,その会員である税理士に実質的に
は脱退の自由が保障されていない。したがって,会員の思想・信条の自由
との関係で,多数決で決定した意思に基づいてする活動にも,そのために
会員に要請される協力義務にも,おのずから限界がある。特に,政党など
規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは,選挙における
投票の自由と表裏を成すものとして,会員各人が市民としての個人的な政
治的思想,見解,判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるという
べきであり,強制加入制をとる税理士会が,このような事柄を多数決原理
によって団体の意思として決定し,構成員にその協力を義務付けることは
できず,たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するため
であっても,法49条2項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざる
を得ない(最判昭和50・1・28民集29巻10号1698頁参照)。
ここで著者は、民主主義の基本原理だと多くの人が思っている「多数決原理」も、強制加入であるがゆえに(逃げ場がないがゆえに)、その拘束力が限定されるという話。
すごく鮮烈な判決だ。
目下、強制加入になってしまっているPTAでは、まさにこういう理由でも、多数決はさけ、できるだけ(かりに衆愚的に見えても)、時間を掛けてコンセンサスをつくっていくのが好ましいのだなと痛感した。