大阪府貝塚市で、男が訪問介護に来た女性らに睡眠導入剤を飲ませていた疑いが浮上した。
女性らの献身的な気持ちにつけ込んだとみられる卑劣な行為。
同じように睡眠導入剤を悪用した事件は後を絶たず、わいせつ目的のほか薬を飲まされた人が交通事故死し、殺人罪が適用されたケースもある。
貝塚市の水間鉄道森駅近くに広がる住宅街。
大きな一軒家や寺が立ち並び、行き交う車は少ない。
この静かな地域に、「ドーン!」という大きな衝撃音が響いたのは7月28日午前10時前のことだった。
住民の男性が慌てて家を飛び出すと、軽乗用車が自宅の外壁に突っ込み、大破していた。
運転していた女性は救急搬送され、しばらくして父親と一緒に現場に戻ってきた。
現場は直線で、普通に運転して自損事故を起こすような場所ではない。
「寝ていなかったみたいで、すみません」。
父親は居眠り運転だったと謝罪したが、女性はまだ目がうつろな状態で、男性は「普通じゃない」と感じたという。
この事故を端緒とした大阪府警の捜査で、複数の女性が男に睡眠導入剤を飲まされていた疑いが強いことが判明した。
知らずに睡眠導入剤を服用するのは非常に危険な状態だ。
千葉県印西市の老人ホームで2017年、複数の職員らが交通事故などで死傷する事件が発生。
職員らに睡眠導入剤入りのコーヒーを飲ませたなどとして、勤務していた准看護師の女が殺人罪などに問われた。
女は薬を飲ませたことは認めたものの殺意は否定した。
しかし、千葉地裁は睡眠導入剤を飲ませる行為を「死亡事故を引き起こす危険性の高い行為」と指摘。
「睡眠導入剤の効果が生じていることが明らかな状況で、車の運転を仕向けた」として「未必的な殺意」を認定し、懲役24年を言い渡した。
女は控訴している。
睡眠導入剤を飲ませ、意識をなくした相手にわいせつ行為に及ぶなどの性犯罪も相次ぐ。
警察庁によると、睡眠導入剤などの薬物の使用が疑われる性犯罪の摘発件数は2015、2016年は30件程度だったが、2017年には85件、2018年も47件だった。
悪用を防ぐため、一部の睡眠導入剤には水やアルコールに溶かすと変色するものもある。
ただ、旭川医科大の清水教授は「中が見えない容器の場合や、被害者が元々の色を知らない飲み物だと変色しても意味がない。 味も変わらないものがほとんど」と悪用を防ぐ効果は限定的だと指摘する。
すぐに脳などの中枢神経の働きを抑制し、犯罪に悪用されやすい強力な睡眠導入剤は処方箋が必要となる。
ただ、個人で利用するために海外の強力な薬をネットなどで購入することは違法ではないという。
清水教授は「簡単に睡眠導入剤が手に入るのが現状だが、本当に不眠で悩んで買う人がほとんどで規制するのは難しい。 まずは睡眠導入剤を悪用した犯罪の手口や悪質性を、多くの人に周知していくことが大切になる」としている。