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「たまらん坂」 黒井千次

2013-03-09 | 読書

たまらん坂は東京都下国立市に実際にある坂。RCサクセションの「多摩蘭坂」という歌で有名になり、ボーカルの忌野清四郎がなくなった四年前には、ファンが坂の下にたくさんの花を供えたという。

http://blog.goo.ne.jp/asaichibei/e/fbb666062dff291b473ff27d24355bd0

こちらは歩いた方のブログ。簡潔明瞭にまとめてあり、遠い土地だけど歩いてみたくなりました。


武蔵野短編集と副題があり、「たまらん坂」、「おたかの道」、「せんげん山」、「そうろう泉園」、「のびどめ用水」、「けやき通り」、「たかはた不動」の短編から構成される。

作者黒井千次は人生のほとんどの時期を武蔵野の面影の残る、国立付近で生活してきたとのこと。疏水、小さな山、坂、庭園、ケヤキ並木、不動尊・・・それぞれの地名が定年間近な小説の主人公に、遠い記憶を呼び覚まし、ふと出歩いた先で、とらえどころのない人と出会い、何十年ぶりかで出向いた先で会いたい人にはするりと逃げられてしまう。

確かなはずの自然だって、長年の間には変わってしまうし、人も同じ場所にはいられない。もう少し違ったやり方をしていればあんな別れはしなくて済んだかもしれない。主人公の心に去来するのは、人生の半分を過ぎてようやくわかる人と人の結びつきのはかなさ。

波乱万丈の筋があるわけではない地味な小説。人はこれを純文学と呼ぶらしいが、人の心の深いところへ降りて行って、声高にはならないつぶやきのようなものを救い上げてくる、そんな小説の数々。久しぶりに普段は感じていないような人の縁の不思議さを思った。

木があって、水の音が聞こえて、駅前には小さな商店街があるような知らない街をフラフラと歩いてみたいなあと、ふと思った。

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