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「癌だましい」 山内令南

2014-09-26 | 読書

2014年6月、フランス、ボルドー郊外のワイン醸造所で。


作者は女性。本作は2011年に文學界新人賞を受け、受賞後の5月19日に食道がんで死去したとのこと。

作品は食道がんが見つかってから、病状が進み、一人暮らしてだれにもみとられずに死期がいよいよ近くなるまでの1章から5章までを逆に書いている。

つまり一人横になり、つばも飲み込めないような重篤な場面から始まり、食べられなくても旺盛な食欲に突き動かされる描写があり、「職場の癌」と言われて孤立している、さえない、中年の介護職の人が、食道がんの告知を受ける場面が末尾に来ている。

生きることとは食欲と見つけたり、食べるの大好き、作るのも大好き、祖母においしいものを作ってもらった幸せな子供時代が作品の中で語られる。人間のいちばん根幹は食べる欲望だと改めて思った。生きることのすさまじさを感じた。

この作品が凡百の闘病記と一線を画しているのは、作家の視点は主人公の斜め上方にあり、静かに全部を見ていること。もがき焦り、また喜び、それを感情に流されずに描いているところ。食べ物を買いあさり、それを食べられないのに、戻してしまうのにむさぼり食べる姿は悲しさとともにユーモアを感じてしまう。

人間って、理屈では割り切れない存在なんだと。

受賞決定後、病床で書いたという「癌ぶるい」は、食道がんを打ち明けたメールへの、友人知人からの返メールを羅列しているという体裁の短い作品。

作家の澄んで冷静な目は一層磨きがかかり、そこはもう末期の目で見渡した人間界の俯瞰図みたいになっている。

なるほど、人は誰かから癌だと打ち明けられたら、結局は自分の考えをさらけ出す対応しかできないのだと気が付く。

メールには主人公が点を付けているのが面白い。「巧言令色少なし仁」、あれこれ言わずに一日でも長く生きてください。何かお手伝いできることはありませんかと言えばいいのかなと思った。


2001年、知り合いが同じ病気で亡くなった。状況はよく似ていた。食べられないけれど、あの人もこんな食べたかったのかなあと思ったら涙が出てきた。

山を歩いて植物観察をする仲間だった。お見舞いに行くと、いよいよ動けなくなるまで、階段を上がり降りして足腰が弱らないようにしていた。あの方がなくならなかったら会も続いたと思うけれど、その時に知り合った方の何人かは大切な友達になった。人の縁とは不思議なもの。


人はいずれ死んでいく。じたばたしても仕様がない。病気になった時、徐々にその考えを受け入れていくのだろう。

何かで読んだけど、死に行く人は「自分はもう死を受け入れたので、怖くも悲しくもない。心は大変に安らかで、みんなに感謝しながら死んでいく。今まで有難う」ということを身近な人に知らせたいのだと。

わたしもまたそのような心持になって死にたいと思った。もう少し先でいいけれど。


「逝年」 石田衣良

2014-09-24 | 読書


先日読んだ「娼年」の続編。女性専門の売春組織のコールボーイ、組織は大学の同級生メグミに通報され、女性経営者御堂静香は逮捕、服役中。そこからこの物語は始まる。

リョウは仲間のアズマ、スカウトした性同一性障害のアユム、静香の娘咲良、それに考えを変えて仲間に加わったメグミで再び、同じ仕事を始める。

体は女で心が男のアユムが、男として女性相手に売春をする・・・アズマの超絶マゾヒストぶりは娼年に詳しいが、リョウは経営者としてはたまた実際の労働者として、静香が釈放されるまで頑張る。

頑張る・・・何を?

だから好き嫌いなく、ご用命があればホテルに出向き、最高の性的サービスを女性にして満足してもらい、女性の心と体を癒す。値段は高いらしい。

お客さんの女性は歳はいろいろだけど、未亡人とか、セックスレスの主婦だとか、仕事に忙しいキャリアウーマンだとか。どの女性も知的で、自分の欲望をきちんと言葉で肯定し、それをお金で解決するのに躊躇しない。賢くて感情に流されない。

いゃあ、主婦一筋のこの私とは全然縁のない世界であり、感性。

ここで根源的な疑問。男性はそれが仕事なら、どんな相手とでもできるものだろうか。好き嫌い、とかないんだろうか。いくら若くても。

その昔、好色一代男というお話がありました。あれは男性が能動的でかつ数をこなす。こちら受動的でかつ数をこなす。自分の楽しみの為ではなく、相手の喜びのため。今の時代には、こうやって多くの女性を喜ばせるのが真の男の優しさ。作者はそう言いたいのかしら。

リョウは、エイズを発症したあと出所してきた御堂静香の最後の相手となる。親切ここに極まれり。余命いくばくもない、母親くらいの年齢の女性。

男性に聞いてみたい。そういう状況でも可能なのかと。心の問題だから、好きなら大丈夫と答える人もいるかもしれない。少なくとも、それが男女のコミュニケーションの最高の形態と、作者は言いたそうである。

いゃあ、半分以上七割方はベッドシーンとその前後の状況ですからね、凝り固まった頭の中身もずいぶん柔らかくなったかな。

二冊続けて下半身から人間を考える小説を読んだので、次はもう少し傾向の変わったものを希望。


本日、またまたドイツの絵を直す。直しても直しても夫が足りないところを突いてくる。悔しい。

塗りすぎて、直しすぎてグチャグチャ。

投信一つ売却。ささやかに儲けたのでもういいとしよう。ささやかな人生にそれこそがふさわしい。と言うことで。


「娼年」 石田衣良

2014-09-16 | 読書


10年も前の作品で、直木賞候補になったらしい。先日、古書店に行けども目的の本はなくて、105円でこの本、他を買った。

たまにはやらかめの本も読むべ・・・と買って、これはなかなかに正解でしたね。面白かったです。主人公リョウは20歳、大学にもめったに行かず、バーテンのバイトをしている。客として現れた中年女性に誘われ、女性相手のcall boy=売春夫を始める。りゅうはさまざまな女性のさまざまな欲望に出会ううち、その果てを見たいと思うようになる。

リョウの真面目な女友達が警察に通報し、経営者は逮捕され、リョウにはリュックサックいっぱいの現金が残されて小説は終わる。小説の中に流れる時間はたった一夏、その夏はリョウにとってあまりにもたくさんのことがあった、ひりひりとするような日々だった。

性描写が秀逸、読者はそれを読みながら、人間存在の深淵をも覗き込む。手順を書くだけの凡百の小説とは明らかに一線を画す書き方。さすが直木賞作家。どんな過激な場面も、澄んだ湖のようにいやらしくないのは、主人公が冷静で、それを彫琢した文章で読ませる職人技の所以か。

なんかこれを原作にして漫画にもなったそうです。筋立ては破たんがなく、登場人物のキャラも書き分けられていて、これが原作なら、漫画家も描きやすかったのではないかと思う。


「天皇と日本国憲法」 なかにし礼

2014-09-10 | 読書

いつのころからか、ネットでいろいろなサイトを見ているとその少し前に検索したものが広告として出てくるようになった。

私だと海外旅行のツアー、国内のホテルと旅館、WIFIのプロバイダー、本など。そのようにしてこの本をアマゾンに誘導されて買った。

買ったけど、表題は内容とは連動していない。もともとは週刊誌に連載していたエッセィ、つまりは一話完結型。

その時々の話題の感想、自分が見た演劇、聞いた演奏会などの軽めの講評など。楽に読めると言えばそうだけど、この本の肝はやはり、前半の旧満州からの引き揚げ体験と、子供ながらに見た様々なことだと思う。

本当に信じられるものは何か、それを探して著者のその後の人生はあったのではないだろうか。外地で生まれた人は日本ではどこかよそ者の感覚を捨てきれないが、それだけに、人が当たり前として受け入れることも、立ち止まって考える。その視点はあちこちに見られた。

東京オリンピックは賛成だそうで。under the controlは首相の今後の事故処理の決意として聞いたそうで。

そこまで読んで、それ以後は読まなくてもよかったんだけど、せっかくお金払ったので最後まで読んだ。本は本屋で。涼しくなっのでたまにはリアルな書店ものぞくべきと思った。

きょうは午後から遠来の友人ご夫婦と、市内のもう一人の友人、私の四人で会う予定。楽しみ。明日以降かな。

美容院も行きたいけど省略。おされは私の中では優先順位が低い。今やばあさん道まっしぐら。その果てに見える景色は一体どんなものでありましょう。。。。。


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