四つの小説から成る短編集。どの作品も、幸せには縁遠い人たちの、寄る辺ない生き方をあくまでも地味に描写している。
初めの「入学式」、細々と小説を書く大学講師と看護師の話。
男には妻も子もあるのに、女との関係を切ることができない。その割り切れなさをしみじみと書く。女は何も求めず、できた子供さえ自分で始末する。なあーーーんか、男に都合のいい女、とむかつき、書き方も古風なので好きになれなかった。
が、表題の「福猫・・・」は老年に差し掛かった二組の夫婦の過去と現在が語られ、やはりうまくいかないところが、こういう人もいるんだろうなあ、ととてもリアリティがあってよかった。諦めの果てにかすかな希望があるということだと思った。
「おろち」は男と女、別々の人生、でもふとしたことで関係を持つ。うーーむ、こんなことってあるんだろうか。あるとしたら、現代の都会のおとぎ話だよな。どんなに世の中が進んで、何もかも便利に立派になっても、生き物としての欲望と寂しさはそれだからこそ一層際立つ。そんな感想を持った。
八月のニュクスは牧場で働く男の話。牛は生き物、生々しい生き物のにおいが充満している。経営者の男は若いフィリッピン人の妻をもらい、こちらも生々しい。男はあちこちにぎくしゃくとぶつかりながら、自分の思いをもて余している。
以上どれも読んで楽しい話ではない。美男美女は出てこないし、冒険譚でも成就する恋愛話でもない。ショートケーキではなくて、噛めば噛むほど味の出る干物のような味わい。
そうそう、人生って誰の人生でもこういうもんだなと。面白いこともないけれど、その中の小さな喜びを飛び石を踏むように辿りながら生きていくもんだなと。
読んだ後、自分がとても地味な人間になったように錯覚した。それも小説の力。