片貝孝夫の IT最前線 (Biz/Browserの普及をめざして)

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日本のソフトウェア産業: 何が悪く、何をそこから学べるか?

2014年09月28日 | Weblog
日本のソフトウェア産業:
何が悪く何をそこから学べるか?
ロバート・コール、カリフォルニア大学バークレー校名誉教授
新谷勝利 抄訳
(第I章のみ全訳で、他は抄訳。共に、原文に可能な限り忠実に翻訳することと目的とした。当抄訳は34ページの英文を読む前に全体的な理解に寄与したいということであるが、正式の論文は英語であり、抄訳からだけ論文の評価はしないでいただきたい。)

この論文はカリフォルニア経営学レビュー(CMR)に採録が決定している。コール教授の好意で予め入手したもので、採録決定という表示にて配布を許可。

I はじめに
 わずか20年前に日本が製造業に続き次のソフトウェアスーパーパワーになるとアメリカ人が警告されたことを想像することは今や難しい。個々の独立したシリコンバレーの小さな会社は日本の統合されたハイテク大企業の金融力の前にはひとかたもないと思われた。更に、日本の大企業によるソフトウェア開発に対するファクトリーアプローチは当時アメリカで一般的であった手工業的アプローチより優秀であると考えられた。

 これらの予想にもにもかかわらず、過去20年間は日本のIT企業にもハイテク製造業には好意的ではなかった。本論においては、種々報告されている日本が経験してきたことを引用しながら最近のソフトウェアイノベーションによる国際競争力への影響に関する研究を指向する.特に、世界で三番目の経済大国であり、製造業においては世界で最も競争力がある日本が、ソフトウェア依存製品の国際競争力を加速的に失って来ている状況及びそれが何故かについて言及する。日本の経営者、政府官僚、及び教育界のリーダーがソフトウェアの広汎に渡る産業、製品及び消費者及び企業向け製品の研究開発に重要な役割を果たしていることに非常に低い評価しかしていないことに言及する。

 ここにおいては、全ての国の経済が学ぶべき重要性がある。組織リーダーの責任は、技術動向に感覚を持つだけではなく、それがどのように変わろうとしているかの認識の下に行動を起こす事である。さもなくば、その組織は消え去ってゆくことになる。確かに、技術のちょっとした流行なのか地盤を揺るがすかのような大きな変化なのかを見分けるのは難しい.特に、現況がマイナスの方向にではなくポジティブな収入をもたらしている時には、組織リーダーは現行技術に拘るのは容易なことである。日本のリーダー達はハードウェア製造業の成功の故にソフトウェアが新しい関心領域であるとは見なしてきていなかった。この点に関しては本論で更に言及する。更に、妥当な見方として、アメリカの製造業の世界規模での、日本企業と比べて、競争力の弱さを認識するアメリカ企業の経営者はソフトウェアによる新しい機会の創出というものに関心を抱き、対応するようにした面もある。結論を導きだすために、事実ではない事象で単純なものに関する分析をすることにする。即ち、日本の企業がソフトウェアの重要性に気付き、それの事業成果への影響を考えていたならどうなっているであろうか?本論は、各国における政策立案者がその地におけるITの経済に体する影響力を高めようとする時に、それへのガイドになることを目的としている。

 日本のIT企業は主要消費者機械のグローバルマーケットシェアを徐々に失ってきている。画期的な消費者向け製品、例えば、スマートフォン及びタブレット、でグルーバルに競争出来ないのみならず、これらに製品における国内向けマーケットでも問題を抱えている。更に、これらの付随的な機能であるモバイルゲーム、カメラはかってグルーバルに強力であった企業に悪い影響を与えている。コンソールを用いるゲーム機、単焦点カメラ、更には複雑なSLRカメラのマーケットを浸食している。

 その殆どが組み込みソフトウェアを持つ日本の電子製品の日本での生産は、2000年から2011年にかけて50%も減少している。同時期に電子製品の輸出は37%下がっている。近年日本企業は、他の製造者のために中間成果物、部品を提供するようになっており、消費者向け製品のコンポーネント及び部品生産の2000年における割合は45%で、2011年には56%になっている。同時期に、工業製品コンポーネントは8から12%に伸びている。問題は、これら製品からの利益は、最終製品製造者、アップル及びサムソン、に行ってしまうことである。例外は、強力な固有技術、システムインテグレーション能力、知的所有権に守られた企業である。日本の電子産業の2011年の全体的な市場価値は2000年レベルの半分になっている。この減少は、当期における市場の縮小を単純に示したものかを判断するのは容易なことではない。東証第1部上場企業の同じ期間における減少率は16%である。日本の技術企業でグローバルに売り上げをあげているところでさえも利益率は競争相手に比べて低く、近年2009年までは、1~2%の範囲であった。このことは諸外国の競争相手に比べて、資金源が小さいことを意味する。最近の円安傾向がこの低い利益率を改善するかについては疑問である。

 つい最近、消費者向け電子製品の大敗北から逃れるために、日立、東芝、三菱電機は彼らの主たるビジネス分野を、大規模社会インフラ事業(エネルギー、交通、公共事業)にシフトしつつ有る.これらのプロジェクトにおいては、ソフトウェアというものを異なるプロジェクト間のコンポネントを結び付けるノリのようなものと認識しており、価値創造に貢献するとは見ていない。ところが、シーメンスのような競争相手が非常に強いソフトウェアの付加価値でもって攻め込んでくるのは時間の問題であろう。このようなインフラストラクチャにおいては、ソフトウェアが機能とサービスの両方において牽引力になる。

 IT分野は電子分野以上である。IT製品は、ICT分野に含まれている。世界銀行データによると、サービスは1996年のグローバルITC価値の5%でしかなかったのに、2009年には22%を上昇している。ICT価値の殆どはソフトウェアによるものである。しかしながら、日本の競争力の将来に暗いのは、2009年の日本のICT輸出の内、サービスが占める割合が2%にも満たないことである。明らかに、日本はハードウェアからサービスへの転換で遅れをとり、弱さの原因の多くはソフトウェアの弱さによる。更に、グローバルマーケットに進出していないことが先進的なICT技術に関心を払わなくさせている。ICT輸出の弱いことの理由として更に考えられるのは、製品のカストム化とSIが日本のビジネスプラクティスに対応して日本語でなされることがある。日本企業がサービスの輸出に不利な理由として経営者の英語力に問題があるというのはもっともらしいことである。

 以上述べてきたことは、日本のソフトウェア及びITサービスの輸入が過大なこと、ビックリするようなソフトウェアスタートアップの過小なこと、独立系で大きくそして元気なソフトウェア企業群の不在、ということと整合性がある。ソフトウェアの輸出が殆どないこととソフトウェアの輸入に依存していることは、国内におけるソフトウェアマーケットが小さく、個別対応のアプリケーションがマーケットの絶対多数であることと関連している。(図1参照)情報サービス分野の2012年売り上げの内86%は個別対応アプリケーションであり、ソフトウェア製品は14%に過ぎない。なお、ソフトウェア製品の売り上げの内37%、または全ソフトウェア売り上げの5%、がゲームソフトウェアによることは注目に値する。


 にも関わらず。世界第3位の経済大国である日本はソフトウェアセールスについては米国に次いで第2位である。日本の組み込みソフトウェアの能力には素晴らしいものがある。高品質で世界で認知されている組み込みソフトウェアには、工作機械、ロボット及び自動車の3つがある。日本のソフトウェア品質(多種に渡るソフトウェアプロジェクトにおける欠陥数で測定)及びソフトウェア開発プロセスにおける生産性(コード算出への生産性)はアメリカのそれに比べて比較にならないぐらい良いという独立した調査結果もある。これらは素晴らしい成果である。

 この分析の中心部分をなすのは、ソフトウェア開発プロセス能力の高さと製品がイノベーティブでないことのギャップを明らかにすることにある。イノベーティブでないことは、ソフトウェア製品とサービスがグローバルに展開できていないことに反映されている。マイケル・クスマノは、この並列状況を「日本のソフトウェアのパズル」と称している。

II 最近の特許研究からの発見 (抄訳)
 日米の特許申請の差は、日本のソフトウェアに関するものが少なく、1980年代から差が開き、特に1990年代以降顕著。この理由として以下を推察している。
1. ソフトウェアに関する知識・経験に制約
2. 企業のソフトウェアの変革能力への低認識
1.の方が問題が大きいのではないか?

III 大学におけるコンピュータサイエンス教育 (抄訳)
 2009年の米国コンピュータサイエンス及び数学の学士は63,000人で日本は16,300人。日本の労働人口は米国の43%、GDPは37.5%なので、日本のコンピュータサイエンス及び数学の学士数はみかけよりずっと少ない。
 大学における学部・学科定員は2006年まで文科省により制限されており、それ以降は大学が決められるようになったが、学内の勢力争いの結果として新しい学科は定員を増やせていない。特にソフトウェア関連は影響を受けている。結果として、先進的な技術でソフトウェア開発に当れる人材の育成に遅れをとっている。

IV 組織的、構造的側面からの観察 (抄訳)
 経営者にイノベーティブなソフトウェアを作るということに動機がないのであれば、ハイタレントのソフトウェア要員を雇用し、訓練し、活用するという要求もないであろう。
 年間売り上げに対するIT投資率は、日本が2007年に1.03で、米国が2008年に4.3。もし米国企業が日本企業の4倍IT投資をしているのであれば、米国は日本に比べてソフトウェアのイノベーションから生成されているものがより多いということになろう。
 東大の元橋教授の論文によれば、全要素生産性(TFP)に対するソフトウェアの貢献は、米国で1960-1995で3%、1995-2000で6%、2000-2006で8%、日本では夫々-3%,-1%,1%。このことは、日本におけるIT投資に問題があることを示している。
 谷島の「ソフトウェアを他人に作らせる日本、自分で作る米国」に日米比較のデータあり。
 IPAの人材白書によれば、日本のIT専門家の75%がITサービス企業に所属しているのに、米国では29%。米国におけるソフトウェア専門家はソフトウェアからのイノベーションを引き起こす機会に恵まれている。
 米国においては、ソフトウェアのスタートアップ企業はベンチャーキャピタルにより支援されており、2011年には米国のベンチャーキャピタルによる投資総額は290億ドルで、日本ではその12%。内、ソフトウェアスタートアップに回されたのは、米国で57%、日本で9%。
 CIOに関しては、2008年統計で、日本の大企業の30-40%にCIOがいたが、当時の米国において年間売り上げが約500億円以上の企業でCIOがいないということは考えられなかった。
 2013年のJEITAの調査によれば、日本では現場での生産性向上と経費削減にITが活用されているというのが48%。製品とサービスの向上に活用というのが22%.米国では製品とサービスの向上に41%.ビジネスおデルの改善に29%.日本におけるビジネスモデル改善へは13%。全体的に、IT投資が極めて重要というのが75%。日本では16%。
 
V 経験への依存とハードウェア中心 (抄訳)
 日本における「ものづくり」への言及。
 リコーにおける1987年のハードウェアのみの製品から2001年のソフトウェアを活かした製品への歴史への言及。この間、ソフトウェアが極めて重要という認識に至に8年必要とした。 

VI 結論 (抄訳)
 以下の提案は、日本のソフトウェア業界をもっとポジティブにするであろう。
1. 日本のソフトウェア業界はブルーカラーを作ってきた。これは、ソフトウェアイノベーションを阻害するもの。ITが価値を創成することへの認識の向上とそのための活動をする。
2. 全ての組織・業界のリーダーにITの重要性を教育。
3. 日本政府は15年以上にわたりIT強化策を実施したが、いずれも期待した成果を得ていない。組織間の壁を破ることに対し殆ど努力されていない。スタートアップから購入するとか、既存のパートナーでない組織と恊働するとか、リスクを取る必要あり。
4. 英語能力の向上。

 如何に日本のソフトウェア業界が伸びていないかを分析することにより、IT業界強化の政策立案をする人の役に立つ幾つかの案が作成できるであろう。ここに述べたのは、その最初のものである。

日本の製造業を、ハードウェア重視からソフトウェア重視にパラダイムシフトする必要がある

2014年09月28日 | 私の正論
日本にはIT産業が育たなかった。
しかし組み込みソフトに関しては世界第2位。

単体の機器をコントロールするソフトについては素晴らしい才能を発揮しているのだ。
しかし複雑系はまったくお手上げ。

これからは製造業であっても、システムありきで発想する必要がある。
もっとも優秀なエンジニアをソフトウェア開発に振り向けよう!