やっとの思いで、カフカの「アメリカ」(中井正文訳)を読み進めて来たが、さすが不条理の作家と言われるだけあって、次から次に現れる理不尽さに小説の面白さを忘れてしまいそうである。理不尽な事柄が運命的なところまで至ると、E・ブロンテ「嵐が丘」の怒濤の面白さに通じるのかも知れないが、カール・ロスマンに降りかかる理不尽な事態には、古典的な宿命を連想させるものは何もない。つまり、劇的な要素を見つけられないままに理不尽というか、不条理の海を漂流させられる船酔いの夢しか与えられない。
なんだか、この小説を読むこと自体が、カール・ロスマンが受けている高揚感から断絶された艱難の追体験のようにも思われてくる。名付けられた者と名付けられない者との違いによるのだろうか、「城」におけるKの行き着くことのない試みの方が、まだしも救いがあるようにも見える。
それにしても、カフカの死後に起こったことは、小説を遙かに超えた理不尽なことばかりであるからには、現実の孕む不条理を表現し尽くしたカフカの語り口を後味ばかりで秤量するのは、大きな的外れというべきことか。あるいは、その後味をこそ反芻せざるを得ないのか。
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