とこしなへに違順につかはる〻事は。ひとへに苦楽の為めなり。楽と云ふは好み愛する事也。之を求むる事やむ時なし。楽欲する所一には名なり。名に二種あり。行跡と才芸とのほまれ也。二には色欲。三には味なり。よろづのねがひ。此の三にはしかず。これ顛倒の相よりおこりて。そこばくの煩ひあり。もとめざらんにはしかじ。
永久に違順(違と云ふのは・自己の心に違ふ事。即ち「苦み」の意味。順は我が心に順ふ事・即ち「楽み」を意味す)に身心を使役せられるのは。一重に苦楽の為めである。‥詰り苦を避けて楽に就かんと欲するが故に。常住に苦楽に身心を使役せらる〻のである。……。さて此の楽と云ふのは。物を好み愛する事で。世間の人は此楽を獲得しやうとする願望を断つ時が無い。さて其の願ひ望む所は。第一には名誉を獲やうとする。但し此の名誉には二種が有る。即ち一は行跡に就いての名誉……彼の人は彼様行跡を為たが。実に名誉な者だなどと褒められやうとする願望……二には才智芸能に就いての名誉……即ち彼の人は何々の名人だなど〻云はれる名誉を得度いと思ふ願望……とである。さて第二は色欲を遂げんとする願望。第三には食欲を満たさんとする願望で。凡ての所願は詰る所此の三つの慾に過ぎない。即ち萬の願望は。此の三者から分れるのである。是と云ふのは物を顛倒して。取違へて居る心から起る……謂は〻゛仏心と凡夫心とは。好み願ふ所が異なつて居る。仏菩薩の目からは。苦みと見える事を。凡夫は楽みと思ふ様な誤解をして居るのである……即ち其の顛倒せる願望を満たさうと為る物であるから。其処に若干の煩悶が生ずる。故に凡夫の所謂願望と云ふ物は。願ひ獲た所で甲斐の無い物であるから。願ひ求めないに超した事はない。
(「詳譯徒然草」 飯田季治)
俚諺に謂う馬鹿の一つ覚えのそれすらが、うろ覚えのものだったとしたら行く先には廃壊しかない
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