遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『警視庁公安部・青山望 爆裂通貨』  濱 嘉之  文春文庫

2020-05-26 17:31:29 | レビュー
 青山望シリーズ第11弾となる。2018年4月に文庫本書き下ろしとして出版された。
 同期カルテットの警察組織におけるポジションは前作に引き続き、同じポジションで始まる。それぞれが、継続して管理官の職位で縦横に協力しつつ事件解決に取り組んでいる。
 プロローグは10月31日のハロウィン騒ぎの最中に奇妙な形で起こる。スーパーマリオ軍団に扮した2,30人の集団が整然と渋谷ハチ公前のスクランブル交差点を分列行進した後、四方向に分かれて駆け足で路地に入り込んで行った。その後、4箇所のATMから非常発報があった。さらにその後、同様の事態が起こり、1時間以内に渋谷管内で合計12ヵ所に拡大した。警察官がそれぞれの現場に駆けつけると、ATMは破壊され現金が盗まれていた。併せて、4ヵ所でスーパーマリオの仮装をした男一人ずつが射殺されていた。
 一方、ハワイのホノルルでも、スーパーマリオに仮装した集団が現れ、12ヵ所のATMが破壊され現金が盗まれる事件が発生した。翌朝にはスーパーマリオの仮装をした4人の射殺死体がある公園で一列に並べられているのが発見された。
 奇妙に符合する事件が日米で同時進行で発生した。これは何を意味するのか。

 博多中州の味噌汁屋に居た藤中の携帯電話に警察庁から連絡が入る。自宅に居た青山はテレビの報道で事件の発生を知る。青山はこの事件が国際テロに関係するのかという危惧をまず抱く。独自に捜査をする必要性を感じ指示を出す。
 4人の司法解剖を連続して行った法医学の医師は、銃の発射角度が同一であり、被害者は貧しい外国人が殺害されたようだと言う。渋谷署に特別捜査本部が設置される。
 藤中がこの事件に直接関わっていく。なんと、このとき藤中は刑事局分析官という肩書に、長官官房調査官という立場を兼ねるようになった。藤中の事件に対する捉え方が広がって行く。役割が人を作るということか。行動や思考面での面白さが加わると言える。

 4人の射殺遺体の身元を確かめる手がかりが杳として掴めない。青山は個人的なネットワークを使い、ハワイで射殺された4人の情報をFBIから入手する。中国の偽造パスポートを持つ連中だったが、捜査の結果人定はできていないが日本人だと言うことは判明した。青山の許に送信されてきた個人写真とパスポートの画像データを許に、青山は法務省入局管理局に照会をし、次に大阪府警警備部公安第一課に照会することから手を打っていく。そこから一つの動きが出始める。
 また、青山は大和田に連絡し、チャイニーズマフィア情報をとるとすればどこにあたるのがベストか相談する。大和田は青山の質問に答えるとともに、最近のマル暴が在日や半島系ばかりになりつつあり、勢力範囲が大きく変化しつつあると言う。そして「奴らの多くが芸能ヤクザという、まるで日本人になりすましたような動きで、マスコミだけでなく広告代理店業界にも進出している。これはある意味、日本の危機になっているような気がするんだ」(p99)とも言う。青山は大和田との話からヒントを得ていく。

 国内で発生した事件については、人定は進まないが捜査の進展に伴い射殺に使われた銃や銃弾、使用された車などの情報が明らかになっていく。ATMの破壊の現場検証からは相当訓練されたプロの手口だと言う事が明らかになる。周到な計画の下に実行されていたのだ。そこには北朝鮮の影が見え隠れし始める。
 ハワイで殺害された4人の足取りが徐々に見えて来る。そして、日本人の無戸籍者という事実が明らかになる。その実態から、背景には暴力団やマフィアが関与している可能性が俎上に上る。青山が藤中に語る重要な発言に触れておこう。
「無戸籍者は、戸籍法がある国家の出身者であれば、この世に存在しない人間ということになる。存在しない者が犯した罪は犯罪そのものが成立しない・・・・つまり刑事罰はもちろん、民事罰も身柄を確保された場合以外、誰にも波及しないことになるだろう」(p79)
 無戸籍者の追跡調査は、京都の東寺前交番の細田巡査の日常勤務での備忘録が、人定の突破口となっていく。この突破口となる聞き込み捜査プロセスにおいては、信頼関係醸成の根本部分の描写が読んでいてうれしくなってくる。そこにあるのは人間関係の原点だ。
 
 その頃、捜査第二課管理官の龍は、クレジットカードの不生利用による被害額が15億円を超える大型詐欺事件に取り組んでいた。ATMが狙われた理由が掴めない青山は、龍に意見を聞く。一方で、龍からある芸能プロダクションの情報について質問される。そこから龍の携わる事件との関わりも出てくる。

 一方青山は、大学の同期生で、大手都市銀行に勤務する設楽にコンタクトし、ATMやクレジットカードについての情報収集を行う。また、藤中とともに隠退した清水保からの情報収集、またタマとしての関係を維持している岡広組総本部若頭補佐の白谷昭義からの情報収集を積極的に繰り広げていく。そこから事件の本質を導き出していく。
 白谷から入手した情報は、東京での事件で殺害された4人の人定を決定づけていくことにもなる。
 そんな矢先、中国の銀聯に対するサイバー攻撃が激増し、銀聯の電子決済システムが世界規模でトラブルを起こすという事態が発生した。なかなかおもしろい展開となっていく。なぜ、スーパーマリオに仮装したのかという読み解きもおもしろい。
 あとは本書を開いていただければと思う。
 
 本作もまた、情報小説という色彩がますます濃厚になっているように思う。リアルタイムでの世界情勢や国内問題を考える材料がストーリーに織り込まれて語られて行くところが興味深い。勿論、フィクションという前提の上で、現在の世界情勢分析を登場人物達の視点から語らせている箇所は、それ自体が読者にとり現在を考える材料になり有益である。今回は次のような事項が盛り込まれて行く。簡略に列挙しよう。
1.トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めた発言と各国の政治的思惑
 世界情勢に与える影響と反応について
2.上記しているが、本作のモチーフにもなっている「無戸籍者」問題
3,ATM機器の利便性とATMデータに関連したIT技術上のリスク管理問題
4.中国の銀聯というデビットカード・システムの持つ意味と中国の富裕層について
5.DBマップ情報と地図画像について
6.A3放送について:この用語をネット検索したが関連情報はない。
 「平壌放送」というウィキペディアの項目を見つけただけ。現実味のある話と思う。
 フィクションの類いではないだろう。考える材料になる。
7.「長銀大阪」の破綻と公的資金投入問題の意味すること
8.仮想通貨の現状と問題点
詳しくはストーリーを楽しみつつ、一読されるとよい。これらの箇所だけ読んでも良い刺激になると思う。

 ご一読ありがとうございます。

本書を読み、関心を抱いた事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
ハロウィン  :ウィキペディア
起源や由来、仮装の意味は? ハロウィンの疑問まとめ :「Let's enjyoy Tokyo」
ハロウィンは日本にいつから定着した? 起源と歴史。海外との違いは?
                :「日本文化研究ブログ Japan Culture Lab」
日本の「無戸籍者1万人」は、なぜ生まれるのか  :「東洋経済」
無戸籍の方が自らを戸籍に記載するための手続等について :「法務省」
東京ジャーミー・トルコ文化センター ホームページ
日本最大のモスク「東京ジャーミー」 :「nippon.com」
平壌放送  :ウィキペディア
今こそ「朝銀に1兆4000億円投入」の闇を解明すべき --- 山田 高明氏  :「アゴラ」
「朝銀の公的資金投入」と「歴代内閣」の関連  :「Dogma and prejudice」
朝銀信用組合 :ウィキペディア
朝銀信用組合の破綻に対する公的資金投入に関する質問主意書 西村眞悟氏 :「衆議院」
The Globe Now: 朝銀~金正日の集金マシン :「国際派日本人養成講座」
銀聯国際 ホームページ
銀聯カードはどこで作れる?普及した理由や使用方法を解説 :「三井住友カード」
暗号資産(仮想通貨)とは?暗号資産(仮想通貨)取引について知る:「DMM Bitcoin」
仮想通貨とは何か?初心者にもわかりやすく解説【漫画付き】 :「Coincheck」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。
『一網打尽 警視庁公安部・青山望』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 国家簒奪』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 聖域侵犯』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 頂上決戦』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 巨悪利権』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 濁流資金』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 機密漏洩』 文春文庫
『警視庁公安部・青山望 報復連鎖』 文春文庫
『政界汚染 警視庁公安部・青山望』 文春文庫
『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』 文春文庫


最新の画像もっと見る

コメントを投稿