遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『一網打尽 警視庁公安部・青山望』  濱 嘉之  文春文庫

2018-06-22 22:14:21 | レビュー
 警視庁公安部・青山望シリーズの第10作となる。このシリーズのおもしろいところは、やはりそれぞれ異なる部署に所属し、それぞれの部署で活躍する同期カルテットが、青山望を中軸にして事件解決のために結集するところにある。刑事警察と公安警察が融合して、日本の敵と対決するという事件の展開プロセす並びに事件のスケールの広がりがおもしろい。かつ、取り上げられたテーマに2010年代という同時代進行の問題事象を取り込み、そこに潜む深刻な問題点に読者の関心を向けさせるところにある。
 併せて、このシリーズでは同期カルテットの警察組織内でのポジションや環境(個人的な側面を含む)が変化していくところにも、楽しみとおもしろみが加わってくる。

 この第10作における同期カルテットの現職を取り上げておこう。
   青山 望  公安部公安総務課第七担当管理官
   大和田博  警務部参事官特命担当管理官
   藤中克範  警察庁刑事局捜査第一課分析官  警視庁から出向中
   龍 一彦  刑事部捜査第二課管理官
 さらに、この第10作の楽しみどころは、青山が遂に結婚したという段階に入ったのだ。そして、今回のストーリーは、諸般の事情を考慮し、武末文子との結婚入籍の手続きを終えた青山夫妻が、プロローグにおいて、京都の祇園祭見物の旅行中の場面から始まり、ストーリーのエンディングでは、青山望・文子夫妻の結婚披露宴の場面が描かれる。エピローグでは、青山が来年の初夏にスイス・オーストリアに新婚旅行をする予定だという話まで出てくる。
 プロローグは、祇園祭の宵山をそぞろ歩きする男と女が祇園祭の歴史に関わる蘊蓄噺の会話から始まる。祇園祭好きにとり、またこのシリーズの愛読者には楽しい始まりである。そればかりではない。この男と女、つまり青山望・文子は、一作である。

 この楽しい筈の祇園祭宵山が事件の発端となる。なぜなら、山鉾のある通りから少し離れた細い通りに入ったところを散歩気分で二人が歩いていると、近くで銃声が3回したのだ。女の安全確保をした後、男はその現場を物陰からスマホで録画する。そして即座に男(青山)は110番することに。このストーリー、冒頭から青山が事件の第一通報者となり、積極的に事件解決に協力していく巡り合わせになる。青山が撮った動画が鮮明であったので、この事件の直接関係者の一部を早急に逮捕することにも繋がる。宵山歩きのために、貸衣装の和服を利用していた文子は、それを返却に行ったときに、思わぬお手柄の協力をするという状況に遭遇する。ストーリーの出だしから楽しい展開になる。
 祇園祭の宵山という大勢の人々が往来する京の町中で、韓国の集団スリの連中がチャイニーズマフィアに撃たれたという事件の事実関係がまず速やかに明らかになる。青山の録画した証拠の中に、追跡監視されている人間が識別された。韓国の集団スリの素性とともに、集団スリがチャイニーズマフィアに撃たれるという関係が生まれる喉に重要な何が盗まれたのか? 京都府警刑事部の一番ケ瀬徹係長は、動画に京都のチャイニーズマフィアのリーダーらしき男が写っていると識別する。使われた銃としてS&Wリボルバーのミリタリー&ポリスが映っていた。この事件の構図に青山のアンテナが動き出す。これは氷山の一角で、その下には大きな蠢きがあるのではないか・・・・・と。
まず、藤中から連絡が入り、青山が京都に滞在中に、藤中が1週間滞在の予定で京都に来ているという。発砲した実行犯は博多港から船で逃走、チャイニーズマフィアではなく、北朝鮮がかかわっているという話がでているという。一方、やられた韓国人グループの半数が在日で、半グレでもあるという。中国系、韓国系の拠点となっている半グレのネットワークとなると、元暴走族「東京狂騒会」をルーツとする新宿グループも視野に入ってくる。半グレの実態が絡んでくると公安部の出番となる。青山は都内の半グレのバックグラウンドには国際マフィアがきっちり付いていて、外国資本や外人部隊を活用したIT戦略での犯罪に出ていると言う。それが仮想通貨に及ぶと青山は予測していた。そこに反社会的勢力が絡んでくるとすれば、暴力団情報のスペシャリストである大和田の出番となる。知能犯罪の要素が絡むことにより、龍がさらに関与してくる。

 京都で発生した事件は、東京の半グレ、反社会的勢力の存在と直結し、そのバックグラウンドの、チャイニーズマフィア、コリアンマフィアの力関係の変化や北朝鮮のサイバー部隊と深い関わりが浮彫にされていく。北朝鮮のサイバーテロ問題に絡み、また仮想通貨強奪計画のという風に、広域化しかつスパイラルに様々な事象が結合していく。それを解明できる契機が京都大学が独自に開発していた認識システムにあったとしているところがまた、おもしろい。このシステムが実在するのか、フィクションなのかは知らないが。

 このストーリーの進展での読ませどころは、やはり青山望の着眼点と、青山がその人脈を通じて、事件解決に連なる情報を手繰り寄せていくプロセスにある。その人脈の中に、今回もやはり、岡広組を隠退し今は高野山に隠棲する形を取っている清水保が情報提供協力者として登場するのがおもしろい。そして、それを同期カルテットと情報共有し、同期の餅屋は餅屋の得意領域との相乗効果を引き出していくところにある。そしてこの情報が現在時点の我国・世界の状況とほぼ同時進行的な内容として書き込まれていくとことに、おもしろみがある。そして、一網打尽の解決へと導いていく。

 この第10作の副産物として興味深い事項が2種類含まれている。一つは、京都に絡んだ諸事の具体的な知識情報がストーリーの前半に点描的に織り込まれていき、ストーリーの背景としての情緒・雰囲気を形成していくところにある。一部重複するが、これらの項目だけ拾い読みしてもおもしろい情報提示になっている。
 プロローグの山鉾『動く美術館』の蘊蓄話、祇園祭宵山の山鉾巡りコース、ホテル改築に絡む京都の景観論争問題、高瀬川の由来、たん熊北店本店の料理場面、祇園祭の「お位貰い」の裏話、祇園祭の稚児の生活と行事、京都の造り酒屋の銘柄、京への外国人旅行者のことなどである。

 もう一つの副産物は、ストーリーの展開に深く関連しながらも、同時代進行の事象を一部フィクション化してまで織り込み説明する周辺情報である。その多くは同期カルテットの誰かが語る形になっている。次の項目が含まれている。
 「慰安婦ツアー」、芸能ヤクザの状況、「身代金(ランサム)ウェア」、中国人民解放軍の陸水信号部隊、銅聯カード、ルートクラック、内閣サイバーセキュリティセンター、
紅二代、在日特権、Zcash、クレジットカードのスキミング、4クリック詐欺、マイナンバー制度、光棍児、ランドオペレーター(/ツアーオペレーター)など。
 現代情報の穿った解説本という局面を持っていて、著者がどうとらえているかと言う点で参考になる。ストーリー内での説明と、一般ネット情報を重ね併せると現実理解が深まると思う。
 
 ご一読ありがとうございます。

本書を読み、ストーリーから派生した関心の波紋でネット検索した事項を一覧にしておきたい。
大分県教組「慰安婦ツアー」、県教委の自粛要請聞き入れず実施 :「産経ニュース」
大分県教組が「慰安婦ツアー」違法募集 産経が1面トップで批判 :「JCASTニュース」
ICIJ International Consortium of Investigative Journalists ホームページ
中国人民解放軍のサイバー部隊『61398部隊』とは :「NAVERまとめ」
中国サイバー軍  :ウィキペディア
銀聯カード  :「コトバンク」
21世紀に主流となったマルウェアの原型、メリッサ・ウイルス :「CANON」
内閣サイバーセキュリティセンター ホームページ
【専欄】「紅二代」は「統治階級」か 元滋賀県立大学教授・荒井利明:「SankeiBiz」
Internet Cash  Zcash ホームページ

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こちらの本も読後印象を書いています。お読みいただけるとうれしいです。

『警視庁公安部・青山望 機密漏洩』 文春文庫
『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』 文春文庫



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