遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『特等添乗員αの難事件 Ⅱ』  松岡圭祐   角川文庫

2014-11-06 00:21:40 | レビュー
 凜田莉子の活躍する万能鑑定士Qのシリーズと同様に、この特等添乗員αのシリーズも脇道の事件やエピソードを交えながら本筋の事件の展開が始まるという構成になっている。特等添乗員αである浅倉絢奈がラテラル・シンキング(水平思考)をそれぞれの局面で発揮する。

 本作品は、まず脇道になる受験生合宿ツアー企画の添乗で起こる珍騒動に絢奈が即時対応で水平思考を働かすおもしろさから入って行く。ところが、この合宿先で7,8人の集団による窃盗事件が発生する。添乗業務の一環として、割り振られた区域を絢奈が深夜に巡回したとき、この窃盗団が引きあげるところに出会うのだが、彼女の思考力が働かず窃盗団のリーダーの虚言に惑わされ見過ごしてしまうのだ。
 これが絢奈にとって一種のスランプへの危機となる。絢奈は泉谷社長から「しばらく休め」と告げられるのだ。泉谷は絢奈の水平思考力を高く買っているが、「問題はな、きみが論理的に考えられなかったことにあるんだ」と指摘する。
 このときの窃盗事件は絢奈にとって一敗となる。それだけでは勿論おさまらない。本作品の最後には、絢奈がこの窃盗団に別事件でリベンジを果たすことでケリが付けられハッピーエンド。この点は、脇道事件の曲折として描かれて完結するのだからおもしろい。

 この第2作のおもしろいところは、絢奈が壱条那沖に招待され、初めて港区高輪一丁目に所在の壱条家を訪問するのだが、その日親族を含めた壱条ファミリーとご対面となる。しかし、そこで鼻持ちならない状況に出くわしてしまう。水平思考である一件をやりこめた後、「中卒だから難しい話はわかんない。ごちそうさま」と告げて、壱条家を後にする始末。絢奈と那沖の関係は破綻するのか? その後の展開の楽しみをこの作品は与えてくれる。那沖と燕尾服姿の能登廈人とのやりとりが興味深い。

 那沖「女性とは何人もつきあったのに、こんなにうまくいかないのは初めてだ。今度こそ本気なのに」
 能登「過去の経験から固定観念にとらわれるのは好ましくありません。まずはそれを改めるべきでしょう。かつてお父様にもそう申しあげました」

 絢奈と那沖の恋愛がどう進展するか・・・・それは本筋の事件で二人が関わらざるを得ない状況に追い込まれることで、進展をみるのだ。お楽しみに。

 他にも出てくる脇道の一行紹介をまずしておこう。能登による絢奈のスランプ状態チェック。泉谷社長による絢奈への難問課題の提示。能登が那沖を試す質問、それは絢奈にも提示した質問である。エピソードが盛りだくさん。おまけが楽しめる次第。

 さて、本筋の事件は泉谷社長の課題をすんなりと実演で回答した絢奈は、国交省の筋からの指示として、香港・マカオツアーの添乗業務が指示される。別の添乗員で企画されていたのだが、その搭乗機にある密命を帯びた国会議員数名の一行が乗り込み香港に向かうということから、一般乗客のツアーにも影響が及んだという次第なのだ。素性の定かでない者はできるだけ同機への搭乗対象から外すという次第。絢奈は以前、行政に協力した実績があるのでツアー添乗員にと指示されたのだ。
 その結果、姉の浅倉乃愛がキャビンアテンダントとして搭乗する便に、絢奈が添乗員業務で同乗していくことになる。
 この香港への飛行途上でいろいろトラブルが発生する。国会議員の無茶ぶりの行動から始まり、機長がなぜか体調を崩し、操縦ができなくなるという重大なハプニングにも遭遇していくという展開。機長の体調崩しを起こさせた犯人捜しまでに至る。絢奈は搭乗機内では、姉の乃愛を持ち前の水平思考の発揮で手助けしていくという展開になる。
 だがこれは、本筋事件の前半だ。まあ、前半分は脇道事件、エピソードの部類。
 そして、香港の到着後、絢奈には早速香港ツアーの添乗初日がスタートする。この初日の行程でのエピソードもおもしろい。初日のツアーが終わり、絢奈が一息ついた直後から、絢奈に期待が寄せられる難事件が待ち受けていたのである。
 なんと、壱条那沖が香港の絢奈の前に突然現れる。那沖は急遽香港に呼び出されたのだ。那沖にとっては公務である。それはあの密命を帯びて香港にきている国会議員が関わっていた。国会議員の根橋は、那沖と絢奈を在香港日本総領事館の入居している超高層ビルの47階に呼び出す。そして、彼らの真の目的を二人に告げる。それは、政府与党の会計士だった戸羽泰誠をこの香港で探し出すということなのだ。日本の警察、現地香港の警察にも一切相談はされていない。領事館が知りえた情報をもとに足跡をたどり、戸羽を捜し出し日本に連れ帰る。それが根橋国会議員に課せられた密命だったのだ。
 年齢36歳の戸羽はある大臣の資金管理団体のトップを務めていた人間で、政治活動と偽って47億円を横領着服した疑いを持たれているのだという。それが世間に知れれば、政府与党としては政権を揺さぶる大事になる。添乗員業務は明日から代替要員を付ける手配を講じたので、この戸羽捜しに専念して欲しいという根橋議員の要望である。那沖が呼び出されたのも、那沖の父が政府与党の人間であったからでもある。絢奈は自分の業務は遂行する、ツアーのお客さんを私が預かって香港に来たのだからと譲らない。添乗業務の合間の限られた時間帯で、根橋議員の要望に協力するという。那沖に協力して明日の朝までに戸羽を捜し出そうと時限をきる。そこから絢奈にとって徹夜での戸羽捜しが始まるのである。
 香港での足跡追跡がマカオへの渡航による追跡へと繋がって行くが、マカオで姉の乃愛が偶然絢奈と那沖に加わることになる。香港便内の事件関連で、乃愛は帰りの搭乗予定便を外されたため、マカオに来ていたのだ。戸羽を探索するプロセスに巻き込まれた乃愛は妹絢奈の力量を初めて知り、妹を見直すことになる。浅倉家にとっては、ハッピーな展開になる作品出もある。

 この本筋の難事件の探索プロセスはスピーディであり、いろいろと豆知識情報が盛り込まれながら、おもしろい展開となる。ここはこの作品を読んで楽しんでいただくとよい。
 「え、縁談!? 官房長官のご子息と、絢奈がですか? 乃愛でなくて絢奈? ああ、どうしましょう」と、浅倉家の玄関先での母親の慌てるこっけいな場面が終わり近くで繰り広げられるので、これまたおもしろい次第。
 これが最後のシーンでないのは、絢奈のリベンジが巻末を飾るからである。
 
 この作品に凜田莉子はついに登場してこなかった。
 
 ご一読ありがとうございます。

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本作品に関連し関心を抱いた用語などをネット検索してみた。一覧にしておきたい。

味覚 :ウィキペディア
舌の役割とつくり、味の感じ方 - 人体図・図解・体の仕組み :「gooヘルスケア」
ジャグリング  :ウィキペディア
サイレント・サーティ・セカンド ← 客室乗務員の“沈黙の30秒間”:「AllAbout」
分籍 ← 分籍届 法廷闘争 :「家族という名の強制収容所」

香港  :「香港政府観光局」
九龍  :ウィキペディア
佐敦・油麻地・旺角・太子  :「香港ナビ HONGKONG navi」
新界  :ウィキペディア
尖沙咀(チムサーチョイ)  :ウィキペディア
アベニュー・オブ・スターズ  :「香港政府観光局」
ブルース・リーの銅像 → ブルースリーの銅像もあります :「トリップアドバイザー」
在香港日本国総領事館 ホームページ

マカオ  :ウィキペディア
マカオタワー → MACAU TOWER  ホームページ
マカオ・タワー  :ウィキペディア
MGMグランド → MGM GRAND ホームページ  日本語
ウィン・マカオ → Wynn MACAU ホームページ
ウィン・マカオ  :ウィキペディア

ベッティングシステム :ウィキペディア

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特等添乗員αに関して、読み進めてきたものは次の作品です。
 こちらもお読みいただけると、うれしいです。

『特等添乗員αの難事件 Ⅰ』

万能鑑定士Qに関して、読み進めてきたシリーズは次の作品です。
 こちらもお読みいただけると、うれしいです。

『万能鑑定士Qの攻略本』 角川文庫編集部/編 松岡圭祐事務所/監修

『万能鑑定士Qの探偵譚』

☆短編集シリーズ
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの短編集 Ⅱ』

☆推理劇シリーズ
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅰ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅱ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの推理劇 Ⅳ』 

☆事件簿シリーズは全作品分の印象記を掲載しています。
『万能鑑定士Q』(単行本) ← 文庫本ではⅠとⅡに分冊された。
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅲ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅴ』 
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅵ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅶ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅷ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅸ』
『万能鑑定士Qの事件簿 Ⅹ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅠ』
『万能鑑定士Qの事件簿 ⅩⅡ』