いつもガレージには誰もいなかった。入り込んで壁のスイッチを押すとPVが再生される。イントロが流れて、階段から実物大の松本が下りてきてギターを弾く。3千円の値札がついたままだ。見ている人は僕だけだったとしても、松本は一切の手を抜かない。およそ5分の熱演が終わると松本はギターを高く掲げる。それから階段を上がって行く。無人のガレージに僕だけが取り残される。僕は自分だけのためにアンコールをする勇気を持っていなかった。僕は毎日のように、松本のギターを聴くために、ガレージに通った。時々、管理人がガレージの前を通りかかることがあったが、何も言わずただ少しの笑みを浮かべるだけだった。(また今日も来ているな)
ある週の終わり、松本の表情は少し疲れているように見えた。それでも松本は一切の手を抜かない。演奏はいつものように冴え渡り、僕を陶酔の中に引きずり込んだ。演奏が終わると松本はいつものようにギターを掲げなかった。そっと地面に置いて、1人で階段を上っていったのだ。それは自分へのプレゼントかもしれない。盗むという意識はまるでなく、僕はごく自然にそこにあったギターを手に取って、ガレージを後にした。その日は、管理人も前を通らなかった。
何も悪いことはないはずだ。PVの中だけのギターなのだし、それは僕にだけ大事であって、僕以外の誰にとっても何でもない物に違いないのだから。僕が持っていて、何が悪かろう。まだ熱の残ったギターを抱えて歩いていると不意に値札が目に入った。
(60,400円)
確か3,000円であったはず。その時、僕は急に怖くなったのだ。大事だったの?
本当は、自分以外にも広く価値のあるものなのかもしれない。早足で家に帰った。
トイレットペーパーを1つとギターを手に、すぐ家を飛び出した。
道行く人が、みんな僕のことを見ているようだった。どこかで誰かが通報したのだろうか……。
「こそこそあいつ、返すんだよ」
「一応、返すんだね」
「あいつ、ギター弾けるの?」
「ペーパーなんてつけるの?」
いちいち行動を解説されるのが、耳障りで仕方がなかった。
「やっぱり、怖くなったんだね」
振り向くな!
強く自分に言い聞かせて、足を進めた。
まっすぐ、ガレージへ進むのだ!
ある週の終わり、松本の表情は少し疲れているように見えた。それでも松本は一切の手を抜かない。演奏はいつものように冴え渡り、僕を陶酔の中に引きずり込んだ。演奏が終わると松本はいつものようにギターを掲げなかった。そっと地面に置いて、1人で階段を上っていったのだ。それは自分へのプレゼントかもしれない。盗むという意識はまるでなく、僕はごく自然にそこにあったギターを手に取って、ガレージを後にした。その日は、管理人も前を通らなかった。
何も悪いことはないはずだ。PVの中だけのギターなのだし、それは僕にだけ大事であって、僕以外の誰にとっても何でもない物に違いないのだから。僕が持っていて、何が悪かろう。まだ熱の残ったギターを抱えて歩いていると不意に値札が目に入った。
(60,400円)
確か3,000円であったはず。その時、僕は急に怖くなったのだ。大事だったの?
本当は、自分以外にも広く価値のあるものなのかもしれない。早足で家に帰った。
トイレットペーパーを1つとギターを手に、すぐ家を飛び出した。
道行く人が、みんな僕のことを見ているようだった。どこかで誰かが通報したのだろうか……。
「こそこそあいつ、返すんだよ」
「一応、返すんだね」
「あいつ、ギター弾けるの?」
「ペーパーなんてつけるの?」
いちいち行動を解説されるのが、耳障りで仕方がなかった。
「やっぱり、怖くなったんだね」
振り向くな!
強く自分に言い聞かせて、足を進めた。
まっすぐ、ガレージへ進むのだ!
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