眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

サポート・メンバー(盤外戦術)

2022-12-27 02:56:00 | ナノノベル
 どんなアウェーでもホームに作り替えることはできる。そのために周到な準備をして、多くの物を持ち込む。座布団の周りの手の届く所に私は慎重にそれを配置する。懐中時計、ハンカチ、扇子、メモ帳、鉛筆、水筒、消しゴム、クランキー、カロリーメイト、コーヒーカップ、エコバッグ。その1つ1つが私の味方である。
 対局室の空気が厳しいアウェーだとしても、視野を狭くして盤上に集中することができれば、ここは見慣れた風景。自分の部屋に近い場所と思い込むこともできる。

 温めていた新構想が全く通用しない。今までの相手とは次元が異なっているように思える。一手一手に一切の妥協なき強い意志のようなものが感じられる。逆にこちらの手は、遙か先まで見透かされているように思えるのだ。(手合い違い)自身の脳内で聞きたくもない言葉が生成される。ここに来るのはまだ早かったか……。

「場違いじゃないよ」
 懐中時計がそっとささやくのが聞こえた。
「浮いてないよ」
 ハンカチが助言をくれる。
「独りじゃないよ」
 消しゴムが転げながらつぶやいた。
 不安に押しつぶされそうだった私を、つれてきたものたちが口々に優しい言葉で勇気づけてくれる。
 彼らはただの物ではない。
 1つ1つが私にとって強力なサポート・メンバーなのだ。

「自分の力を出せれば勝てるよ!」
 エコバッグが大きな口を開けて言った。
 そうだ。
 ここまで来れた私がまるで通用しないはずはない。
 過剰な畏怖を紙屑と共にゴミ箱に捨て、私はクランキーを丸呑みした。

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