折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

ポプラ

2019-12-06 15:51:48 | ワンゴール

「もっとシュートを!」

「僕だってシュートを打ちたいですよ、監督」

「相手にとって何より怖いのはシュートだ」

「枠の中に飛べばでしょ」

「打ってみないとわからないだろう」

「打った後ではわかるじゃないですか」

「人に当たって軌道が変わるかもしれないぞ」

「そのためにはゴールに向かっていることが必要ですよね」

「勿論だとも。ゴールに向かうからこそシュートなのだ」

「ですよね。やっぱりコースが重要なんじゃないですか」

「最初に打たないことには始まらない」

「コースを狙って打つということですね」

「前に打とうとして打つということだ。その上で、コースを狙うことは言うまでもないことだが」

「そのために必要なことは何でしょう?」

「まずはシュートを打てる場所にボールを置くことだ」

「はい。自分の足下に近い場所になければ、シュートが打てませんね」

「その通りだ。それで今、ボールはどこにあるのだ?」

「味方の足下に。いや敵の、いや味方の……」

「どこだ? 今はどこにあるのだ?」

「監督。今を受け止めることなんてできません」

「そうか」

「今、僕らはみんな動いているんです。ボールも、選手も、それに」

「ん?」

「応援してくれている人々の心も」

「そうだ。それが我々が生きているということに違いない」

「はい」

「それで、だいたいは今どの辺りにあるのだ?」

「あそこです。おーい、こっちへよこせ!」

「あれは敵の選手じゃないか」

「あいつがもたもたしているから……」

「どうやら中盤が落ち着きを失っているようだな」

「そうです。せっかく僕はフリーだったというのに」

「呼吸が合ってないんだな」

「僕はあいつの言うように動いたんです」

「どのように?」

「例えば、星のようにです」

「一番星か?」

「ゆっくりと現れる星ではなく、突然流れ出す星です」

「突然にか」

「その方が人の目にはよく映るでしょう」

「そうだ。動物とは動く物であり、動く物を見つける物でもある」

「はい。僕は最善のタイミングで動き出したはずです」

「それで見過ごされた?」

「見過ごしたのか躊躇ったのか、だからみすみす敵の足下へとボールは渡ってしまった」

「あまりに星に寄りすぎたのではないか?」

「だったらどうなるんですか?」

「心が整っていなかったのかもしれない」

「願い事が準備されていなかったと言うんですか?」

「仮にそうだとしたら、見えていても出せなかった」

「考えすぎでは?」

「監督は選手以上に考えなければならない」

「そんなことはあり得ないことです」

「どうしてかな」

「僕たちの願い事は最初から決まっているからです」

「ゲームに勝つことだな」

「はい。このピッチに立つ者なら、みんなわかっていることです」

「大きく言えばそうだが。人間は一瞬の内に多くを忘れることもできる」

「そんな……。フリーズじゃないですか」

「願い事を細分化してしまったという可能性もある」

「それで一つを咄嗟に選べなくなったと言うんですか?」

「そのようなケースもなくはないということだ」

「考えすぎにしか思えません」

「あるいは……」

「今度は何です?」

「願うよりも早く動きすぎたのかもしれない」

「確かにあいつは動けと言いました。だけどその前には、あまり動くなとも言ったのです」

「なるほど」

「そいつは矛盾です」

「動くにしても早すぎた可能性もあるな」

「ベストだったはずです」

「止まっていては見逃してしまう。早すぎたとしても、やはり見逃してしまうだろう」

「監督は何が言いたいんです?」

「時とタイミングが重要だということだ」

「それは同じことじゃないですか」

「グリム童話を読んだことがあるかね?」

「子供の頃なら少しは」

「主人公が幸せになれるのはなぜだと思う?」

「特別な力を持っているからでしょう。魔法とか」

「それは違うな」

「英雄的な力を持っていて、どんな悪にも打ち勝てるからです」

「主人公はいるべき時にいるべき場所にいて、出会うべき援助者に出会うからだ」

「タイミングだと言うんですか?」

「そうだ。主人公はタイミングだけを見計らっているのだ」

「そういう筋書きだからでしょう。作り話じゃないですか。どうにだって書ける」

「なんてひねくれた子供だ」

「僕はもう子供なんかじゃありません」

「子供の時はもっと素直だったとでも?」

「誰だってそうでしょう。魔法だって信じられるほど」

「今は信じられないと?」

「わかりません」

「疑心暗鬼になっているのか?」

「魔法というものが、よくわからなくなってしまいました」

「確かに現代は魔法のわかりにくい時代だ」

「はい」

「何が魔法で、何が魔法ではないのか」

「空も飛べるし、手を触れずに動かすこともできるし」

「夢のようだったことも当たり前にできるようになった」

「はい」

「それでも人々は魔法を求めている」

「どんな魔法が残っていると言うんですか?」

「人は魔法を求める生き物なのだ」

「それは矛盾ではないですか?」

「ピッチの上に魔法をかける選手を望んでいるのだ」

「勝利よりも魔法が大事なんですか?」

「そうは言っていない。勝つことは何より重要だ」

「でも、魔法も大事だと?」

「勝ち負けならコイントスでだって決められる」

「それなら一瞬で終わりますね」

「そうだ。だがそれはただのギャンブルにすぎない」

「サイコロを振るようなものですね」

「決めるだけならそれでも済むということだ」

「はい」

「にらめっこだって決められるんだ」

「笑わなかったらどうなるんです?」

「そうだ。人間は笑わなければならない。そのためにこのような場所が必要なのだ」

「監督。僕たちはコメディアンではありません」

「その通りだ。君の言うことは正しい」

「ありがとうございます」

「だが、人々を楽しませるべき立場でもあるということを思い出してほしい」

「言葉ではなくボールを使ってですね」

「そう。舞台よりも低く広大なピッチの上で」

「ギャグではなく、パスやシュートによってですね」

「ゴールを決めた後は、どんなパフォーマンスをしてもいい」

「ピエロのようにおどけても?」

「勿論。魔法は祝福に値するものだ」

「魔法とは何なんですか?」

「それは力だ」

「いったい何の力なんですか?」

「ゴールにつながる力、勝利へと導かれる力だ」

「それで僕はどうすれば、どう動けばいいんですか?」

「動くべき時に動き、そうでない時には動かないように動けばいいんだ」

「動いてばかりでは駄目だと?」

「そうだ。動きすぎては無駄に体力を消耗しすぎる。つまりは腹が減りすぎる」

「はい。そう言えばお腹が空いてきました」

「ピッチの袖でバーベキューをすることはできない」

「はい。わかっています」

「おにぎり一つだって食べられないんだぞ」

「あまり食べ物の話をしないでください。集中できなくなります」

「そういうことができるのはどこだと思う?」

「キャンプ場ですか? レストランとか」

「例えばそれはコンビニだ」

「ああ」

「コンビニには行くのかね?」

「普通に、行きますね」

「どこのコンビニが好きなのかね?」

「だいたい近くにあるコンビニです」

「例えばそれはポプラかね?」

「ああ、まあそういう時もありますが」

「君は菓子パンとコーヒーを買いにコンビニに行ったのか」

「おにぎりと緑茶です」

「君は欲しいもの特に欲しくはなかったものを適当に手に取りレジへと向かった」

「はい」

「けれども、そこには店員の姿が見えない」

「そういうこともありますけど」

「君は当惑した様子で身を乗り出してバックヤードの方を見る」

「店員さんを捜さないと」

「すみません。誰かいませんか?」

「……」

「すみません。誰か、誰かいませんか?」

「いるんじゃないですかね」

「けれども、奥から店員は姿を現さない。なぜだね?」

「忙しかったんでしょうか」

「そこにいてほしい時にそこにいなかったからだ!」

「当たり前じゃないですか」

「ぽっかりとスペースの空いた陳列棚に、菓子パンを並べに行っていたのだ」

「なるほど、そういうことか」

「その時、彼は君の望みとは関係なく出し手の方に回っていたのだ」

「忙しいんですね」

「そうだ! コンビニ店員はとても多忙だ!」

「はい」

「そして、ポリバレントでもなければならない」

「何でもしないといけないんですね」

「そうだ! 便利さの裏には、何でもしなくてはならないスタッフの苦労が隠されているのだ」

「はい」

「どれだけの人が、その勤勉さに対して感謝の念を持っていることだろう。君は持っているのかね?」

「これから持つようにします」

「そうだ。君が目指すべきところはコンビニだ!」

「どういうことですか? 僕がコンビニだとは」

「何かが必要な時に人々がコンビニに足を運ぶように、君がパサーにとってのコンビニになれということだ」

「わかりません。監督。よくわかりません」

「まだよくわからないようだな」

「さっぱりわかりません。ポプラになるということですか?」

「この瞬間にすべてを理解する必要はないんだ。まだ時間は十分に残っている」

「ある者は動けと言い、ある時には動くなと言うし、またある者は星になれと言い、しまいにはコンビニになれと言う者までいます」

「それがポリバレントであるということだ」

「いったい僕はどの声を聞けばいいのでしょうか?」

「それでは、一番大事なことを教えよう」

「はい。それが最初に知りたかったことでした」

「舞い落ちる瞬間の木の葉を見よ。演奏に入る間際のピアニストの肩を見よ」

「何だって?」

「多くのものに惑わされるなということだ」

「はい」

「敵は敵の中にだけいるのではない。味方の言葉が常に信頼に値するとも限らない。ある者の言うことは、ある時には正しいのだ。だが、それは必要な時に君が取り出さねばならない」

「はい」

「自分の声に耳を傾けろ。自分の心の声を拾え」

「はい」

「そして今度は、自分の声を上げるのだ。ここによこせ! ほら、今だ! ここにパスをよこせ! と」

「俺によこせ!」

「そうだ! それでいいんだ」

「俺によこせ! ここに出せ!」

「そう。もっと、求めろ!」

「俺によこせ! 俺によこせ!」

「そう。もっと! もっとだ!」


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