眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

文具フェス

2020-08-24 04:31:00 | ポトフのゆ
 よい本とよい文具があれば全部が全部上手くいくのだ。マイブック、マイ文具。校長は自分の主張を少しも曲げようとしなかった。

「文具が本気で競い合えば、子供たちも本気になる」
「競い合う狙いはどこにあるんです?」

 校長と意見が対立していいことなど少しもなかった。究極の目的が同じところにあるとは思えないほど、それはいつも反対の方向を向いていたのだ。いつしか自分で考えなくても、校長の考えを聞いて振り返った先にあるのが自分の意見だった。周りの先生についてはどうだ。みんな自分の意見を持っているようには見えない。職員室に貼り付いたエキストラの集まりに違いなかった。

「教育の本質はよい文房具を与えることにあります」
 そうして校内文房具王決定戦が開かれることになった。

 確かな消しゴム、名産計算機、気の長い物差し、賢者仕込みの鉛筆、強面の万年筆、芯の強いコンパス、後腐れない下敷き、天性の修正ペン、強靱なシャーペンの芯、次々と名乗りを上げた文房具たちが、次々と予選で姿を消していく。気むずかしい消しゴム、浅ましい鋏、踊るボールペン、潜在能力の高い鉛筆、少年の手帳、献身的なサインペン、転がり続ける定規、狐の筆箱、義理堅いテープ……。まるたにグループは次々と温めておいたアイテムを出してくる。

「先生。戦いの様子をしっかりと記録しておいてください」

 しかしかくたにグループも一歩も引かなかった。
 エムのガムテープ、天狗の鉛筆、あみの鋏、薫製サインペン、ディープなシャーペン、天使のくれたコンパス、足付きのノート、ゆみの手鏡、ウールのボールペン……。延々と予選は続くが、誰も勝ち負けをつける者がいなかった。運営に問題があったからだ。

「どちらが勝っても負けることになるのよ」
「そうです。こんなフェスはフェアじゃない!」

 カリスマ教師の声に、まるたにグループの一部から賛同の声が上がったが、審判は文具総とっかえのサインを出した。
 邪心を洗うインクが床に滲み出て、感性ばかり磨く消しゴムがその上を転がっていった。


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