※谷川直子(1960年神戸市生まれ。2012年「おしかくさま」で第49回文藝賞を受賞。他の著書に「断貧サロン」「四月は少しつめたくて」「世界一ありふれた答え」「私が誰かわかりますか」「愛という名の切り札」など)
●老衰介護看取り小説なんてジャンルは初めて聞いた
認知症の96歳の父を看取るまでの20日間、家族と介護士、看護師はどうかかわるか。誰もが迎える最期には何が必要? 一茶の句が持つ庶民のリズムと見捨てない暖かさに包まれた、老衰介護看取り小説。
トイレへ行くのも、ご飯を食べるのも、お風呂に入るのも一大事業。それに認知症が加わる。そしてだんだんとできなくなっていく。
自分も娘が2人。迷惑をかけず、綺麗に死んでいくのが理想だが、こればかりは自分でコントロールすることはできない。死ぬのは大変である。寝たきりになってしまえば、死ぬまでにお金と労働力がかかり、娘たちの時間も奪ってしまう。23年前に母、13年前に妻、5年前に父を亡くしているので、ひとつひとつが「うんうん、そうだね」とうなずけるような、共感の持てる作品だった。死へ向かう悲壮感がないのも良かった。
「ママ、延命治療はせんでええんよね」
「せんでええよ。点滴だけで」
「いや、点滴も延命治療やし」
「ちがうよ、水分補給やん。水分取らな、死んでしまう」
「自然にまかせる」。そう決めていても、明らかに矛盾しているこの気持ちはよく分かる。
ところで、老衰介護看取り小説なんてジャンルは初めて聞いた。
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