お父さんのマリポタ日記。
マリノスのこと、ポタリングのこと。最近忘れっぽくなってきたので、書いておかないと・・・
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※小川哲(1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。本作で第8回日本SF大賞、第1回山本周五郎賞を受賞。



●シリアスの中にドタバタ喜劇も

 1956年のシハヌーク国王時代からロン・ノルのクーデター、そして75年のクメール・ルージュによるサイゴン陥落、ポル・ポト時代の大虐殺などのカンボジア内戦の中で生きる人々を描く、上下巻で合計700ページ超のSF大作。上巻が内戦、下巻はその半世紀後の模様が語られる。第168回直木賞を受賞した「地図と拳」と同様な展開の群像劇。

 後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子とされるソリヤ。貧村ロベーブレソンに生を受けた、天賦の習性を持つ神童のムイタックを中心として、ホントのようなウソの物語が進行していく。虐殺、拷問、処刑などシリアスな場面があると思えば、ドロと会話できる「泥」、13年間喋っていない「鉄板」、輪ゴムと会話できる「クワン(輪ゴム)」という奇想天外な登場人物も現れる。ほかにも妙な習癖の連中が出てくるが、実はそれぞれが重要な役回りを演じている。

 「意味不明」「訳が分からない」という言葉が何回も現れ、問題を提起しても答えは「自分で調べろ」「知らない」「グーグルに聞け」と笑いを誘うような描写もあちこちにちりばめられ、高校時代によく読み、ファンクラブにも入っていた筒井康隆(※)のナンセンスSFを思い出した。いわゆるドタバタ喜劇だが、これが意外に「ありそうだ」と納得できる内容となっているので面白い。「ゲームにはルールが必要。そしてそのルールを決めるルールも必要。さらに…」。どこかにそんなニュアンスの表現があったような気がする。なんのこっちゃ。

 本人もインタビューでこう語る。「(中高時代は)SFにハマりました。筒井康隆を読んで『めっちゃ面白いじゃん』となり、ショートショートにハマって星新一を読み、フレデリック・ブラウン、レイ・ブラッドベリ、アシモフ、ハインラインを読み...。」「小松左京の『日本沈没』を読んでいない段階で筒井さんの短篇の「日本以外全部沈没」を面白く読み、その後元ネタの『日本沈没』を読んで「これって『日本以外全部沈没』のパロディじゃん」みたいに思ったりして」。影響は少なからずあったようだ。

 史実(リアリズム)の中にとんでもない大ウソ(マジックリアリズム)を織り交ぜ、後半は脳波によるゲームというSF色豊かな展開となる。図書館の返却日を気にしながら読む本ではないな。「地図と拳」とともにもう一度、じっくりと読んでみたい。

 ※筒井康隆…小松左京、星新一と並び「SF御三家」とも言われる。「時をかける少女」「にぎやかな未来」「日本以外全部沈没」「48億の妄想」「家族八景」「七瀬ふたたび」など。「ベトナム観光会社」「アフリカの爆弾」で直木賞候補。

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