AKB48の旅

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「クロユリ団地」

2014年04月23日 | AKB
見終わってから、しばらく放心状態。凄い映画を見たという思いと同時に、少し(かなり?)残念な気持ちが綯い交ぜになる。それでもいちおう、面白いか面白くないかと聞かれれば、面白いと答えることになる。少なくとも「苦役列車」よりは何倍も面白い。けれども・・・なんだよなあ。

まず書かずにはいられない。前田さんの鬼気迫る演技。これは絶賛して良いんじゃないか。本作は日本の実写映画にしては珍しく、説明台詞がほぼないんだけど、それは前田さん演ずる二宮明日香の表情を見てるだけで、状況が分かってしまうからだろう。逆に言うなら、説明台詞というのは、役者の実力不足and/or監督の力量不足の現れなのかも知れない。

ストーリーも、そんな前田さんの圧倒的な説得力によって、心に深い傷を負った二宮明日香の、リアルメンヘラな心象風景の描写として進んでいくように見える。というかそれ以外に見ようがない。ちなみにこれは、たぶん予備知識がなくても、映画の冒頭から自然に理解されることになる。そんな明日香の心の傷を殊更に抉るような展開がしばし続き、見る者の心を揺さぶることになる。けれども、次第に鼻についてくることになるベタな演出と安易なストーリーが、やがて興ざめへと誘ってしまうことになる。

そうなんだよなあ。この演出問題。最初からもう少し丁寧で抑えめだったら、今ぱっと思いつく比較例としては、映画「シックス・センス」くらい自然だったら、そして何とも残念な後半の破綻がなかったら、本作品は間違いなく傑作になってたんじゃないかと思う。

この演出の「そうじゃない」感は、映画が進むにつれ、時間を追うごとに次第に増幅して行って、後半に顕著となるチープなオカルト描写、修験道ライクの除霊のシーンとか、成宮寛貴さん演じる笹原忍の焼死とか、せっかくの前田さんのスーパーリアル感を台無しにしてしまってるとしか思えない。作品中でも、台詞としてしっかり「霊は人の心に憑く」と言ってるんだから、あくまでもその世界観を徹底して欲しかった。

と言うか、言い切ってしまって良いのかどうか迷うんだけど、本作は監督、脚本家の想定や技量を上回る前田さんの快演によって、主人公の二宮明日香だけが想定外のリアリティレベルに到達してしまって、結果的に作品としては破綻してしまったんじゃないか。本作の基本設定通りの二宮明日香という人物なら、前田さんの到達した姿の方が圧倒的な説得力を持つ。けれどもストーリーはまったくついて行っていない。敢えて悪し様に言うなら、失笑もののオカルトに逃げてしまったようにしか見えない。

もちろん、レベルを合わせるべきとする考え方もある。良く言われる比喩としては、マクドナルドのハンバーガーは、バンズとハンバーグとチーズを個別に食べてもちっとも美味しくない。けれどもそれらを一緒に食べると、それなりに美味しくなる。主役たる前田さんが、作品のレベルに合わせるべきだったとかなんとか。

要するに少なくとも私の目には、前田さんと監督あるいは脚本家がケンカしてる、そんな風に見えてしまったことになる。役者が優れていることを前提として、役者が走り出したなら、そのモメンタムを邪魔しないのが傑作へと辿り着く秘訣だろうし、当然のこと、製作スタッフにもそれだけの技量が求められることになる。そういう作品に前田さんが巡り会える日が来ることを祈るしかないように思う。