本蔵院 律良日記

熊本県にあるお寺“真言宗 本蔵院 律良のブログ”日々感じるままに活動のご報告や独り言などを書いた日記を公開しています。

聞くということ

2016-06-01 21:31:27 | 住職の活動日記

人間と動物の違い、

いろいろあると思いますが、

一つには言葉をもっているということ、

そして、

その言葉によって考え、

自分という人間を明らかにしていく

ということがあると思います。

 

お経も読んでいますと、

たいていのお経は

「如是我聞」(にょぜがもん)

という言葉で始まります。

普通には

「私はお釈迦さんの話をこのように

聞きました。」

と訳されています。

しかし、

インドの言葉は厳密で、

この「我」という字は主格ではなく

ロカティブという於格になっています。

インドの言葉は名詞が8格に

変化します。

ですから、

正確には、

「私においてはこのように…」

となるのです。

そこには、私という主格ではなく

私において、と

自分がというと、

自分が自分がと、そこで

自分の我執が出てくる

そのことを否定するために

「ロカティブ」にしてあるのでしょう。

 

仏教では「聞く」ということを

一番大切なこととして、

修行も、「聞・思・修」という三慧の

最初に「聞く」ということを持ってきてあります。

 

「聞香」といって、

お香も嗅ぐとは言わないで

「お香を聞く」

とこいってあるのです。

仏法にふれる、

人生を味わう、

いろいろ面白い表現があります。

 

よくみていると、

なかなか聞くということは

難しいのです。

とくに、私らの世代になると

どうも話がかみ合わない

お互いが自分の言いたいことだけ

しゃべっている、

謙虚に人の話を聞く、

本当は自分を無にしなければ

聞けないのです。

そして、人の話を聞くのは

ある面、自己を否定しないと

話が入ってきません。

また、聞いたとしても

自分にとって都合の良いように

聞いてしまいます。

 

人の話も、

自分を無にして真剣に聞くか

それともお互いに誤解して

美しき誤解をして聞く

お互い誤解をしているから

それでうまくいっている面も

あるかもしれません。

 

政治の場面でも、

対話というよりも

お互いに自分の主張を

言い合っているだけ、

そのようにも聞こえます。

 

私もいらぬ裁判を受けて立つことが

ありました。

最初は「被告」という言葉に随分と

悩まされ落ち込みました。

言う方が原告で、

訴えられてる方が被告で

別に気にすることはありません、

といわれても、

「被告」という言葉には

こちらにとっては悪いことした

ように受けとってしまうのです。

本当に裁判とは好き勝手なことを

言うもので、

なぜそのような無茶苦茶なことを

言うのか分かりませんでした。

真剣に聞いて、真面目に答えると

そのことは問題にしないで

また別のことで難癖を言ってくる

4年以上も続き、

言葉の通じない空しさで

一杯になりました。

しかし、

結審のとき、裁判長が

この事件について一番よく理解

して頂いたことに救われました。

 

だから、聞くということの

難しさ、大変さを身をもって感じました。

お寺という場所、

いろいろな方がいろいろな悩みを

持ってお参りにお見えになります。

そのことをいかに真剣に

相手の方の身になって

聞き取れるかということが

お寺にいる人の務めだと思います。

聞く方のこちらも

物凄いエネルギーがいります。

同じ話を何度でも聞く、

それは聞きましたと、

言ってしまえばおしまいです。

同じ話でも初めて聞くように聞く、

 

3ヶ日間にわたって同じ話を

聞いたことがあります。

その方の人生を聞くわけです。

そこまで聞き取ると

やっと満足される、ということが

あります。

 

振り返ってみると、

裁判ということもお互いの言い分を

もういいですか、というまで

愚痴や文句を出させる

出尽くした所で判決をだされるのでしょう。

 

金子大栄という先生は、

お浄土は言葉のいらぬ世界

人間の世界は話せばわかる世界

言葉の通じない世界が地獄である

ということをおっしゃっていました。

 

聞く耳を持つ、

聞くという修行をする

このことが一番最初の修行なのです。

 

 

 

 

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