7月23日、(公財)東京市町村自治調査会主催のシンポジウムが府中の市民活動センタープラッツのバルトホールで開かれました。
正式なタイトルは「人口減少・少子高齢化社会を見据えた多摩・島しょ地域自治体における地域戦略としての多文化共生
~経済分野と防災分野の取組から~」といいます。
市町村共同の行政シンクタンクである東京市町村自治調査会の調査研究結果発表シンポジウムとして、例年行われている催しです。
東京TAMAタウン誌会で取材と勉強を兼ねて参加しました。
タイトルが長くて、なにやら難そうなシンポジウムに思えましたが、多文化共生の現状と将来へ向けての課題が分かる身近な内容。
登壇の方々のそれぞれの立場からの話は大変興味深いものでした。
東京市町村自治調査会の理事長である、長友調布市長の挨拶から始まりました。
基調講演は(一財)ダイバーシティ研究所代表理事で明治大学大学院兼任講師の田村太郎さん
阪神大震災の時「外国人地震情報センター」を設立以来、多文化共生推進事業の担い手として活躍なさっている方です。
現在、日本に住む外国人住民の総数は約270万人だそうです。
その全体の42%が「永住者」資格をもって日本に滞在し、資格を取得する外国人は毎年2~3万人ずつ増加しているとか。
永住者資格があれば住宅ローンを組めるため、自宅を購入する外国人も増えている。
母子保健から高齢者福祉まで、あらゆる領域で多言語・多文化対応が必要になる訳です。
一方、少子高齢社会で2025年の生産年齢人口は約6,560万人で、このうち1/6が医療介護に従事しなければ高齢社会の維持が困難。
2060年になるとさらに1/4になるという展望です。
もはや外国人なしでは社会が存続できないという状況になっています。
コンビニのアルバイトは外国人しか採用しないという店もあるとか。
その理由は「外国人の方がガッツがあるから」だそうです。
単身・短期の労働力ではなく、家族とともに地域で暮らす人として外国人受け入れを見直す。
外国人が安定した暮らしを続けられる環境を整備することは、地域の持続可能性に直結する。
「外国人住民のための多文化共生」から「地域の未来のための多文化共生」へ視点を変える。
自分の住む街に置き換えてみて、大変参考になるお話でした。
東京市町村自治調査会、調査部研究員の白坂奈往さんの調査結果報告
資料として「多文化共生に向けた地域における国際交流に関する調査研究報告書」と題する
分厚い冊子をいただきましたが、昨年度に行われたこの調査結果の発表でした。
興味深かったのは多摩・島しょ地域の自治体(全39市町村)、外国人住民、事業所へ行ったアンケート結果です。
●多文化共生指針があるのは約1割の自治体のみ、言語支援や意識啓発分野が中心。
●外国人住民が生活上困っているのは(1位)行政の情報がわからない (2位)母国語で相談できる病院がわからない
(3位)外国人同士のつながりがなく、助け合えない。
●外国人住民の約半数が地域活動に参加。不参加者の約4割は情報やきっかけ不足が理由。
●事業所は外国人顧客に対して、9割以上が特別な取組を行っていない。
●外国人従業員の雇用経験も今後の意向もない事業所が8割以上。
多摩・島しょ地域は全体としてはまだまだのようですね。
小さな町や村に移住してきた一人の外国人が住民に刺激を与え、地域を活性化したという話も聞きます。
地域ぐるみでの受入れ体制を確立したいものです。
「経済分野」と「防災分野」の取組に関してのパネルディスカッション
福岡や滋賀県草津市からも参加の4人のパネリストの方々。
これまで知らなかった取組ばかりで、大いに刺激を受けました。
経済分野では ●福岡市の留学生の地域定着促進への取組。
●民間で外国人専門に居住支援を行っている会社の取組。
防災分野では ●草津市の留学生等による機能別消防団(特定の活動にのみ参加する消防団)の取組。
●外国人の防災意識とイスラーム教施設での防災に関する現状について。
みなさんのそれぞれの立場での取組は実に素晴らしいものでした。
中でも福岡市の国際政策課長が話された、留学生施策としての戦略はスゴイです。
市内に8つの大学がある福岡市は、留学生をグローバル人材として育成しても就職の際は東京や大阪に流出してしまう。
そこで2年前に留学生の定着・活用のため産学官の連携組織を設立。
既卒留学生の「在留資格の規制緩和」を国に提案し、全国措置として実現させ「インターンシップ事業」を開始。
これまでのばらまき型奨学金(月2万円・90名)から福岡で創業・就職を志向する者を対象に月5万円・10名(最大40名)に変更という戦略。
これからミャンマーで開催される留学生フェアでは福岡市のプレゼンスを強化し、留学生獲得に懸命な九州大学をPRするのだそうです。
ただ留学生を待っているのではなく、こちらから出向いて優秀な学生を呼び込む時代になっているのですね。
「今の日本は留学先として外国から選ばれる国ではなくなっている」と国際政策課長。
大学経営が難しくなっている昨今、留学生なしでは経営がなりたたなくなっています。
「この先5~10年で消えてなくなる大学も出てくる。多摩地域では大学を大事にしていないのでは?」という田村さんの発言にドキッ。
産学官が一体になって本腰を入れて取り組まなければ、将来うら寂しい多摩地域になってしまうかもしれないと危惧しました。
3時間余りのシンポジウムがあっという間、価値ある午後になりました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます