大江戸散策徒然噺 Introducing Japanese culture and history

豊かな歴史に彩られた日本の文化と歴史を紹介

お江戸今戸の聖天様は「娘の拝む神でなし」の意味【浅草猿若・日本三大聖天待乳山】

2010年11月19日 11時44分03秒 | 台東区・歴史散策
日本三大聖天とは、熊谷市の妻沼聖天と浅草の待乳山聖天 と奈良県の生駒聖天の3ヶ寺であると言われてます。そして関東三大聖天なるものもあるんですね。関東では前述の妻沼聖天と平井聖天そして今戸の待乳山聖天であると言われています。

お江戸の時代の庶民の人気の遊山地を調べていると、まず出てくるのが「隅田川」です。長谷川雪旦(せったん)による絵画「江戸名所図会」の中には53の小見出で隅田川沿いの各地を紹介しています。そしてこの江戸名所図会を編纂を行ったのは斉藤月岑(げっしん)で、彼の書いた小見出しでは吾妻橋から千住大橋までの上流部分について、隅田川そのものを名所と考えていたことがうかがえます。
そして月岑のかいた日記「斉藤月岑日記」の中で記述された江戸の名所としてもっとも多く登場するのが、浅草寺と待乳山聖天への参詣です。

山門

さて今日のお題「浅草猿若・日本三大聖天待乳山」ですが、ご本尊の聖天さまは「歓喜天」とも呼ばれ、お姿は象頭人身で男女2体の像が抱擁しているという特異なものなのです。このため男女の秘め事を連想させる故に、お江戸の時代には「聖天は娘の拝む神でなし」と川柳に詠まれているくらいです。

しかしこの場所はあのお江戸の桃源郷「新吉原」の入口にあたり、大川端から猪牙船にのって今戸橋にやってきた旦那衆は、この場所で船を下り、土手八丁を徒歩で吉原大門を目指したのです。その際に、男女和合の聖天様に今宵の首尾の願掛けを心の中で祈っていたと言われています。

浅草裏にあたるこの辺りは浅草寺界隈の賑わいはまったく感じない閑静な土地柄です。墨堤を下り道を隔てたところに聖天様の山門が見えてきます。山門を入ると深閑とした佇まいのお庭が現れます。それほど広い庭ではないのですが、なにやら聖天様への願掛けの前に「心静めよ」と訴えかけられるような雰囲気を醸し出しています。

庭園

お庭からは奥の石壇にそって続く築地塀に沿って高台に置かれているご本堂へと行く事ができるのですが、私はいったんお庭を退出し、右へ進んだ階段を登る事にしました。
この階段に沿って趣ある築地塀が続いています。江戸時代の名残を今に伝えるもので、全長二十五間(約45m)に渡って続いています。

築地塀

実はこの聖天様のシンボルは「大根」と「巾着」なのですが、大根は身体を丈夫にし、良縁を成就し、夫婦仲良く末永く一家の和合を御加護するという功徳を表しているといいます。一方、巾着は財宝で商売繁盛を表し、聖天さまの信仰のご利益が大きいことを示したものと言われています。
このため、境内の至る所に大根と巾着のレリーフやそれを形どった置物が目に飛び込んできます。

階段に彫られた大根
同じく巾着

特に大根のモチーフはまさに男女和合をシンボライズしているかのように、二股の大根が交差しているというなんとも意味ありげなものまであるんですね。男女の性をおおらかに表現するなんとも楽しい聖天様です。
余談ですが、この聖天さまはもともとインドのヒンドゥ教の絶対神「ガネーシュ」にあたり、「産めや増やせよ」を標榜するヒンドゥーの教えからすれば、さして不思議ではないのかもしれません。
かつてインドを旅した時にヒンドゥ寺院を訪れると、例外なく寺院に置かれていたのが男根と女陰を形どったリンガとヨーニ。更にはカジュラホの寺院群の壁面にはなんと男女和合の姿が写実的に彫られている有様。まあ~、これに比べれば聖天様のシンボルはそれほど刺激的ではありませんが……。

こんなことはどうでもいいのですが、
本堂へと向かう階段にも大根と巾着のレリーフが施されています。階段を上り左手にはお地蔵さまが沢山並んでいます。歓喜地蔵尊と呼ばれています。古くから「子育て地蔵」として伝授され、霊顕あらかたな尊として信仰されています。

歓喜地蔵尊

そして少し歩を進めると右手に台座に置かれ見上げるように祀られているのが「出世観音像」です。昭和11年の境内整地の時に、頭の部分だけ出土し、ここに再建したことが伝えられています。足利末期(千六百年頃)の作と鑑定された学業・芸道に志す者の尊信をあつめています。

出世観音像

最後にご本堂に到着。このご本堂の至る所に「大根」と「巾着」があしらわれています。本堂内を覗くと生の大根が山積みになって備えられていました。

本堂

ご本堂は一番高い場所に置かれています。ここから眺める風情は今でこそ、周辺には高層のビルが立ち並び、更には隅田川の堤防が邪魔をして、かつて「隅田川の名所」と謳われた風向明媚な装いはまったく感じられませんでした。

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