中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

精神疾患と労災に関する一考察(2)

2016年11月29日 | 情報

1.問題提起です。「精神疾患の労災認定件数が少ない」、と思いませんか?
なぜ、そうなるのか?その理由、その背景を探ってみましょう。

2.多くの労災事故の場合、会社が全てを手続きするのが慣例になっていますが、
法令上、労災事故は、原則、被災した労働者または遺族が会社の所在地を管轄する労働基準監督署長に
労災保険給付の支給請求をして、労働基準監督署長が支給を決定することになっています。

3.しかし、
・労働者には、そもそも精神疾患をり患したことが、労災ではないかという認識がない
・労働者には、労災申請のための証拠集めが難しい
  特に、ハラスメントの場合は、言った、言わない、の水掛け論になる
・労働者には、労災申請の方法が分からない
等の理由により、当該労働者が精神疾患をり患した原因が業務上ではないかと考えても、
事実上、労働者(≒従業員、社員)は、労災申請ができない状況にあると云えます。

4.なお、労災申請書には、事業主証明欄があり、原則として、被災事実や賃金関係の証明印が必要ですが、
事業主の証明がなくても、申請は可能であることを確認しましょう。

5.一方、労災事故が発生した場合、会社側は、法令に従い、事実を所轄の労基署に報告しなければなりません。
・労働安全衛生規則 第97条   
事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息
又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を
所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

6.報告を怠ると、いわゆる「労災かくし」をしたことになり、処罰の対象になります。
因みに、労災かくしとは、「労働災害が発生した場合、会社は労働基準監督署に
そのことを報告しなくてはなりません(義務です)が、その報告を怠る、又は虚偽の申告をすること」を指します。
加えて、労災保険未加入であったり、手続きが面倒であったり、会社側の無知などの理由で労災かくしが、度々発生します。
厚労省HPにも「労災かくしは犯罪です。」と明記されています。

7.さて、会社側は、従業員が精神疾患になっても、にわかに、労災か、私傷病か、判断できません。
故に、通常では、というより、ほぼ100%労災申請の手続きを行わないのが現状です。
本来であれば、労災事故に該当すると分かった時点で、労災申請しなければならないのですが、原則として無視しています。
ある意味で労災申請の手続きを行わないことは、やむを得ないことですが。
実態としては、会社側は、法令と、その運用実態を比較し、「ほぼ、労災に該当するな」と認識しても、
精神疾患の場合は、私傷病として「当然のように」処理する傾向にあるようです。

 8.実態の参考例として、東芝うつ病事件(最二小判平26.3.24)があります。
会社側は、表向き従業員が精神疾患になっても、にわかに、労災か、私傷病か、判断できないことを理由に
私傷病扱いで処理していたのです。ところが、裁判で精神疾患をり患したのは、業務上の理由であるとされたのです。
話題になった最近の判例ですから、みなさんよくご存じと思いますが、原告がほぼ全面勝訴となりました。

余談になりますが、この裁判で企業の労務管理上の新たな課題を突き付けられました。
それは、「自らの精神的健康に関する情報は、労働者のプライバシー情報であり、
通常は秘匿して就労し続けようとすることが想定される性質の情報である。」
「使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、
その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ、
上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調に悪化が看取される場合には、
上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、
必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある。」
ということです。

ということは、今後、労働安全衛生行政が、変化していくかもしれませんね。

 (3)へ続く

 


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