中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

精神疾患と労災に関する一考察(4)

2016年12月01日 | 情報

さて、議論を元に戻しましょう。
現状、企業は、従業員が精神疾患をり患したら、単純に私傷病として処理しているのだろうか?という疑問です。
明らかに、労災に該当するのではないかという事案についても、私傷病として対応しておけばよいのかという疑問です。
先ごろ電通の問題がありましたが、もし、自死という事由がなければ、単なる「私傷病」として処理するのでしょうか。

一方で、今までは精神疾患をり患した、多くの労働者は、何の疑問を抱くことなく、
休職期間満了で、退職していきました。
しかし、これからは、「解雇または自然退職」という現実に直面すると、
はっと、考えるのでなないでしょうか。「なぜ、解雇か?」
いろいろな情報をまとめると、「自分は、どうやら労災に該当するのではないか?」という思いに至ります。
その証左として、既に、H27年度においては、精神障害等の労災請求件数で、1515件という数字に表れているのです。
また、実態の参考例として、東芝うつ病事件(最二小判平26.3.24)があります。

これに対して、中小企業は、なるがままにさせているのが、現状ではないでしょうか。
「労災申請したいのなら、ご自由にどうぞ。ただし、会社の意に沿わない労災申請をすれば、
可否に関わらず退職していただきます。」というのが一般的な対応と考えます。
一方、労働者側にとっては、例え、労災と認定され、その後の民事損害賠償で勝訴しても、勝訴まで数年は要しますし、
手にする金銭もせいぜい百万円単位でしょうから、労多くして得るものは僅かということになるでしょう。
従って、中小企業の従業員は、例え労災ではないかと推認できても、労災申請の手続きをしなくなるのでしょう。
そして、従来通りのパフォーマンスを発揮できなくなれば、解雇または、自主的に退職していくことになるのです。

問題は、大企業です。大企業は、中小企業と全く異なる対応になります。
その理由は、大企業には、「看板」があるからです。
いい表現をすれば「社会的責任」、悪い表現をすれば「損得勘定」でしょう。
労災申請が認められると、大企業、有名企業であればあるほど、マスコミをにぎわすことになります。
ましてや先の電通のように、自死事案までに至ると、当該企業のダメージは計り知れません。
ですから、中小企業のように「労災申請したいのなら、ご自由にどうぞ。
ただし、会社の意に沿わない、労災申請すれば、可否に関わらず退職していただきます。」とはならないのです。
そうしたことでの失敗例が、繰り返しになりますが、東芝うつ病事件(最二小判平26.3.24)でしょう。
多くの大企業は、東芝や電通の二の舞だけは避けたいと考えているはずです。
ですから、回避行動をする必要性が出てくるのです。
即ち、精神疾患による労災事案を、社内に隠蔽することにするのです。
結果、大企業の従業員が精神疾患をり患しても、なかなか表に出てこないということになります。
このようにして、当初に問題提起したように、
「どうも精神疾患の労災認定が少ないのでは」、という疑問に至ることになるのです。

ここから先の大企業における具体的対応は、各企業の努力による企業秘密ですし、
顧問の弁護士、社労士のノウハウにもなりますので、これ以上は言及しません。
竜頭蛇尾のようになりますが、精神疾患と労災に関する一考察は、ここで終了することにします。

(5)へ続く

コメント
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