熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジョン・W.ダワー著「アメリカ 暴力の世紀」

2018年06月21日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   The Violent American Century: War and Terror Since World War II が、原書のタイトルなので、「アメリカ 暴力の世紀――第二次大戦以降の戦争とテロ」の表題は、正しいのであろう。
   しかし、アメリカが暴力の世紀であったと言うのではなく、ダワーのニュアンスは、アメリカが引き起こした暴力の世紀と言う意味合いが強く、暴力のアメリカの世紀と言う方が適切なのかも知れない。

   戦後数十年、「パックス・アメリカーナ」と言われているが、実際にアメリカが世界の覇権を得るのでは全くなかった。
   ソ連の崩壊とアメリカの「世界随一の超大国」としての出現にも拘わらず、21世紀には、「アメリカの世紀」と言う自惚れを退ける事件が多発した。
   湾岸戦争でのイラク軍に対する圧勝やデジタル技術と精密攻撃兵器を駆使する新しいアメリカ軍が、敵にとって攻撃不可能の能力を保持していることを確認することになったが、しかし、この二重の勝利は欺瞞であった。
   アメリカは、圧倒的な軍事力にも拘わらず、冷戦期の朝鮮戦争とベトナム戦争では停戦と敗北を経験し、冷戦終焉のわずか10年後に、アルカイダに、世界貿易センターと国防総省ビルを攻撃され、これに対する応酬として開始した「テロとの世界戦争」は拡大中東圏に終わりの見えない不安定と混乱を引き起こして、アメリカの軍事的失敗を再び証明した。
   アメリカにとって無念であり失望的であったのは、国防総省の先例のない技術的優位性が、主として低レベルの不規則な戦争に関わっていた、殆ど無秩序ともいえる非国家集団や国家集団に挫折させられたことである。
   と説く。

   アメリカは、いくつかの例外を除いて、朝鮮、ベトナム、最近の中東での戦争など失敗の典型であり、勝利を味わったことがないにも拘わらず、超大国意識と言う傲慢さは、そんな失敗から何の影響も受けず、究極的には、冷酷な軍事力の維持のために必要不可欠であると言う考えから脱却できない。
   核兵器廃絶を目指すどころか、核兵器の現代化に専念し、大量破壊のための「スマート兵器」やその他の通常精密兵器の更なる開発と整備で世界の先頭を切ることに、アメリカは狂信的と言う程熱心なのである。   

   さらに、注目すべきは、現今のテロについて詳細に論じる一方、一般的にはタブーとなっている、アメリカやその同盟諸国の行っている国家テロについても言及していることで、
   この国家テロの中には、人口が密集した市や町を意図的に攻撃目標として破壊し、敵の士気を挫くために、世界大戦時から1950年代の朝鮮を経て、1960年代、1970年代の東南アジアに至るまで、長年、広範囲にわたって行われていた戦略爆撃が含まれている。
   アメリカの戦略家たちは、冷戦時代を、核軍拡競争の「テロ恐怖の微妙な均衡」を、今日では、敵を脅迫するこの狂気じみた行動が、「核兵器の現代化」と言う形で復活している。と言う。

   第二次世界大戦以降を、比較的平和な時期であったという説は、不誠実だと糾弾しており、それは、実際に起きた、今も起きている大量の死と苦悩から目を逸らせることで、1945年以降の軍事化と破壊行為を低下させるのではなく、逆に促進させてきたアメリカの責任を不鮮明にさせることだと言う。
   アメリカは、大量破壊手段の増強を止むことなく先導し、その技術に対する脅迫観念がどれほど挑発的な世界的影響を齎したか、アメリカ型の「戦争活動」が、常に空軍力とそのたの冷酷な手段に依存していたか、全体的に無視され、過小評価されている。
   人民抑圧的な外国政府へのアメリカの支援、様々な目に見える形や秘密裡で狡猾な阿智での軍事化、巨大で押しつけがましい国家安全保障国家を常に拡大し続けるために資金を注ぎ込み、市民社会に暴力が齎されたと言うのである。 

   「冷戦期の核の恐怖」で、信じられないようなアメリカの核戦略が記述されていて、アメリカの戦略並びに戦術核兵器の大部分が、ソ連と中国の共産圏を「封じ込める」重要な手段として、主にドイツなど国外に、ピーク時には7300発配備されていたと言う。
   アメリカの核保有絶頂期には、貯蔵一覧目録には3万6000発あり、核地雷や核機雷、ジープから発射できる砲弾に装備する核弾頭まであって、ジョージ・バトラーの言を引用して、「人類は、核ホロコーストを起こさずに冷戦を乗り越えたが、それは、外交的努力と、偶然の運と神の介入、その二つの組み合わせであり、恐らくは、後者が果たした役割が大きいであろう」と結論付けている。

   キューバに核ミサイル基地の建設が明らかになり、ケネディ大統領が、カリブ海で海上封鎖を実施し、アメリカとソ連邦が対立して緊張が高まり、全面核戦争寸前まで達したキューバ危機は知っているが、
   アメリカが、最初に核兵器を使う可能性があったのは朝鮮戦争、その後、1950年代に二回にわたる台湾海峡を挟む中国との緊張事態、先のキューバ危機、ベトナム戦争、1991年の湾岸戦争だったと言う。
   しかし、核兵器関連の重大事故や事件でも、数百件に及んでいて、例えば、核兵器搭載のB52爆撃機がスペイン上空で燃料補給機と接触して4発の水爆を地上に向けて落下し、2発が破裂してプルトニウム汚染したと言う。
   
   この本は、世界の警察、パックス・アメリカーナ、アメリカの提供する世界の平和と言う公共財、アメリカの核の傘などと言った国土防衛、等々、一体どういう意味を持つのか、アメリカの国家防衛や軍事政策の実態を浮き彫りにしていて、重要な示唆を与えている書物である。

   ジョン・W・ダワー (John W. Dower ) は、アメリカ合衆国の歴史学者。マサチューセッツ工科大学名誉教授。専攻は、日本近代史。
   この本では、日本を主題にはしていないが、詳細な”The Violent American Century: War and Terror Since World War II”
   非常に興味深い本で、読んでいて面白いが、知らない世界なので、私には、なるほどと読んで納得する以外にない。
   
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