熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

九月花形歌舞伎・・・陰陽師

2013年09月04日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今月の歌舞伎座は、花形歌舞伎であると同時に、非常に意欲的な舞台が展開されているので、チケットは即完売で、大変な賑わいである。
   それに比べれば、幸四郎主演で、はるかに格上の筈の新橋演舞場の舞台は、空席が目立つようで、いくら名場面を連ねた大作でも、マンネリと化してしまった歌舞伎上演が、如何に、観客に飽きられてしまっているかが良く分かって興味深い。

   今月の夜の部は、夢枕獏作の「陰陽師 滝夜叉姫」と言う新歌舞伎座始まっての新作歌舞伎で、今、絶頂期にある花形歌舞伎俳優が、殆ど総出で、華麗な舞台が展開されると言うのであるから、人気の出ない筈がない。

   私は、源氏物語や平家物語を通して平安時代を感じることが多かったので、魑魅魍魎の跋扈する陰陽師の世界には全く興味がなく、安倍清明と言っても、精々、人形浄瑠璃や歌舞伎 『蘆屋道満大内鑑』「葛の葉」の世界程度であったのだが、今回は、真っ先に、歌舞伎座へ行くことにした。

   20年前に討伐された筈の平将門を復活させて、天下を手中に収めようと目論む興世王(愛之助)が、将門の忘れ形見滝夜叉姫(菊之助)を唆して、将門の遺体を集めて甦らせようと目論むために都で起こる奇怪な事件を、安倍清明(染五郎)が、解き明かして解決すると言う物語である。
   この興世王は、承平天慶の乱で同盟したと言う死んだ筈の藤原純友だと言う設定が面白いのだが、半沢直樹の金融庁エリート黒崎を演じるおねえキャラの愛之助とは一寸ニュアンスの違った灰汁の強い悪役ぶりが、また見もので面白い。

   この歌舞伎のサブタイトルである菊之助の美しい滝夜叉姫が、百鬼夜行に遭遇する陰陽師の安倍晴明と源博雅(勘九郎)の前を通り過ぎる冒頭のシーンが、印象的なのだが、博雅の奏する華麗で荘重な笛の音が、二人の淡い恋心を象徴しながら、時に及んで福与かな雰囲気を醸し出して、この歌舞伎を陰惨なイメージから救っているのが良い。
   この歌舞伎には、作曲者き乃はち氏の演奏による新作歌舞伎『陰陽師』主題曲が、新歌舞伎場の素晴らしい音響効果で奏されていて、そのサウンドの素晴らしさは、特筆ものである。
   これから始まる物語の大きさを予感させるオープニング曲は「月光波」で、エンディング曲は「夜明」だと言うのだが、聞き惚れていたので、よく覚えていない。

   最近、シェイクスピアの舞台でも、舞台袖や上階で、古楽器が演奏される古典的な演出から離れて、大劇場などの舞台では、新しいサウンドや照明を駆使して、劇的効果をいや増す演出が行われることが多くなったのだが、これも、新芸術の発展形態であろう。
   視覚的にも、現代感覚を十二分に発揮して、創意工夫を凝らしたバックや華麗な衣装が紡ぎだす王朝物語の艶やかさと夢幻の世界は、非常に魅力的で、新作歌舞伎の魅力満開であった。

   この歌舞伎の怪異さは、平貞盛(市蔵)が患った原因不明の瘡が、将門の首の繋ぎ目だと言う設定で、その首を維持するために、貞盛が、夜ごと妊婦を襲って生血を吸うと言う怪事件が起こっているのだが、最後に、興世王が、首を掻き切って将門の遺体を繋いで復活させるも、清明と俵藤太(松緑)に追い詰められ、再生した将門とともに黄泉の世界に消えて行く。

   以前に、幸四郎の曾孫たちが素晴らしい舞台を復活して話題になったが、今回は、海老蔵が将門、松緑が藤太で、華麗な立ち回りを演じ、染五郎が水も滴る素晴らしい貴公子清明を演じて、はるかに、素晴らしい魅せて見せる舞台を展開しているて、伝統の凄さを証明している。
   そこに、三之助の一人菊之助の天下一品の美女滝夜叉姫が加わり、更に、今回は実に役周りの良い身分高く技芸に秀でた貴公子を演じた勘九郎と気品のある将門の妻桔梗の前を演じた七之助の中村屋兄弟が脇を固め、関西切っての名花形愛之助が素晴らしい性格俳優ぶりを見せたのであるから、非常に充実した新作歌舞伎に出来上がっている。
   
   興味深かったのは、蘆屋道満の描き方で、蝶をバックによい所で登場する陰陽師を、メリハリの利いた魅力的な声音で、亀蔵が熱演していた。
   それに、何時も悪役が多い團蔵が格調高き小野好古を演じ、市蔵が、個性的で難しい貞盛を器用に演じていて面白かった。

   
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