熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イアン・ゴールディン他著「新たなルネサンス時代をどう生きるか:開花する天才と増大する危険」(2)

2019年08月19日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   興味深い著者たちの指摘は、「集合天才」と言う概念である。

   イタリアのルネサンスが、熱意ある偉大な知性の存在だけでは、天才が社会全体で爆発的に増えるのに十分とは言えない。当時中国は、テクノロジーで一歩先んじており、どの地域でも才能ある個人が、人口の一定割合居て、頼れる賢い人々が2倍もいて、1450年から1550年にかけて、西ヨーロッパの文明は、奇跡でも起こらない限り、そんな中国を追い上げも追い越しもできなかった。
   ルネサンス時代のヨーロッパの躍進は、別の重大な何か、どんな人も独特な能力の片鱗を持っていて、社会がそういう多様な片鱗を育み結び付けた時に生まれる、集合天才の存在があったからだと言う。

   レオナルド・ダ・ヴィンチは、歴史上最高のトスカーナ出身の博識家だが、決して唯一の存在ではなく、トスカ―ナのエンジニアたちは、古代世界の神殿や大聖堂、道路などの秘密、過去の解決策や技術的問題を独創的に組み合わせること、あるいは、その組み合わせを図面にして伝えることなどに精通し、レオナルドが生まれた時代や場所で高く評価され、急速に広まっていた。レオナルドが、こういう芸術の新たな高みに達したのは、ひとつには、過去に関する知識の供給と、新たな組み合わせの拡大速度が急激に増している時代に育つと言う幸運に恵まれたからだ。と言うのである。
   グーテンベルクは、古郷マインツは、ワイン醸造と硬貨鋳造と言う二つの全く異なる分野の交差点で、この技術の組み合わせで、印刷機を生み出した。
   コペルニクスは、故国ポーランドの大学を遍歴して多くの高度な学問を学び、イタリアへ移って、大陸の一流の学者たちと交流して学識を積んで、世界の天空の見方を一変した。
   ミケランジェロが、サン・ピエトロ大聖堂のドームを設計したが、集合的努力が、それを完成させたのである。
   
   前述は、どちらかと言うと、偉大な天才がイノベイティブな文化の大爆発を生み出す土壌が既に備わっていたと言う感じの記述だが、それを一気に糾合して、集合天才を生み出す土壌が、メディチ家の努力によってフィレンツエで生み出されたと言うことである。
   最近、ギボンの「ローマ帝国衰亡史」や、ダンテの「神曲」などを切っ掛けに、西洋の歴史など再勉強し始めて、ヨーロッパの中世は、決して、文化文明的に衰退していた暗黒時代であったのではなく、古代ギリシャや古代ローマ、高度なイスラムの文化を内包しながら滞留していて、ルネサンスを生み出す十分な土壌を備えていたことが、良く分かったので、この経緯が理解できる。

   もう、13年も前に、フランス・ヨハンソンの「メディチ・インパクト:世界を変える「発明・創造性・イノベーション」をレビューして以降、ルネサンスを生んだフィレンツエの文化文明の十字路、メディチ・エフェクトについて随分書いてきた。
   メディチは、銀行業で富を蓄積したフィレンツェの富豪の大公で、あらゆる分野の芸術家や学者・文化人を保護した為に、ダヴィンチやミケランジェロは勿論、画家や彫刻家、詩人、哲学者、建築家、実業家など多種多様な人々が沢山フィレンツェに集まり切磋琢磨しあった。
正に、フィレンツェが異文化や異分野の学問や思想の坩堝となり、新しいコンセプトやアイデアに基づく新しい文化を創造しルネサンスへの道を開いた。
   ギリシャの黄金時代のように、異なる文化、領域、学問が一ヶ所に収斂する交差点で、創造性が爆発的に開花する、創造性に満ちた革新的な文化運動を巻き起こしたこのメディチ効果と同じ様な現象がインパクトとなって、人類社会の文化文明のみならず、国家や企業の発展、そして、イノベーションを引き起こす原因となっている、
   経済的経営学的に観れば、シュンペーターの創造的破壊であり、クリステンセンの破壊的イノベーションの起爆力であろうか。

   さて、ルネサンス時代は、大聖堂であり大図書館であったが、現在の集合的知性天才は、何であろうか。
   その典型は、ウィキペディアやリナックス・アパッチと言ったオープンソースソフトウェア、そして、フェイスブックやユーチューブ、モバイルデータによるコラボレーション、
   多言語のウェブ、膨大な科学データ分析。
   デジタル革命によって解き放された無限に開かれた世界、今こそ、スティーブ・ジョブズを生み出せば、縦横無尽にイノベーションを爆発させ得る土壌が、備わっており、正に、第2のルネサンスだと言うことであろう。
   かって手が届かなかったものが今では当たり前になった、この現在の繁栄を生かさない手はないと言うのである。
   
   
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