熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

本の再販制度は必要なのか

2013年08月19日 | 生活随想・趣味
   本や雑誌は、再販売価格維持制度(再販制度)が認められていて、出版社側が消費者に対する最終的な販売価格を決めることができる。
   自由市場経済では、通常は、商品を仕入れた小売店が、自由な価格でその商品を消費者に販売することができて、メーカー側が価格を決めて、その価格を小売店に守らせるなどと言う行為は、公正な競争を阻害するとして独占禁止法で禁止されている筈なのだが、書籍・雑誌、それに、新聞や音楽ソフトなどは、価格決定権は、メーカー側にある。

   この書籍などの再販制度については、これまでも、何度も反対論が出て、問題となっているのだが、今回は、アマゾンドットコムが学生向けに提供している10%のポイント還元システムに対して、出版社の業界団体である日本出版社協議会が、これは実質的な「値引き」にあたるとして中止するよう呼びかけたことによって、再燃している。
   書籍は文化的な商品であり、安値販売が実施されると、大量に売れる物しか流通しなくなって、良質な書籍が出版されなくなる心配があり、また、地方の書店では品揃えが貧弱になったり、多様な製品が製造されなくなる、などの弊害が出てくると出版業界側は主張している。
   著作物の多様性を維持し、文化の保護を図るためと言うのが趣旨だろうが、日本では、この「再販制」と、返本できると言う「委託制」という2つの特殊な販売制度によって、書店が、需要の多くない専門書等でも店頭に並べることができ、世界でも類をみない小部数で多様な書籍が刊行されると言う利点もある。(尤も、このロングテール現象は、アマゾンの登場で有名無実となってしまっているのだが。)

   さて、この再販制度が良いかどうかは、私自身良く分からないのだが、専門書などのヘビーユーザーとしての読書家の立場から、私見を述べてみたい。
   結論は、ドイツ以外は、欧米先進国では、再販制度などが殆ど現存せず、自由競争の市場原理に従って書籍が販売されていて、特に、アメリカやイギリスの方が、日本より、本の質が悪くて、良質な本が販売されていないなどと言うことはないので、再販制度に拘る必要はないのではないかと言うことである。
   現実に、私が読んでいる専門書の過半は、米欧の学者の原書や翻訳版であって、日本の学者の本の方が少ない。

   アメリカやイギリスでは、発売直後の新本やDVD,CDなどが20%くらいのディスカウントで販売されるのは当たり前だし、ブッククラブから購入すれば、はるかに定価より安いし、良い本が、いくらでも安く買える道がある。アマゾンのアメリカ版のHPを見れば、すべての本が、定価よりも、随分、安いことが分かる。
   リスト・プライス、定価などには拘っているように思えないし、良い本は売れる、悪い本は売れない、本を買う愛書家の質の問題であって、要は、価値ある本を受容維持し続ける読者がいるかどうか、その国の民度、知性教養の問題であると思っている。

   先日もこのブログで書いたのだが、日本では、経済や経営学の専門書に限って言えば、書店自身が、売れる本ばかりを平積や棚のディスプレーに並べて、本当に値打ちのある本は殆ど片隅に追いやられていると言うのが現状で、アマゾンの方が、はるかに、有用で役に立つ書籍を、殆どコストゼロの媒体インターネットを通じて、紹介し続けている。
   出版文化の質を維持するのは、勿論、出版社に第一の責務があるのであろうが、書店や読者にも、大きな責任がある筈で、要するに、その質を高めることが先で、再販制度維持の問題ではあり得ないと思う。

   それよりも、IT革命によって、アマゾンなどのe-ブックショップが、一般書店市場を蚕食し、電子ブックが快進撃するなど、出版市場が様変わりになって来ているし、青空文庫のように、インターネットで無料で読める本が出ており、これが、英語になると途轍もない質量の無料書籍がインターネットで読めるなど、グーテンベルグ以来の革命が、出版の世界を旋風に巻き込んでおり、将来どうなるかなどは全く見越せないし、再販制度など小事に過ぎなくなる。
   それに、その気になったら、素人が、いくらでも安く自由に自費出版出来るようになっており、私など、幸いなことに、このブログを、毎日、500人以上の方に読んで頂いており、本など出さなくても、非常に有難いことだと感謝している。

   再販制度のお蔭かどうかは分からないが、私の買う経済や経営や歴史の専門書などは、高いものは別として、大体、2000円から3000円くらいなので、決して高いとは思っていないし、内容の豊かさ質の高さから言っても、非常に、コストパーフォーマンスが高いと思っている。
   もう、半世紀近く前になるのだが、学生時代に、1500円のシュンペーターが買えなかったのを覚えているので、経済学書などの値段は、殆ど変わっていないようなものである。
   それに、今では、アメリカ版の方が、それよりも、もっと安くなっている。

   再販制度に、その責めがあるのか、あるいは、委託制度に問題があるのかどうかは分からないのだが、新本の70%以上が出版社に返却されて廃却処分になっていると言うことだが、この途轍もない無駄に、日本の出版文化の問題があるような気がしており、ある程度期限が過ぎた本は、再販制度の枠を外して、ディスカウント販売に切り替えても良いのではないかと思っている。
   昔は、電車の中で本を読む若者が多かったが、今では、殆どが携帯を操作しており、文字媒体を見ているにしても、じっくりと、価値ある書物に対峙しているように思えないので、益々、本を媒体とした活字文化が廃れて行く。
   質の高い活字文化を死守するために、どうすれば良いのか、大所高所から考えるべき時だと思っている。
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