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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立名人会:談春「らくだ」

2023年06月23日 | 落語・講談等演芸
   久しぶりに、国立演芸場へ「国立名人会」を聴きに出かけた。
   談春と吉坊の落語を聴きたいと思ったのである。

   第468回国立名人会 演目は次の通り

   落語「権助提灯」 立川こはる 改メ 立川小春志
   上方落語「冬の遊び」 桂吉坊
   落語「お血脈」 柳家小せん
   長講一席「らくだ」 立川談春

   さて、「らくだ」だが、何回か聞いているのだが、非常に芸の細かい凄い作品である。
   乱暴で嫌われ者の大男のらくだが、フグにあたって死んだ。兄貴分の半次が葬式を出してやりたいが金がない。丁度来合わせた屑屋を脅して、長屋から香典を集めたり、酒肴、棺桶用の漬物桶などを調達するのが面白い。特に、大家の所に通夜に出す酒と料理を届けさせるよう使いに出され、大家が断ったら「死骸のやり場に困っており、ここへ背負ってくるから、面倒を見てやってくれ。ついでに「かんかんのう」を踊らせてみせる」と言えと言われて出かけるが、大家はやって見ろと相手にしない。半次は屑屋にらくだの死骸を担がせ、大家の所へ乗り込み、かんかんのうの歌にあわせて死骸を踊らせたので、大家は縮み上がって、酒と肴を用意する。今度は八百屋に行って棺桶代わりの漬物樽を借りてこいと命令され八百屋へ行き、らくだの死骸で大家を脅したことを伝えると、八百屋も怖れおののいて樽を差し出す。
   用意が整ったところで、半次に酒を勧めて飲み始め、屑屋は執拗に断り続けるが、有無を言わせず飲ませ続けるので、とうとう、屑屋も酔っ払って酒乱状態になり、主客逆転して絡み始めて、半次に魚屋へ行ってまぐろを取ってこい、ダメだと言えばかんかんのうで脅せと命令する。徐々に酔っ払いのテンションが高揚して、元大店の道具屋だったが落ちぶれて屑屋になったことや左甚五郎のかえるだと言われて生きた蛙を買った話など屑屋の挿話が面白い。
   談春の噺は、ここで終ったが、談志のyoutubeを見ると、さらに、亡骸を樽に詰めて、焼き場への道行きとオチが続く。
   万雷の拍手を受けて終演後、談春は改装の国立演芸場との思い出などを語り、三本締めで幕。

   談春の噺は、まだ、3回くらいしか聴いていないが、小説の「赤めだか」に感激して、何時も話の冴えは抜群で実に面白いので、一番聴きたい落語家である。
   4年ぶりの舞台なので、随分貫禄がついて大家然としてきた感じであったが、今回のような舞台になると相好を崩しての百面相紛いの熱演で、あれだけ、表情豊かに芸に没頭してキャラクターを表現が出来るのか、驚異でさえある。

   吉坊は、「冬の遊び」。
   江戸の吉原、京の島原と並ぶ三大廓の一つ、大阪の新町の格式も高い太夫道中の諍いの話。
   手続きの不都合で、新町の最大の贔屓筋であり依って立つ堂島のコメ問屋へ伝達をしくじったのだが、その当日、堂島の米問屋の旦那たちが新町に来て、挨拶がないと苦情を言って、道中中の栴檀太夫を座敷に呼べと無理を言う。仲居が、今、道中の最中なので無理だと言っても、知らんがな、呼ばれへんいうのやったら、ほな帰る。と席を立とうとする。最大の贔屓をしくじっては一大事。仲居の機転で、休憩だと役人たちを丸め込んで太夫を座敷に連れ戻す。道中の仮装である厚着の格好のまま太夫が登場したので、感服した旦那衆が、「こんな恰好で汗一つかかんのやさかい流石に太夫。どや、今日は太夫の心中だてで、冬の恰好しよか。」「それがええ。」と言うことになって、冬の衣装に炬燵、鍋を炊いて、障子を締め切る騒ぎになる。
   嘘か本当か、大阪の夏は非常に蒸暑くて生きた心地がしないほどで、これに、冬の厚着で部屋を閉め切って鍋を囲むなど正気の沙汰ではない。
   オチは聞きそびれたが、解説では、居たたまれなくなった幇間が我慢できずに服を脱いで褌一で井戸水を浴びたので、怒った旦那が「何で服脱ぐねん。」「寒行の真似ごとで」

   吉坊は、幅広い芸域をカバーした芸の厚みや、パンチの利いた軽快な語り口が好きで、ファンになった。
   上方落語に興味を持つのは元関西人としては当然なのだが、この落語の仲居の会話など懐かしい浪花千栄子の大阪弁を彷彿とさせるし、堂島の旦那衆の横車も良く分かるし、この新町のお茶屋を、歌舞伎「廓文章」の舞台となった「吉田屋」と重ねると、大坂の雰囲気が色濃く滲み出てくる。

   今回、興味深かったのは、先物取引を先行した堂島の米市場の隠然たる勢力を活写していることで、文化芸術が栄えるためには、メディチのフィレンツェ同様に富と財力とあってこそだと言うことである。
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