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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ポール・クルーグマン著「さっさと不況を終わらせろ」

2013年08月17日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   クルーグマンの本は、かなり読んでおり、ニューヨーク・タイムズのコラムも読み続けているので、スティグリッツと同じように卓越したケインズ派の経済学者の見解でもあり、ほぼ分かっているつもりで、一寸、読みそびれていたのだが、特に新鮮さは感じなかったものの、結構面白かった。

   アメリカなど多くの国を蝕む経済停滞は、5年も6年も経つが、この不況から脱するための知識も道具も、我々は持ち合わせており、昔ながらの経済学の原理(それも近年の出来事で有効性が確認された一方の原理:ケインズ経済学の原理)を適用することで、恐らくは2年以内で、概ね完全雇用に戻れる。
   回復を阻害しているのは、知的な明晰さと政治的な意思の欠如だ。事態を変えられるあらゆる人―専門の経済学者から政治家、懸念する市民まで―は、その欠如を補うためにあらゆる努力をして、今こそ、この不況を終わらせよう。
   これが、クルーグマンのこの本のタイトル End This Depression Now!の趣旨である。

   2008年に、我々は気が付くとケインズの世界に暮らしていた。ケインズが一般理論で著したのと同じ特徴を持つ需要が十分にない世界であって、共和党政治が、税の累進性の緩和、ごまかしによる貧困者救済の削減、公共教育の衰退、更に、既成のない金融システムが必ず問題を起こすと言う危険信号にも拘わらず政治システムが規制緩和と無規制に拘り過ぎて、アメリカ資本主義を窮地に追い込んでしまった。  
   翌年、オバマ大統領が就任して、経済的苦境を脱するために、「大胆で素早い行動」を約束して素早く行動を起こして、幸い経済の転落は避け得たが、大胆ではなかった上に、アメリカ史上最大の雇用創出プログラムである「アメリカ回復再投資法」も、巨大な需給ギャップを埋めるためには、悲しい程不十分であって、依然、ケインズの世界が続いていて、アメリカの経済回復は実現していない。
   赤字公債を増発してでも、公共工事などをどんどん実施して、現在の数倍規模のケインズ的な財政出動で巨大な需給ギャップを埋めるべきであり、FRBもそれを大胆な金融緩和で積極的に支援バックアップして、ドラスティックな経済対策を打てば、一気にアメリカ経済は浮揚する。
   負債で負債を治せないと言うのは、真赤な嘘で、第二次世界大戦の軍事支出が、不十分な需要問題を十分すぎる程解決し、アメリカ経済を大恐慌から救ったのみならず、その後のアメリカ経済の黄金期のスタートとなったではないか。と言うのである。

   さて、日本にとっては、人ごとではない問題の国家債務だが、第8章の「でも財政赤字はどうなるの?」で、アメリカのような国が現状で財政赤字から被る害と言うのは、殆どは仮想的なものでしかない。と切って捨てる。 
   残高の増加とは裏腹に、アメリカの国債の満期利率はどんどん下落して借り入れコストは減少していると指摘して、
   はるかに債務のGDP比率の高い日本を引き合いに出して、債務比率はどんどんアップし、日本国際の格付けが引き下げられたにも拘わらず、依然、国債金利は低くビクともしていないと言って、
   その答えは、自国通貨で借りるか外貨建てで借りるかが凄まじい差を齎しており、イギリス、アメリカ、日本はみんな、ポンド、ドル、円で借りているので、国債危機の心配はないと言うのである。
   それに、国家の負債が、インフレと経済成長の合計よりも伸び率が低ければ、負債が増え続けても、悲劇ではないし、問題にはならない。 
   負債の元金は、何時までも返済しないですむ。単に、利息分だけを払い続けて、負債の増大が経済の拡大よりも小さいようにすればよい。と言うのである。

   この国家債務の問題については、「ユーロの黄昏」の章でも言及しており、アメリカや日本のように、自国通貨で借り入れている場合には、デフォルトの心配が起これば、FRBや日銀は、お札を刷って政府債を買って支えるので心配はないが、スペインにしろイタリアにしろEU諸国は、ECBが買い支えるとは限らないのでデフォルトする可能性があると言う。
   ところで、これまで、私自身、日本国債の外人保有率が増しており、意図的かどうかは別にして、例えば、某国が日本国債を狼狽売りして、国債が暴落したり長期金利が高騰したりした時に、日本経済が壊滅的な打撃を受けるのではないかと心配していたのだが、果たして、クルーグマンの言うような解決策が、有効に作動して問題がないのであろうか。

   もう一つ、インフレの問題だが、これも、第9章「インフレ:見せかけの恐怖」において、不況の経済学を引いて、インフレ急上昇は、経済が停滞している限り、どう考えても起こり得ないので心配はないと説く。
   これも、日本を引き合いに出して、2000年以降、大規模な財政赤字と急速なお金の供給増大を停滞経済の中で続けて来たけれど、インフレ高騰どころか、デフレのままだと言う。
   流動性の罠に陥った経済では、絶対にインフレは起こる筈がなく、お金の印刷がインフレにつながるのは、高い支出と高い需要と言う景気の過熱による好景気を通じてであり、その例外であるスタグフレーションも、現下の経済情勢では起こり得ないと言う。

   ところで、ケインズ経済学の復権については、よく分かるのだが、昨日の伊藤誠教授のブックレビューでも言及したように、需要サイドは、経済の一面であって、たとえ、クルーグマンの説くように、ケインズ的財政出動で経済不況を克服したとしても、自動的に経済が成長軌道に乗ると言う保証はないので、もう一方の供給サイドの経済も考慮に入れなければならないと思っている。
   クルーグマンは、公共投資の拡大や、環境改善への投資などには言及しているのだが、経済の成長戦略については、全く言及していない。
   私には、まだ、良く分からないのだが、ケインズ経済学とシュンペーターの経済成長理論との総合のような経済学が、生まれてこないかと密かに思っている。
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