ソニーの2012年度の決算は、売上高及び営業収益が、6兆8千億円に対して、当期純利益は、430億円。
僅か0.63%だが、それでも、黒字決算であるから、良しとすべきだが、株主総会召集通知書には、”営業損益の大幅改善は、金融、映画分野が好調であったことに加え、事業ポートフォリオの再編や財務体質強化の一環として行った資産売却にともない2000億円を越える利益を計上したため。”と記されており、要するに、殆ど、血の滲むような合理化やコスト削減と資産売却によって辻褄を合わせた数字であって、攻撃や新規展開によって、業績が回復した訳ではない。
加藤CFOが、「5年ぶりに最終損益の黒字化を達成したが、テレビ事業が依然赤字であり、課題を残した」と述べたように、コア・ビジネスの業績への貢献は、殆ど無に等しいところに問題があり、平井一夫CEOは、「ソニーの歴史の中で最も大胆な改革を実行した」と就任1年目の成果を強調したのだが、どうであろうか。
さて、問題の7%の株を取得した大株主である投資ファンドの米サード・ポイント社が映画、音楽などのエンターテインメント事業の独立を求めている会社分割案については、産経は、「検討を先送りする方針を示した。」と報じているが、株主質問に対しては、新聞報道の域を出ない回答に終始して、今回の総会で決定される新役員会で、真剣に検討すると答えていた。
しかし、これまでの報道や平井CEOの発言などのニュアンスからは、コングロマリット(複合企業)の利点として、娯楽業界に全般的な業域を保有して影響力を持っていたことが同社のブルーレイディスクの販売を支えたことなどを指摘しており、また、エンターテインメント事業は今後もソニーの成長戦略を実現していく上で大変重要なコア事業とし、金融事業も含めてエレクトロニクス事業との一体運営が重要だとも説いており、持てる経営資源を統合してシナジー効果を最大限に発揮して、競争力を強化して行こうと考えていることは明白なので、執行役員CEOとしては、サード・ポイント案には、否定的であろう。
尤も、ソニーとしての最善の結論を取締役会で決定したとしても、名うてのもの言うアメリカの投資ファンドにどう対決するのか、欧米の投資家やメディアも注視しており、対応次第では、ソニーに激震が走るかも知れない経営上の大きな試練であることには間違いなかろう。
私は、このブログで、以前に、テレビは、コモディティ化の最たるものであり、最早、日本企業の業域ではなくなっており、ソニーは、テレビ事業から撤退すべきだと書いたことがある。
WSJが、”ソニーのエレクトロニクス部門は、テレビ事業がほぼ10年間にわたって損失に見舞われているため赤字に陥っており、エレクトロニクス部門から全面的に撤退すべきだとの声も出ている。”と報じている。
これだけ、赤字が続いている業績の悪い事業を、ソニーが続け得たのは、日本的な経営風土のなせる業であり、ソニーが、金融事業などで収益を上げていたためであって、欧米産業の経営では、あり得ないことである。
このテレビだが、今回の株主総会後の「商品展示会」の主役は、やはり、4Kのテレビ受像機であった。
昨年は、3Dテレビだったが、これは、完全に消費者がソッポを向いてしまったのか、鳴かず飛ばずで、最近では、映画館の3D映画さえ、殆ど上映されなくなっている。
ソフトの充実もなく、テレビ放映もなく、全く、環境条件が整っていない段階で、受像機器だけ鳴り物入りで売り出すなどと言うのは、イノベーションのイも知らない暴挙で、当然であろう。
さて、今年は、4Kだが、確かに、素晴らしいが、それは、大画面で見た時に、その威力が分かるだけで、家庭のテレビ受像機などでは、フルハイビジョンの段階で、十二分に顧客満足を実現しており、クリステンセンの持続的イノベーションの過剰段階だと考えられるので、顧客は付加価値分を支払おうと思わないであろうし、購買を刺激するとは思えない。
今普及しているテレビより安ければ買い替えるかも知れないが、テレビそのものがコモディティ化してしまった商品である以上、差別化は殆ど無理で、価格競争が総てとなるので、すぐに、新興国企業がキャッチアップして来て、先行者利潤さえ、怪しくなる筈である。
総会で、オタク相手ではなく普通の人間が楽しめる、もっと使い易い分かり易いソニーらしい商品を出してくれと言った意見が出ていたのに、スマホとタイアップしたテレビを開発していると答えていたが、ICT革命の時代に、パソコンさえ使えないITデバイドの老人(株主総会に来ている人の相当多くはこの部類)が多いのをどう考えているのであろうか。
その意味では、説明書なしでも使える、アップルなどのシンプルな製品の良さは、根本的な経営哲学の落差であろうと思う。
ところで、その4K受像機だが、商品説明会の冒頭、映像作家・貫井勇志氏が、口絵写真のように、イタリアで撮影した写真を、数枚、正面の4K受像機に映して、映像の説明をし、見学者に、デジタル一眼レフα99で、実際に写させて、4Kの威力を説明していた。
私も、デジカメで、4Kディスプレィ上の貫井氏の写真を撮って拡大して確認したが、写真の粒子と言うか画素の密度は、格段に上達していて、確かに、4Kの素晴らしさを実感した。
しかし、前述したように、私には、安ければ買うと言う程度の食指しか、動かない。
さて、平井CEOは、幼少時代からのソニー商品への思い入れを語りながら、「ソニーがソニーであるためには、ワォーと叫ぶような、顧客に経験したことのない驚きや感動を提供し、好奇心を刺激する商品を生み出すことで、機能価値のみならず、心を動かす感性価値を創造することが必須である。顧客満足からはまだ距離のある感性価値を持った製品が少しずつ出て来ており、デジタルカメラDSC-RX1やスマートフォンのXperiaがそれに当たる。」などと製品開発などについて熱っぽく語った。
平井社長は、「エレクトロニクス事業の強化」「エンタテインメントおよび金融事業の収益強化」「グループ全体の財務基盤のさらなる強化」を今年度の目標とし、モバイル、イメージング、ゲームのコア3事業の変革によって、ソニーの総合力を生かした最強の製品を投入して、今期から攻めの体制にシフトするとも言及した。
私の注目したのは、最早、ソニーだけでは、製品を開発できなくなって来ており、他者とのコラボレーション連携が必要になったと言っていたことだが、グローバル・ベースで、事業環境が、オープン・ビジネス、オープン・イノベーションの時代に突入しているにも拘わらず、いまだに、コングロマリットとしてのソニー自身の総合力に経営戦略の軸足を置き過ぎているようで、ソニーの外部へのオープン性、コラボレーション、共創戦略には、大いに疑問を持っている。
クリス・アンダーソンが、「メイカーズ」で、サン・マイクロシステムズのビル・ジョイが、「一番優秀な奴は、大抵、他所にいる。」と言ったと紹介していて、その本の中で、ソニーが鳴り物入りで、スマート・ウォッチを、アメリカで150ドルで発売すると発表した時に、ほんの数人のメーカー的な起業家が、デザインでも価格でもはるかに上を行くウォッチを、オープン・イノベーションで開発して、巨大な多国籍企業ソニーの鼻を明かしたと書いている。
ソニーは、2000人の優秀な技術集団を抱えたR&E軍団が、新製品開発とイノベーションを日夜熱心に追求していると説明していたが、破壊的イノベーションが、一向に、生まれそうにないのは、内向きだからではないであろうか。
アップルのスティーブ・ジョブズと比べれば分かるが、ソニーが成功した破壊的イノベーションは、すべて、前世紀的な旧来のモノづくり時代に自社オンリーで生み出したものだが、アップルは、すべて、ICT革命とグローバリゼーションの潮流に乗ってオープン・ビジネスと他者との共創によって生み出したものである。
平井社長のワクワクするようなソニー製品の開発意欲は、非常によく分かるのだが、私には、ソニーが、どこか、時代の潮流とはややかけ離れたイノベーション戦略を撮り続けているような気がして仕方がない。
僅か0.63%だが、それでも、黒字決算であるから、良しとすべきだが、株主総会召集通知書には、”営業損益の大幅改善は、金融、映画分野が好調であったことに加え、事業ポートフォリオの再編や財務体質強化の一環として行った資産売却にともない2000億円を越える利益を計上したため。”と記されており、要するに、殆ど、血の滲むような合理化やコスト削減と資産売却によって辻褄を合わせた数字であって、攻撃や新規展開によって、業績が回復した訳ではない。
加藤CFOが、「5年ぶりに最終損益の黒字化を達成したが、テレビ事業が依然赤字であり、課題を残した」と述べたように、コア・ビジネスの業績への貢献は、殆ど無に等しいところに問題があり、平井一夫CEOは、「ソニーの歴史の中で最も大胆な改革を実行した」と就任1年目の成果を強調したのだが、どうであろうか。
さて、問題の7%の株を取得した大株主である投資ファンドの米サード・ポイント社が映画、音楽などのエンターテインメント事業の独立を求めている会社分割案については、産経は、「検討を先送りする方針を示した。」と報じているが、株主質問に対しては、新聞報道の域を出ない回答に終始して、今回の総会で決定される新役員会で、真剣に検討すると答えていた。
しかし、これまでの報道や平井CEOの発言などのニュアンスからは、コングロマリット(複合企業)の利点として、娯楽業界に全般的な業域を保有して影響力を持っていたことが同社のブルーレイディスクの販売を支えたことなどを指摘しており、また、エンターテインメント事業は今後もソニーの成長戦略を実現していく上で大変重要なコア事業とし、金融事業も含めてエレクトロニクス事業との一体運営が重要だとも説いており、持てる経営資源を統合してシナジー効果を最大限に発揮して、競争力を強化して行こうと考えていることは明白なので、執行役員CEOとしては、サード・ポイント案には、否定的であろう。
尤も、ソニーとしての最善の結論を取締役会で決定したとしても、名うてのもの言うアメリカの投資ファンドにどう対決するのか、欧米の投資家やメディアも注視しており、対応次第では、ソニーに激震が走るかも知れない経営上の大きな試練であることには間違いなかろう。
私は、このブログで、以前に、テレビは、コモディティ化の最たるものであり、最早、日本企業の業域ではなくなっており、ソニーは、テレビ事業から撤退すべきだと書いたことがある。
WSJが、”ソニーのエレクトロニクス部門は、テレビ事業がほぼ10年間にわたって損失に見舞われているため赤字に陥っており、エレクトロニクス部門から全面的に撤退すべきだとの声も出ている。”と報じている。
これだけ、赤字が続いている業績の悪い事業を、ソニーが続け得たのは、日本的な経営風土のなせる業であり、ソニーが、金融事業などで収益を上げていたためであって、欧米産業の経営では、あり得ないことである。
このテレビだが、今回の株主総会後の「商品展示会」の主役は、やはり、4Kのテレビ受像機であった。
昨年は、3Dテレビだったが、これは、完全に消費者がソッポを向いてしまったのか、鳴かず飛ばずで、最近では、映画館の3D映画さえ、殆ど上映されなくなっている。
ソフトの充実もなく、テレビ放映もなく、全く、環境条件が整っていない段階で、受像機器だけ鳴り物入りで売り出すなどと言うのは、イノベーションのイも知らない暴挙で、当然であろう。
さて、今年は、4Kだが、確かに、素晴らしいが、それは、大画面で見た時に、その威力が分かるだけで、家庭のテレビ受像機などでは、フルハイビジョンの段階で、十二分に顧客満足を実現しており、クリステンセンの持続的イノベーションの過剰段階だと考えられるので、顧客は付加価値分を支払おうと思わないであろうし、購買を刺激するとは思えない。
今普及しているテレビより安ければ買い替えるかも知れないが、テレビそのものがコモディティ化してしまった商品である以上、差別化は殆ど無理で、価格競争が総てとなるので、すぐに、新興国企業がキャッチアップして来て、先行者利潤さえ、怪しくなる筈である。
総会で、オタク相手ではなく普通の人間が楽しめる、もっと使い易い分かり易いソニーらしい商品を出してくれと言った意見が出ていたのに、スマホとタイアップしたテレビを開発していると答えていたが、ICT革命の時代に、パソコンさえ使えないITデバイドの老人(株主総会に来ている人の相当多くはこの部類)が多いのをどう考えているのであろうか。
その意味では、説明書なしでも使える、アップルなどのシンプルな製品の良さは、根本的な経営哲学の落差であろうと思う。
ところで、その4K受像機だが、商品説明会の冒頭、映像作家・貫井勇志氏が、口絵写真のように、イタリアで撮影した写真を、数枚、正面の4K受像機に映して、映像の説明をし、見学者に、デジタル一眼レフα99で、実際に写させて、4Kの威力を説明していた。
私も、デジカメで、4Kディスプレィ上の貫井氏の写真を撮って拡大して確認したが、写真の粒子と言うか画素の密度は、格段に上達していて、確かに、4Kの素晴らしさを実感した。
しかし、前述したように、私には、安ければ買うと言う程度の食指しか、動かない。
さて、平井CEOは、幼少時代からのソニー商品への思い入れを語りながら、「ソニーがソニーであるためには、ワォーと叫ぶような、顧客に経験したことのない驚きや感動を提供し、好奇心を刺激する商品を生み出すことで、機能価値のみならず、心を動かす感性価値を創造することが必須である。顧客満足からはまだ距離のある感性価値を持った製品が少しずつ出て来ており、デジタルカメラDSC-RX1やスマートフォンのXperiaがそれに当たる。」などと製品開発などについて熱っぽく語った。
平井社長は、「エレクトロニクス事業の強化」「エンタテインメントおよび金融事業の収益強化」「グループ全体の財務基盤のさらなる強化」を今年度の目標とし、モバイル、イメージング、ゲームのコア3事業の変革によって、ソニーの総合力を生かした最強の製品を投入して、今期から攻めの体制にシフトするとも言及した。
私の注目したのは、最早、ソニーだけでは、製品を開発できなくなって来ており、他者とのコラボレーション連携が必要になったと言っていたことだが、グローバル・ベースで、事業環境が、オープン・ビジネス、オープン・イノベーションの時代に突入しているにも拘わらず、いまだに、コングロマリットとしてのソニー自身の総合力に経営戦略の軸足を置き過ぎているようで、ソニーの外部へのオープン性、コラボレーション、共創戦略には、大いに疑問を持っている。
クリス・アンダーソンが、「メイカーズ」で、サン・マイクロシステムズのビル・ジョイが、「一番優秀な奴は、大抵、他所にいる。」と言ったと紹介していて、その本の中で、ソニーが鳴り物入りで、スマート・ウォッチを、アメリカで150ドルで発売すると発表した時に、ほんの数人のメーカー的な起業家が、デザインでも価格でもはるかに上を行くウォッチを、オープン・イノベーションで開発して、巨大な多国籍企業ソニーの鼻を明かしたと書いている。
ソニーは、2000人の優秀な技術集団を抱えたR&E軍団が、新製品開発とイノベーションを日夜熱心に追求していると説明していたが、破壊的イノベーションが、一向に、生まれそうにないのは、内向きだからではないであろうか。
アップルのスティーブ・ジョブズと比べれば分かるが、ソニーが成功した破壊的イノベーションは、すべて、前世紀的な旧来のモノづくり時代に自社オンリーで生み出したものだが、アップルは、すべて、ICT革命とグローバリゼーションの潮流に乗ってオープン・ビジネスと他者との共創によって生み出したものである。
平井社長のワクワクするようなソニー製品の開発意欲は、非常によく分かるのだが、私には、ソニーが、どこか、時代の潮流とはややかけ離れたイノベーション戦略を撮り続けているような気がして仕方がない。