必要があってブラジルについて勉強しているのだが、インターネットで、The Economistの2007年のA survey of Brazilを見つけて読んでみたのだが、非常に面白い。
このエコノミスト誌に、国別サーベイ特集が時々掲載されて、日本も昨年取り上げられたのだが、必ずしもその時のその国の現状を正しく伝えているとは思えない部分もあるが、非常に鋭い分析で、成熟した文明社会からの視点が、非常に参考になると思って読んでいる。
中でも、ブラジルの記事で興味深かったのは、「Heavy going The biggest enemy of Brazil's promise is an overbearing state」と言う章で、このブログの「BRIC’sの大国:ブラジル」でも取り上げたが、ブラジルの役所、特に、政府のやり方対応が如何に酷いかと言うことを、これでもかこれでもかと言った調子で書いていることで、他のBRIC’sでも似たり寄ったりの腐敗・後進性が、元気溌剌のブラジルの発展の大きな足かせとなっていると言うのである。
今、インドでも、汚職が大きな問題になっており、中国やロシアの酷さも同様であるが、大ブレイクするためには、この程度の苦難と挑戦は発展のエンジンであって、外国人からの献金が大きな政争に発展するような段階に達した国は、経済も成熟してしまって明日が暗いと言うことであろうかと思ったりしている。
「政府が、お節介で、非効率で、賄賂が利くなどと言った経験をするのは、ブラジルでは、珍しいことでも、今に始まったことでもない」と言う書き出しで始まる。
ゼツリオ・ヴァルガス研のマルコス・フェルナンデス氏説では、この起源は、ナポレオンに追われたポルトガル王室がブラジルに移って来た1808年で、更に、1937年、ムッソリーニの影響を受けて、当時のヴァルガス大統領が、その労働および産業シンジケート・システムを導入して、今日の労働関係法制の基礎を築いたことによると言う。
1988年に新憲法が制定されて、政治的には、自由化されたのだが、経済的には、雁字搦めで、ブラジルの成長の遅さは、この政府主導型の逆境の勝利だと言うのである。
ブラジルのフォーミュラは、企業を押しのけて、過度な支出や税金を避けるために地下に潜らせて、更に、気まぐれで、馬鹿げた規制に追い込んで悩ませることである。2006年の国税は、GDPの35%で、開発途上国では断トツの高さであり、グレー・マーケットの規模は、メキシコ、中国、インドよりはるかに大きいと言うのだが、一説によると、ブラジルのアングラ経済の比率は、GDPの40%だと言われているから、その経済の不明瞭さは、推して知るべしである。
もぐりの企業が、過小投資で事業を行うので、正規の競争企業を弱体化させ、これが、生産性アップの最大の妨げになっているのだと、マッキンゼーは、考えている。
インフラ投資は、少なくとGDPの3%は行うべきだが、たったの2%で、世銀の推計でも低過ぎて、民間セクターがギャップを埋めるのを妨げるのみならず、投資全体を、GDPの16.7%押し下げていると言うのである。
ついでながら、興味深いのは、インフラ投資は、ブラジルでは、リーガルとレギュレーションの冒険adventureだと言う指摘である。
投資家は、公共事業の管理当局など担当部局を全く信用していない。
何故なら、大半の担当部局には、完全な自律的権限がないので、絶えず政府から干渉が入って定まらず、訴訟を起こしても、環境保護者や負けた入札業者たちの茶々が入ったりして何年もかかるし、大体、ブラジルの公共事業は、予定の2倍以上の時間が掛かるのが常識だと言う。
日本の企業連合が、新幹線入札で熱心だが、ブラジルで儲けるのは至難の業だと言うことも頭のどこかに置いて置くべきであろう。
ブラジルの金利の異常高は有名だが、これもすべて政府の過度な財政支出のなせる業で、税制、年金および労働法規を改正し、貿易を自由化し、更に、インフレターゲット操作など、中銀に十分な権限を付与するなど大改革をする以外に解決法はないと言う。
世界一労働者の保護を優先した労働法規を持ち、そのペンションや給与の支払いまで憲法に規定されていて、国家予算の相当部分がひも付きで行き先が決まっていると言うことなので、財政再建と言っても大変であろう。(尤も、国債償還や社会福祉関連支出で国家予算の過半を占め、成長が殆ど望み薄の国があるのだが、どうするのであろうか。)
この連邦政府の支出だが、大半は、ペンションと地方交付金と連邦政府役人への支払いだと言う。
年金について興味深いのは、年金の3分の2は、最低賃金と同額で、その受益者の多くは、年金の掛け金を払ったことのない人だと言うので、正規雇用で年金を払うより非正規の方が良いと、非正規雇用を促進していると言うことだが、最大の支出は政府役人たちの年金支払いで、とにかく、財政困窮だと言いながらの大盤振る舞いが見え隠れする。
地方への税の移転だが、豊かな州から取り上げた税金を貧しい後発の地方へ移転する。
しかし、その移転の基準が、秩序や効率性などに基づかない曖昧なもので、貰った方も、インフラ投資など建設的な支出へではなくて、アドミ関連で地方役人への支出に回っている。
役所の非効率極まりない怠慢と腐敗は、有名な話だが、その役人の給与水準は、民間の2倍だと言う。
憲法で保障されているので、免職もなく、待遇は、効率ではなく、受けた訓練期間の長さで決まる。
連邦政府の役人の20000人は、政治家からの口利きのようで、ゼツリオ・ヴァルガス研のネルソン・マルコーニ氏は、政府役人の30%の首を切っても、何ら、行政サービスの質は落ちないと保証している。
しかし、そこは、労働者優遇で、役人をどんどん増やして行く労働党政権であるから、先はどうなるのか。
財政崩壊は、税金のアップと投資の削減で辻褄を合わせると言うのだが、投資には床があり税金には天井がある。
仕事のやり易さの世界ランキングでは、ブラジルは、152国中第115位で、会社を一つ作るのに、17手続を要し152日もかかると言うのだが、ブラジルでの行政関連のビジネス処理は正に難行苦行であるから、いきおい、賄賂やジェイトの出番となる。
それに、人を雇うコストが非常に高く、サラリーに60%の税金を付加して、更に、労働関係の揉め事頻繁で、某大銀行など、割増を請求されるので、昼の休憩時間終了1分後にしか部屋の扉を開けないのだと言うのだが、それでも、銀行業だけでも16万件の訴訟を受けており、解決策は、出来るだけ人を雇わないようにすることだと銀行幹部自らが言うのだから凄まじい。
セールス・タックスの付加価値税への一本化、年金制度改革、労働市場改革、中銀の権限強化等々、それに、GROWTH ACCELARATION PACKAGEを打ち上げて、経済成長を図って、格差解消や貧困撲滅を目指すブラジル・プランを推進しようとするジルマ・ルセフ大統領の舵取りも大変である。
このエコノミスト誌に、国別サーベイ特集が時々掲載されて、日本も昨年取り上げられたのだが、必ずしもその時のその国の現状を正しく伝えているとは思えない部分もあるが、非常に鋭い分析で、成熟した文明社会からの視点が、非常に参考になると思って読んでいる。
中でも、ブラジルの記事で興味深かったのは、「Heavy going The biggest enemy of Brazil's promise is an overbearing state」と言う章で、このブログの「BRIC’sの大国:ブラジル」でも取り上げたが、ブラジルの役所、特に、政府のやり方対応が如何に酷いかと言うことを、これでもかこれでもかと言った調子で書いていることで、他のBRIC’sでも似たり寄ったりの腐敗・後進性が、元気溌剌のブラジルの発展の大きな足かせとなっていると言うのである。
今、インドでも、汚職が大きな問題になっており、中国やロシアの酷さも同様であるが、大ブレイクするためには、この程度の苦難と挑戦は発展のエンジンであって、外国人からの献金が大きな政争に発展するような段階に達した国は、経済も成熟してしまって明日が暗いと言うことであろうかと思ったりしている。
「政府が、お節介で、非効率で、賄賂が利くなどと言った経験をするのは、ブラジルでは、珍しいことでも、今に始まったことでもない」と言う書き出しで始まる。
ゼツリオ・ヴァルガス研のマルコス・フェルナンデス氏説では、この起源は、ナポレオンに追われたポルトガル王室がブラジルに移って来た1808年で、更に、1937年、ムッソリーニの影響を受けて、当時のヴァルガス大統領が、その労働および産業シンジケート・システムを導入して、今日の労働関係法制の基礎を築いたことによると言う。
1988年に新憲法が制定されて、政治的には、自由化されたのだが、経済的には、雁字搦めで、ブラジルの成長の遅さは、この政府主導型の逆境の勝利だと言うのである。
ブラジルのフォーミュラは、企業を押しのけて、過度な支出や税金を避けるために地下に潜らせて、更に、気まぐれで、馬鹿げた規制に追い込んで悩ませることである。2006年の国税は、GDPの35%で、開発途上国では断トツの高さであり、グレー・マーケットの規模は、メキシコ、中国、インドよりはるかに大きいと言うのだが、一説によると、ブラジルのアングラ経済の比率は、GDPの40%だと言われているから、その経済の不明瞭さは、推して知るべしである。
もぐりの企業が、過小投資で事業を行うので、正規の競争企業を弱体化させ、これが、生産性アップの最大の妨げになっているのだと、マッキンゼーは、考えている。
インフラ投資は、少なくとGDPの3%は行うべきだが、たったの2%で、世銀の推計でも低過ぎて、民間セクターがギャップを埋めるのを妨げるのみならず、投資全体を、GDPの16.7%押し下げていると言うのである。
ついでながら、興味深いのは、インフラ投資は、ブラジルでは、リーガルとレギュレーションの冒険adventureだと言う指摘である。
投資家は、公共事業の管理当局など担当部局を全く信用していない。
何故なら、大半の担当部局には、完全な自律的権限がないので、絶えず政府から干渉が入って定まらず、訴訟を起こしても、環境保護者や負けた入札業者たちの茶々が入ったりして何年もかかるし、大体、ブラジルの公共事業は、予定の2倍以上の時間が掛かるのが常識だと言う。
日本の企業連合が、新幹線入札で熱心だが、ブラジルで儲けるのは至難の業だと言うことも頭のどこかに置いて置くべきであろう。
ブラジルの金利の異常高は有名だが、これもすべて政府の過度な財政支出のなせる業で、税制、年金および労働法規を改正し、貿易を自由化し、更に、インフレターゲット操作など、中銀に十分な権限を付与するなど大改革をする以外に解決法はないと言う。
世界一労働者の保護を優先した労働法規を持ち、そのペンションや給与の支払いまで憲法に規定されていて、国家予算の相当部分がひも付きで行き先が決まっていると言うことなので、財政再建と言っても大変であろう。(尤も、国債償還や社会福祉関連支出で国家予算の過半を占め、成長が殆ど望み薄の国があるのだが、どうするのであろうか。)
この連邦政府の支出だが、大半は、ペンションと地方交付金と連邦政府役人への支払いだと言う。
年金について興味深いのは、年金の3分の2は、最低賃金と同額で、その受益者の多くは、年金の掛け金を払ったことのない人だと言うので、正規雇用で年金を払うより非正規の方が良いと、非正規雇用を促進していると言うことだが、最大の支出は政府役人たちの年金支払いで、とにかく、財政困窮だと言いながらの大盤振る舞いが見え隠れする。
地方への税の移転だが、豊かな州から取り上げた税金を貧しい後発の地方へ移転する。
しかし、その移転の基準が、秩序や効率性などに基づかない曖昧なもので、貰った方も、インフラ投資など建設的な支出へではなくて、アドミ関連で地方役人への支出に回っている。
役所の非効率極まりない怠慢と腐敗は、有名な話だが、その役人の給与水準は、民間の2倍だと言う。
憲法で保障されているので、免職もなく、待遇は、効率ではなく、受けた訓練期間の長さで決まる。
連邦政府の役人の20000人は、政治家からの口利きのようで、ゼツリオ・ヴァルガス研のネルソン・マルコーニ氏は、政府役人の30%の首を切っても、何ら、行政サービスの質は落ちないと保証している。
しかし、そこは、労働者優遇で、役人をどんどん増やして行く労働党政権であるから、先はどうなるのか。
財政崩壊は、税金のアップと投資の削減で辻褄を合わせると言うのだが、投資には床があり税金には天井がある。
仕事のやり易さの世界ランキングでは、ブラジルは、152国中第115位で、会社を一つ作るのに、17手続を要し152日もかかると言うのだが、ブラジルでの行政関連のビジネス処理は正に難行苦行であるから、いきおい、賄賂やジェイトの出番となる。
それに、人を雇うコストが非常に高く、サラリーに60%の税金を付加して、更に、労働関係の揉め事頻繁で、某大銀行など、割増を請求されるので、昼の休憩時間終了1分後にしか部屋の扉を開けないのだと言うのだが、それでも、銀行業だけでも16万件の訴訟を受けており、解決策は、出来るだけ人を雇わないようにすることだと銀行幹部自らが言うのだから凄まじい。
セールス・タックスの付加価値税への一本化、年金制度改革、労働市場改革、中銀の権限強化等々、それに、GROWTH ACCELARATION PACKAGEを打ち上げて、経済成長を図って、格差解消や貧困撲滅を目指すブラジル・プランを推進しようとするジルマ・ルセフ大統領の舵取りも大変である。