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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

激安商品を生む逆イノベーション

2010年01月29日 | イノベーションと経営
   ニューズウイーク最新号のSCOPEのコラム「低価格」で、インドのタタ自動車の20万円の大衆車ナノやエイサーのネットブックを取り上げて、今や、イノベーションは、貧しい国の企業がイノベーションを行い、製品をアメリカに持ち込む「逆イノベーション」の時代になったと言うビジュー・ゴビンダルジャンの説を紹介している。
   この考え方は、既に、C・K・プラハラードが、「ネクスト・マーケット」で、貧困層を顧客に変える50億人市場を創設する次世代ビジネス戦略として克明に論じていて、このブログでも、何度か取り上げている。

   これらの製品は、新興国市場向けに作られているために驚くほど安く、節約志向の先進国の消費者にも魅力的に映り、43ドルの浄水器、70ドルの携帯冷蔵庫など新しいものが生まれていて、貧しい国だけではなく、世界中の国々にとって、逆イノベーションは、未来の原動力になると、ゴビンダルジャンは述べている。

   プラハラードの紹介で、真っ先に印象に残っているのは、ジャイプル・フットの義足で、20項目以上にわたっての比較でも、8000ドルもするアメリカ製の義足と同等かそれ以上の機能を備えた製品であるにも拘らず、たったの30ドルで、泥道の悪路を走ろうと、土間に座って作業をしようと、びくともしないと言うのである。
   これを慈善団体BMVSSが製作しているので、患者には無償で提供されていると言うのだから泣かせる。

   もう一つは、アビランド・アイ・ケア・システムの年間20万件以上の白内障手術を手がけると言うシステムで、患者の特定から手術、カウンセリングに至るまでの全工程を新しいプロセスを導入して実施し、白内障の治療に革命を齎している。
   ここの医師と看護師のチームの生産性は、米国と比べてもかなり高く、同じ手術を米国で受けると2600~3000ドルするのだが、ここでは、50~100ドルで済む。
   人工の眼内レンズをも製作していて、米国では200ドルするのを、ここでは5ドルで、輸出もしている。
   今では、研究、製作、教育訓練、遠隔医療も手がけており、手術の実務を研修したくて、ハーバード大の学生など、アメリカからも医学生や医師などが、わんさと詰め掛けているのだと言う。

   このような生産やビジネス・システムの構築以外にも、プラハラードは、近著「イノベーションの新時代」で、インドで快進撃を続けている銀行ICICIの金融・バンキング分野での次から次へと繰り出す斬新なイノベーションについても、紹介しており、インドにおける「逆イノベーション」の実態を語りながら、The New Age of Innovationの企業戦略を展開していて、興味が尽きない。
   
   この逆イノベーションは、言わば、クリステンセンの「ローエンド・イノベーション」の国境を越えた変形の一種だと考えられるが、アメリカ市場へ進出して、最底辺の市場を開拓しながらローエンド・イノベーションを追及して今日の大を築いた筈のトヨタが、欠陥商品のオンパレードで窮地に立っているのも、何かの皮肉であろうか。
   ゲマワット教授の「コークの味は国ごとに違うべきか」で展開されている国によって違いのある、フリードマンのフラット化した世界の向こうを張った差別化異質化市場を逆手にとって、その差異の中から生まれた底辺の逆イノベーションが、グローバル市場に攻め入る逆展開の現実は、非常に興味深いと言うべきであろう。

   袋小路に入り込んで、グローバル・スタンダード、デファクト・スタンダードを生み出せず、苦しんでおりながら、相変わらず、先進国市場ばかりを向いて、しかし、オリジナリティに欠ける後追いの持続的イノベーションを続けている日本。
   掛け声だけは、新興市場への事業拡大を歌っている日本企業だが、次世代市場戦略は、当然、成長を続ける高圧経済の新興市場であり、BOP市場に向かうべき筈なのに、経営感覚は、クオリティに五月蝿い国内や欧米等先進国の顧客志向。
   そうであればあるほど、逆イノベーションの趨勢を見誤ると大変だと言う認識は、常に持っておくべきだろうと思っている。

   尤も、ハイ・クオリティ志向で、徹底して高級市場を追求して行くと言う経営戦略が選択肢として当然あり、日本が目指すべきビジネス・モデルの重要な柱であるべきだが、クリエイティビティと高度な感性の求められるもっともっと厳しい世界であり、未踏のブルー・オーシャン市場の開拓である筈なので、更なる挑戦が求められる。
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