熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

塩野七生×アントニオ・シモーネ著「ローマで語る」~母子で語る映画三昧

2009年12月10日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   三省堂店頭で、塩野七生母子が語る映画についてのヨモヤマ対談集がサイン本として出ていたので、早速手にした。
   塩野さんの本は結構読んではいる。とにかく、それなりの準備をして読まないと消化不良になるのだが、五木寛之との対談集を読んでいて二人の話題の豊かさのみならず、期せずして、塩野さんの隠れた側面が見えて面白かった。まして、今度の本は、私生活の一面を表したと言う世代の違った映画制作に携わっていたご子息との映画談義であるから、興味を引かない訳がない。

   映画については、最近あまり劇場には行かなくなったが、昔、若かりし一時期、毎日の如く、3本立ての映画館を梯子して、洋画邦画、映画の良し悪しには関係なく、だぼ櫨のように見ていた時期があり、最近なくなった森繁久弥の社長シリーズなど裏表見ており、先日WOWWOWで追悼放映していた「社長漫遊記」など非常に懐かしかった。
   イタリア映画については、一番印象に残っているのは、ジュリエッタ・マシーナとアンソニー・クイーンの「道」で、私は、どちらかと言えば、西部劇や派手な超大作全盛のハリウッド映画より、人間の奥底をじっくり見つめたしっとりとしたヨーロッパ映画の方が好きであった。

   この対談には、時代の流れで、IT革命の恩恵を受けて、書物と同じように、DVDを駆使して、アーカイブ作品を含めて、年代や国境を越えた広い分野の映画作品について、話題が弾んでいるので興味深いばかりではなく、殆ど知らない映画や監督、俳優などのイメージについても、非常にビビッドに浮かび上がって来て面白い。

   塩野さんの趣味や学識、教養の深さと広さは言うまでもないのだが、この本はどちらかと言えば、ご子息主導の話の展開ではあるけれど、最近の若者事情にも結構造詣が深く、ハリウッド映画製作現場でアメリカ文化文明の洗礼を受けた欧米マルチ視点を備えたご子息と、互角に渡り合って語りながら、年輪の値打ちを垣間見せていて、対談の味を引き出している。

   「カポーティ」が話題になった時、アントニオが、好きではないとコメントすると、「あなたが、作家とは自分の作品を良くするためならば悪魔にさえも魂を売る人種であることを知らないからですよ。人格円満で誰からも好かれる作家では、傑作など書けるわけがないのだから。」などと、作家塩野七生の姿が覗いていて面白い。
   瀬戸内寂超さんが、作家は意地が悪くなければ小説は書けないと言っていたことや、渡辺淳一氏が、あの官能小説は実体験かと聞かれてそうだと答えていたのを思い出した。

   アントニオのアメリカとイタリア両方の映画界を通しての、若くて感性豊かな駆け出しの映画人として語る文化論的なコメントが、芸術性の差が何故生まれるのかなどをも説いていて非常に面白い。
   米伊の映画作りに対する姿勢の違いを語っているところで、映画制作には、撮影以前と実際の撮影、モンタージュ(編集)を始めとする撮影以後に三分割されるが、アメリカは撮影以前に時間をかけるが、イタリアは、一日も早く撮影に入らないと映画そのものが作れなくなる恐れがあるので、一応決まったら早くも撮影に入ると言う指摘など、ビジネス感覚の差をも体現していて興味深い。

   マストロヤンニを語っていて、映画の製作現場は、戦場と似ていて臨機応変なのだが、彼の場合には、事前に脚本を熟読したりして役作りを徹底させず、絶対的な権力を持つ監督を信頼して批判せず、殆ど白紙状態で身を任せたが故に才能豊かな監督に恵まれて成功したのだと、さらに、何故、あれほど女にモテたのかも語っている。
   話題を集めた多くの名映画については勿論、歴史に名を残した名監督や素晴らしい名優たちの成功の秘密や私的な裏話などを縦横無尽に語りながら、20世紀の文化史の一面を紐解いているような感じで、それに、肩の凝らない語り口での対話なので、話題に出てくる映画について、もう一度、見てみようかと言う気にさせてくれる。

   ついでながら、このあたりが私生活の一面を示した点であろうか。
   マドンナ、ジョディ・フォスター、アンジェリーナ・ケリーのようなアイス・レディについての感想で、アントニオが、「ボクは、ボクより優れている女に対して、アレルギーはまったく起きない。男顔負けの仕事をする母親をもったから、免疫になっているのかもしれない。」と語っているのが面白い。
   
   私の場合、これまでに、興味のあるタイトルを、BShi, BS2, WOWWOWなどでDVDに取り溜めて、100以上も映画があるのだが、これを機会に見てみようと思っている。
   幸い、最近のDVDレコーダーはハイビジョン画像なので、ビデオショップで借りるよりは画像が良いので助かる。   
コメント
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