熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

METのプリマ・ドンナたち・・・J.ヴォルピー前総支配人

2007年10月19日 | クラシック音楽・オペラ
   見習い大工として入ってメトロポリタン歌劇場の総支配人に上り詰めたジョセフ・ヴォルピー(Joseph Volpe)の自叙伝と言うか回顧録と言うか「史上最強のオペラ The Toughest Show on Earth」を、読んでいると実に興味深いオペラ歌手やオペラに纏わる話が、次から次へと語られていて、非常に面白い。
   先ほど亡くなったパバロッティやドミンゴなどのスーパースターの話もふんだんに語られているが、面白かったのは、私の知らなかったディーヴァ、プリマ・ドンナたちの裏話であった。

   何かの拍子に新聞を見てビックリしたのは、キャサリン・バトルのメトロポリタン歌劇場からの放逐で、相当、高慢ちきで鼻つまみであった彼女の行状と解雇の決断などについて「バトル賛歌」なる一章を設けて克明に描いている。
   私などオペラやリサイタルの舞台などで、実際に彼女の生の姿に接したのは極限られたハレの舞台だけなので、あの実に美しい歌声と可愛い舞台姿に接しているとファンにならざるを得ないほど魅力的だった。
   彼女の舞台を観たのは、コベントガーデン・ロイヤル・オペラでのオペラとリサイタル、サウスバンクでのリサイタルくらいだが、一度、緊張したのか、伴奏のピアノに手を置いて牝豹のような精悍で極めて鋭い目つきをして歌い始めたのを見てビックリした記憶があるが、歌と行状とは別なので、今でも、彼女の懐かしいCDは時々聞いている。
   
   ルドルフ・ビングがマリア・カラスを降板させたのは有名な話で、ビングの二の舞だと言われたが、METの看板スターで超売れっ子だったが、バトルはカラスとは違うと言って突っぱねた。バトルが、44歳で声の衰えを感じて苦しんだ足掻きだったと同情を示しているが、レヴァインが解雇に最後まで反対していたのが興味深い。
   「愛の妙薬」のリハーサルの時であろう、バトルの態度が馬鹿馬鹿しくなって、パバロッティが、
   「・・・彼女には誰か良い男が必要なんじゃないかね・・・」と言うと、あからさまなイタリアのジェスチュアーをして「私が相手をしてやろうか!」と言ったと言うが、キャシーは皆の前で大物とやり合うほど馬鹿ではなかったらしい。

   ところで、ジェシー・ノーマンの女王然とした態度は分かるのだが、今、一番人気の高いソプラノの一人アンジェラ・ゲオルギューも酷いようで、独裁者チャウシェスクの国で育った所為かも知れないと言っている。
   パリ・オペラ座での「つばめ」の初日を事前連絡なしにキャンセルしたらしいが、本番に来るのかどうかさえ怪しいと言う。
   そう言えば、私が出かけたロイヤル・オペラでドミンゴのカニオとの「道化師」のネッダさえ棒に振り、私の観たのは切符が取れなくてドミンゴ指揮、デニス・オニールのカニオだったが、玉突きで代役の代役がネッダを歌って大変な混乱振りであった。
   実際の舞台では、それほど美人で素晴らしいとは思わなかったけれど、今でもMETは、ゲオルギューを目玉にしているが、また、第二のバトル戦争が起こるのであろうか。

   ヴォルピーは、好ましい魅惑的な舞台人間だったとして二人のソプラノ歌手を上げている。
   テレサ・ストラタスとカリタ・マッティラである。
   ストラタスは、ドミンゴとの素晴らしい映画「椿姫」の印象だけで、残念ながら一度も舞台を観る機会がなかったが、マッティラは、何度かコベントガーデンでオペラを観ている。
   モーツアルトの「魔笛」でのパミーナなどの印象が強かったが、後年、コベントガーデンを訪れた時には、ワーグナーの「ローエングリン」のエルザを歌っていてその素晴らしさに感激したことがある。
   ヴォルピーは、「サロメ」での全裸スタイルの一こまでのマッティラを語っている。リハーサル途中でのニューヨークタイムズ・カメラマンのワン・ショットに逆上したが、TVでは、かたいフィンランドの家族を押し切って、無修正で放映させたと言う。

   ついでながら、オペラでのヌードであるが、「ラ・ボェーム」の画家マルチェッロのモデル、モーツアルトの「ドン・ジョバンニ」でのジョバンニの食卓代わりにドンア・エルヴィラの侍女を全裸で寝かせたり、ヴェルディの「リゴレット」の冒頭のマントヴァ公爵邸での乱痴気騒ぎで男女が絡むシーンなどかなり頻繁に綺麗な舞台を見ることが出来る。
   しかし、実際のプリマ・ドンアが全裸シーンを演じる舞台は限られており、私自身はサロメしか経験がない。
   マッティラと同じ様に、ロイヤル・オペラで、マリヤ・ユーイングのサロメが、「七つのヴェールの踊り」で一枚づつ踊りながらヴェールを取って行くシーンで最後に全裸で舞台に倒れ伏した。知らなかったのでビックリしたが、この舞台は、そのままビデオになって残っている。
   私が最初にロイヤル・オペラで「サロメ」を観た時は、ギネス・ジョーンズが演じていて、この時は、肉襦袢を着て踊っていたが、マッティラが「理由もないのに脱いだ訳でもないのよ!」と言うように、この場合はリアルの方がしっくり行くような気がしている。
   
   手元に埃の被ったルドルフ・ビングの古い本「A Knight at The Opera」と「500 Nights at The Opera」があるので、読み返そうと思っている。
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