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ぽかぽか春庭「おはなしの会」

2012-11-20 00:00:01 | エッセイ、コラム
2012/11/20
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十二単日記2012年秋(10)朗読「おはなしの会」


 11月11日午後、飛鳥山の渋沢史料館から、中央図書館へいきました。図書館3階のホールで、T子さんの朗読の会「大人のためのお話会」が開催されていました。

 ダンス仲間のT子さんは、朗読や合唱、オペラ歌唱のために、声帯を鍛え、腹筋胸筋を鍛えるためにダンスを続けています。9月にはT子さんのオペラアリアを聴き、11月には合唱を聴きました。
 このところ、T子さんづいています。T子さんのこと、大好きなんです。小学校の先生時代校長先生時代、小学生や先生たちに慕われる先生だったろうなあと思います。T子さんを見ていると、私ももうちょっとまともな教師にならにゃいかんなあ、という気になってきます。

 T子さんたちは、図書館で子ども達のための読み聞かせをやっていると聞いていたので、この「大人のためのお話の会」も、朗読かと思ったのですが、会員はみなおはなしを完全に暗記して「語り」として上演していました。
 みな、とてもよい発声で、楽しい民話、笑い話、外国の話、それぞれ味わい深く語っていました。
 T子さんのおはなしは、「くぎスープ」という昔話。ラトルズという出版社が出している「スウェーデンの森の昔話」の中のひとつで、10分くらいの語りです。私ははじめて聞いたお話でしたが、「語り聞かせ」の世界では子ども達に大人気のお話みたいです。
 こんなお話でした。

 昔々、スウェーデンの森の小さな村にとてもけちん坊なおばあさんが住んでいました。とってもケチでしみったれ。ある夜、風来坊の男がやってきて、「一晩だけ、とめてくれませんか」と頼みます。けちんぼうのおばあさんは「ダメダメ」と断ります。
 風来坊は「ベッドに寝かせてくれとは言いません。床でいいから泊めて欲しい」と頼みましたが、おばあさんは「うちは宿屋じゃないよ」とそっけない。
 
 「たのむ。床に寝かせてもらうだけでいい」
 さすがのお婆さんも根負けして、床を貸すことに。おばあさんは念を入れます。「泊まるだけだよ。食べ物はいっさい出さないからね。うちだって食うや食わずさ」

 風来坊は「ああ、腹がへった」とあたりを見回し、「鍋をひとつ貸して下さい」。
 ついついけちんぼ婆さんが鍋を貸してやると、「ついでに、その鍋に、水を入れてくれませんか」
 まあ、水くらいなら飲ませてやらんでもないさ、と、おばあさんが水を鍋に入れてやると、男は、「このくぎ一本あれば、うまいスープをつくれるんだ」とポケットから釘を取り出しました。けちんぼうのおばあさんは、どうしてもそのスープの作り方を知りたくなりました。釘一本でスープが作れるなら、けちん坊には大助かり。

 男は釘の入った鍋をかきまぜています。おばあさんが「どうだね。うまくできそうかね」と聞くと、「ああ、もうすぐできあがりさ。「だが、ここでほんの少し、小麦粉を入れるともっと美味くなる」と、風来坊は言いました。おばあさんはほんの少しの小麦粉でスープがもっと美味くなると聞いて、部屋の奥から小麦粉をとってきました。くぎ一本でおいしいスープを作る方法を聞き出せたなら、これから先は大助かりだからです。
 「おお、ありがたい」風来坊は小麦粉を入れると、またゆっくりゆっくりと、かきまわし、「ああ、もうすぐできあがり。だが、ここでほんの少し、牛乳を入れると、さらにうまくなる」
 おばあさんはほんの少しの牛乳でスープがさらに美味くなると聞き、牛乳を取ってきました。「おおありがたい。」男は、鍋に、牛乳を入れると、ゆっくりゆっくり、かきまわしました。

「どうかね。うまくできそうかね?」けちんぼ婆さんは、くつくつ煮えてきた鍋の中をのぞきました。
「ああ、もう少しで出来あがり。だが、ここでほんの少し、じゃがいもを入れるとますます美味くなる。そうすりゃ公爵様が飲んでも誉めるほどのスープになる」
 おばあさんは、ほんの少しのじゃがいもでスープが美味くなるときき、奥からじやがいもをとってきました。公爵も誉めるほどのスープとは、どれほど美味しいことでしょう。

 「おお、ありがたい」と男は言って、鍋の中をゆっくりゆっくりかき回しました。
 「どうかね。うまくできそうかね」おばあさんが、くつくつ煮え立つ鍋の中をのぞくと、「ああ、もう少しで出来あがり。だが、ここにほんの少し塩漬け肉を入れるますます美味くなる。王様が飲んでもびっくりするほど美味いスープさ」おばあさんは、とうとう奥から、とっておきの塩漬け肉を持ってきました。王様が飲むスープなんて、どんな味でしょうか。
 「おおありがたい」男は、鍋に塩漬け肉を入れると、ゆっくりゆっくり、かきまわしました。
 
 「さあ、もうできあがりさ」勧められて一口飲むと、おばあさんはびっくりしました。「くぎ一本で、なんて美味しいスープだろう」王様だって大満足のお味です。
 くぎ一本で作れるお得で美味しいスープの作り方、これから毎日大助かりだ。おばあさんは、ついつい風来坊にパンとチーズも振る舞って、おまけに、自分のベッドも貸してやりました。
 朝には銀貨一枚、お得なスープのお礼にと、男に渡してやりましたとさ。

 なんともほんわかと愉快なお話でした。T子さんの語り口はあたたかい人柄そのままに、お鍋の味がどんどん良くなっていくような、心に滋養がたっぷりと注ぎ込まれるような美味しいおはなしでした。

のら書店「世界のむかしばなし」よりスエーデンの「くぎスープ」田貞二訳 太田大八絵


<つづく>
コメント (8)
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