20220607
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>2022教室だより梅雨まぢか(4)留学生の受験事情
2022年3月、卒業生はそれぞれの進路に向かって卒業していきました。
まだ学生数が少ない中、2期生は、ネパール人女性は4人とも専門学校へ進学。中国人は、就職ひとり。ふたりが専門学校進学のほかは、私立大学ひとり、国立大学大学院3人。
12名の卒業生が希望の進路へと向かっていきました。
1期生は4人の卒業生が全員国立大学大学院と公立大学大学院進学でしたので、2期生と合わせると、新設小規模校としては、驚異的な進学率です。1期生2期生とも優秀な学生が在籍していたことも理由のひとつですが、進学指導に当たる校長副校長が、定年退職まで大学教授であったことが、大学院の専門論文に何をかけばいいか、大学の「志望理由書」になにを書けばいいか熟知している、ということが一番大きな利点です。
学校の道路に面するガラス戸に進学者の名前を発表してありますので、のぞいてみた近所の人が「東大大学院博士課程進学」などの文字を見て「ここは進学塾ですか。うちの子も指導してもらいたい」と、言ってきたことがあります。「この学校は日本語学校なので、日本人は入学できません」と、お断りしていますが、ことし2022年も、ひとりは東大博士課程に進路決定。もうひとりの東大修士課程に入学希望の学生は、合格するかどうか、今後の準備しだい。
むずかしいのは、一般私立大学への進学です。大学によって学生の合格基準が異なります。学部学科に合わせた指導が必要ですが、進路指導の元教授と名誉教授もすべての私立大学留学生入試事情に通じているわけではありません。
毎年6月と11月の2回実施される「日本留学試験(EJU)」の「総合科目(地歴公民経済など社会一般)」の指導、英語の指導を国立大名誉教授の副校長が引き受けてくれましたが、日本語試験の指導はむろん日本語教師が行います。
留学生は、6月19日に実施される「日本留学試験(EJU)」を受けます。この成績を進路先の大学に提出します。日本語、総合社会などで何点とれたか。大学によって、この点数が違います。日本人学生にとっての「大学偏差値ランキング」が、留学生試験にもある程度あてはまります。
わが校は、Aクラス(日本語能力試験1級合格者と2級合格者)がいちばん日本語学習が進んでいるクラス。「1級に挑戦!目標はEJU日本語450点満点中350点以上」
Bクラス(日本語能力試験2級に挑戦!目標はEJU300点以上)、
Cクラス初中級(日本語能力試験4級合格レベル。2022年4月にはクラス設定なし)
Dクラス初級ゼロスタート(初級5級レベル来年EJU受験)
というクラス設定です。
EJU(日本語留学試験)は、大学によって文系学部と理系学部で要求される科目がことなります。
満点は、
①日本語 400点満点 記述50点満点 合計450点
②総合科目 200点満点(地理・歴史・経済・社会=日本の高校、地歴と政経公民の範囲)
③物理・化学・生物のうち2科目選択 200点満点
④数学1 または 数学2 200点満点
大学留学生入試を受けても、EJUの得点が十分に得られていないと合格が難しくなります。
おおよその合格点めやすは、以下の通り。大学内でも学部によって合格基準の点数が異なるし、年度によって問題の難易度も変わります。一概に「何点以上取れば大丈夫」とは言えないのですが。
世間一般の「偏差値重視」のランクが留学生にあてはまるかどうかは確実ではないのですが、あくまでも、過去に「この点数をとった学生は合格する確率が高かった」というめやすです。
大学ランキングは、おおよそ日本の大学入試「偏差値ランキング」と同じなのですが、留学生教育に力を入れている大学、そうでない大学で、留学生用の大学ランキングに違いがでることもあります。
偏差値だけで「よい大学そうでない大学」の分別はできないのですが、現在の「留学生の大学受験」では、以下のようなランキングが受験指導の目安になっています。(春庭勤務の日本語学校は東京都下なので、東京中心のランキングを見てみます。女子大を除く)。
留学生入試のうち、医学部は別格です。日本の医学部を受験しようと思うような学生は、中国でも高レベルの大学に合格しているので留学してくることはまれ。「高試ガオシー」点数が上がらず、中国で思うようなレベルの大学に進学できなかった学生が留学してくる例が多い。中国で届かなかった高いレベルの大学に、なんとか日本で到達したい、というのが、多くの中国人留学生の希望です。
<国立>
1 旧帝国大学(北海道 東北 東京 名古屋 大阪 京都 九州)+筑波大、一橋大 東工大 東京外大 神戸大
2 千葉大 埼玉大 都立大 学芸大 東京農工大 横浜国立大学 都留文科大
3 <関東圏周辺国立公立> 新潟大 茨城大 群馬大 静岡大 宇都宮大 横浜市立大 京都府立大
4 地方の国立大学
<私立>
1 最難関:慶応大学・早稲田大・上智大・国際基督教大・東京理科大
2 難関(g-march) 明治大・青山学院大 立教大・中央大・法政大・学習院大
3 準難関中堅1(日東駒専):東洋大・日本大・専修大・駒沢大
(大東亜帝国 ):大東文化大・東海大・亜細亜大・帝京大・国士舘.大・國學院大
4 中堅2・大正大・立正大・成城大・成蹊大・武蔵大・獨協大・明治学院大・
5 中堅3・玉川大・武蔵大・東京経済・拓殖大・創価大・明星大・麗澤大など。
日本語の能力が低くても「名前さえ書いてくれれば、とにかく合格」というレベルの大学まであるので、「進学先はどこでも」という留学生にも、日本の受験界は「お金さえあればなんとかなる」
中国富裕層の子弟の中には、親の資産頼みの学生もいるのは事実。
ランキング高い大学が必ずしも留学生にとって良い大学ということにはならないのですが、中国人留学生は、中国で名が知られている大学を志望しがちです。地方の国立大学より、都内有名私立のほうが人気があります。
日本留学試験(EJU)の点数めやす
①ランクA(国立)例)東京大学・一橋大学・京都大学
日本語 380点以上 総合科目 180点以上 理科科目 180点以上 数学1.2 180点以上
①ランクA(私立)例)早稲田大学・慶応大学・上智大学・ICU
日本語 370点以上 総合科目 170点以上 理科科目 170点以上 数学ⅠⅡ 170点以上
東大京大よりはやや低めですが、それでも、450点満点の日本語試験で370点とるというのは難関です。特に作文と聴解が苦手な学生にとっては、文法と語彙だけで300点はとらなければなりません。
②ランクB(国立)例)東京外国語大学・筑波大学・大阪大学
日本語 360点以上 総合科目 160点以上 理科科目 160点以上 数学1.2 160点以上
②ランクB(私立)例)明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学・学習院(gmarchジーマーチ)
日本語 360点以上 総合科目 160点以上 理科科目 160点以上 数学1.2 160点以上
③ランクC(国立)例)横浜国立大学・千葉大学・広島大学・東京学芸大学・埼玉大学・静岡大学、など、東京近郊国立中心
日本語 330点以上 総合科目 140点以上 理科科目 140-150点以上 数学1.2 140-150点以上
④ランクD(私立)日本大学・東洋大学・駒沢大学・専修大学 (日東駒専)
日本語 330点以上 総合科目 140点以上 理科科目 140点以上 数学1.2 140点以上
⑤ランクF(私立)例)・独協大学・成城大学・麗澤大学
日本語 300点以上 総合科目 140点以上 理科科目 150点以上 数学1.2 150点以上
ある会社のエントリーシート受け付けの内部資料に「大東亜以上」と記載されていたということが外部に漏れて大騒ぎになったことがあります。
大東亜というのは、大学ランキングでいう略称「大東亜帝国」(偏差値60-65レベル)を指します。大東亜以下の大学生がエントリーシートを提出してきても「すでに応募は締め切りましたので、受付できず、申し訳ございません。貴下の今後のご活躍をお祈り申し上げます」という「お祈りメール」が来るのみ。このお祈りメールを受け取った学生の友人が「応募締切ました」というあとから応募したところ、受付けOKでした。有名校の学生だったからです。これを知った受け付け不可の学生が調査を依頼し、「大東亜以上」という受付ルールが発覚したのです。
このような日本社会の現実を知ってか知らずか、とにかく留学生の希望は「有名大学」の一点張り。
自分の将来を見つめて、自分の適性に合った大学を探そう、というより「なんでもいいから中国の両親が名前を知っているような有名な大学へ入りたい」というのです。
春庭勤務校では、校長(元私立大学教授)と副校長(国立大学名誉教授)が両輪となって「進路指導センター」を設立し、進学指導も引き受けてくれるので、春庭は日本語指導に専念できるのでありがたいです。
他校では、日本語教師みずからが進学指導、進路カウンセリングまで行っているということを漏れ聞きますので、わが校の進学指導、日本語教師はEJUの作文や文法試験対策に集中できます。
旧暦端午の節句の日、太陽暦太陰暦について講義するHALセンセ
「大学・大学院への進学」を第一目標に掲げる日本語学校は、今や「どこの大学大学院に何名合格させたか」が問われる時代となっています。
受験競争に加担するのがいやで中学校国語教師をやめ、大学留学生センターの日本語教師として30年すごしてきたのに、日本語学校教師になったら受験騒動に直面することになり、いやおうなしに1点2点を底上げしようとやっきになっています。
昨年当校で実施して留学生に好評だった「日本文化を知る活動」。
江戸東京たてもの園でオリエンテーリングを実施したり、「夏祭り」を開催してお店屋さんごっこを楽しんだりの活動、今年は中止のようです。なによりも第一に「受験指導」を学校の第一目標とするため、、、、。
「ダーツ屋」や「釣り堀」の店を出して遊ぶこと、会話の勉強にはなりましたが、受験勉強にはならず、、、、、ということみたい。私としては残念です。進学希望の留学生にとって、日本ですごすことの第一目標は「希望の大学大学院に進学すること」とは思いますが、「仲間とともに日本で楽しく有意義な時間をすごした」という思い出ができることも大切なことと思っているのですが、私が学校経営者じゃないので、意見申し上げることしかできず、決定権はありません。
楽しかった2021年夏の「夏祭り」
いずれにせよ、2023年3月卒業の15名、2024年卒業の15名が良い進路を選べるよう、日本語の上達を第一目標にして、にっぽにあニッポン語教師春庭、老骨鞭打ってがんばります。
<おわり>